4-3

「あの、いきなりで失礼なんですが」

 杉浦刑事が研究室から出ていくと、乗田刑事が唐突に言った。

「愛染先生と清水先生はどういうご関係なんですか? お二人ともいい年をして独身のようですが、個人的なつきあいでもあるんですか? 愛人関係とか?」


「な、な、な、なんてことを!」

 私は憤然として椅子を蹴って立ち上がった。

「バカなことは言わないでください!」


 しかし、乗田刑事はチンチラを思わせる顔を私に向け、女子高生みたいな口調で「違うんですかあ?」と言った。


「違います!」

 私は頭がかっかとして、それ以上なにも言えなかった。

 それで愛染に文句を言ってもらおうと振り返ってみると、彼女は小癪こしゃくにもにやにや笑っているのだった。


「困るなあ、刑事さん」

 と愛染は言った。

「清水君を無駄に怒らせないでくれたまえ。彼にはそうした冗談は通じないんだ。なにしろ彼は、僕のことを歯医者の次に嫌っているんだからね。あなたは僕らが独身でいるのを不審に思っているようだが、僕が結婚していないのは婚約者を事故で亡くしたからだよ」


「え? 本当かい?」

 私は驚いて愛染の顔を見た。


 愛染はため息をついて言った。

「なんだい、清水君。そんなロマンティックな過去は僕には似合わないといった表情だな」


「いや、そういうわけでは……」

 あわてて私がそう言いつくろうと、愛染は苦笑した。


「お二人は」

 乗田刑事は私たちの会話を無視して質問を続けた。

「これまでに数件の事件を解決に導いていますが、それは趣味なんですか? 偶然、事件に遭遇したというには多過ぎますよね?」


「たしかに多いね」

 愛染はにやにやして言った。

「そういう意味では清水君は名探偵の素質があるんだ。彼は行く先々で事件に巻き込まれる」


「人聞きの悪いことを言うなよ」

 私は顔をしかめて言った。

「事件に遭遇したのは2度だけだよ。あとは人の体験談を君に話したんだ。そのうちいくつかは神奈川県警の野崎から聞いたものだ。――君だって知っているだろう?」


「そうだっけかな?」

 愛染は意味ありげな笑みを浮かべてとぼけてみせた。


「先生方はいずれも専門は宗教史ですよね?」

 乗田刑事は再び私たちの会話を無視して質問を続けた。

「法学とか犯罪学とかではないのに、どうして事件に興味をもつんです?」


「別に僕らは事件に興味があるんじゃないよ」

 愛染は女刑事を正面から見据えて言った。捜査一課の女刑事も男装の麗人に見つめられるとたじろぐらしく、頬を赤くしてうつむいた。

「僕が自信過剰で傲慢なものだから、清水君は僕の鼻をへし折ろうと虎視眈々こしたんたんなのさ。それで難事件を僕に突きつけて、お前には真相はわからんだろうと言ってくるんだ。残念ながら、彼の言うところの難事件は往々にして論理的思考の欠如により不可解に見えるものが多いのだがね」


「そ、そういうことですか……」

 心なしか乗田刑事の話し方も変わったようだった。


 その後、なんとなく気まずい沈黙が研究室を支配した。

 何か言わなければ、そう思っているところに、杉浦刑事が戻ってきた。

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