点描
戯画実(ぎがみ)
第1話 檜枝岐(ひのえまた)
「檜枝岐(ひのえまた)」
祭りは過ぎた。
シーズンはずして出掛ける。 陽気だけは良い。
檜枝岐歌舞伎の舞台があるこの辺りは時季になると町の人口の何倍もの人が
集まるらしい。
人が交互通行するには狭い鳥居をくぐると、路地のような参道。
右側に歌舞伎の会館らしき建物。 左には小さなお堂に、
縁切りと良縁のはさみが山積みに、さびている物からまだ光りの残る物まで
積み上げられ、ぎりぎりの均衡で危うく置かれている。
つながる縁、良縁は喜ばしい。
切りたい縁 切りたくない縁 切ってはいけなかった縁
切りたくても切れなかった縁
はさみひとつで解決できるなら簡単でいい。
ここはパワースポット、山積みのはさみが、人の思いが重みが、
ゆらゆらと見えてくる。
奥へ進む。 昼間でも薄暗い広場。
朽ちかけて見えるほど、風通しの良い剝き出しの舞台。
広場全体が客席、倒れそうな樹木に間をぬうように石の段々席。
照明に浮かび上がる舞台と大勢の人々の様子を想像してみる。
石段に座り、写真を。 ファインダーをのぞくと人々の賑わいを感じる。
日が斜めから差し込んで、舞台の暗さを際立たせる。
戻り道、向こうに渡り、人と目が合う。
青年。 小さく会釈する。 私もする。 瞳が会話する。
肩越しに目で追いながらも互いに、それぞれの道をいく。
気になって 振り向く。 青年はいない。
鳥居の中へ入って行ったのか、人影はない。 フッと消える。
青年はどこへ。 目を合わせ、瞳の会話。 青年はどこへ。
檜枝岐 旅の途中で振り返る
淡い思いの 面影かさね
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