第二十三話 初勤務
「失礼します」
ノックして部屋に入ると、相変わらず皆がこちらを向いた。ほとんどがすごい敵意ね。
「おお、おはようございます。ネロ」
「おはようございます、ブレーメ課長」
挨拶をしてくれるのも、課長だけね。少し哀しいが仕方ない。
「早速今日から働いてもらうんだけれど、君は第3班に所属してもらうよ」
課のなかでも、いくつかの班へと分かれる。いわば直属上司が誰になるかという問題だ。さて、一体誰なのかしらね。
「こちらがきみの直属の上司となる人です。ゼニス班長」
ゼニスさんがこちらへ振り向く。思ったより若いわね。失礼だけれど。私と5歳ぐらいしか変わらなそう。でも、この年で班長ってことは相当優秀なのでしょうね。
「これからよろしくお願いします、班長」
私は念の為挨拶をしておく。向こうがやらないからって挨拶しないのは失礼だしね。
「ああ、よろしく頼む」
あら、想像と違って、しっかり反応してくれたわね。意外に思って、私は顔を上げる。てっきり私を敵視するものが多いかと思ったから。
「それでは頑張ってくださいね、ネロ」
ブレーメさんが励ますように微笑んで去っていった。どうやら昨日お願いし通り、見守ってくれているらしい。ありがたい。
ブレーメさんが去ったあと、その場に沈黙が訪れる。なんだか少し気まずいわね。
「あの、班長。私は何をすればいいですか」
「まずは班のなかで状況を共有する。始業まで、そこのマニュアルを見ておくといい」
「了解しました」
マニュアルね。私はパラパラと読んでいく。思ったより、総合課って仕事が多いのね。仕事内容が10章にまで、大まかに区切られて、その中でも細かく説明されているし。厚さとかちょっとすごいわ。正直、雑用係って感じ。だから、あまり課の中じゃ、地位が高くないのね。それで私を押し付けられたってわけなのかしら。でも、ブレーメ課長が優しすぎたっていうのもあるのかも。
「そろそろ始業時間だ」
「わかりました。あの、栞ってありますか?途中までしか読んでないので」
「付箋があるから、貼り付けておけばいい」
「ありがとうございます」
私はペタッと付箋を貼り付ける。まだ4章ぐらいまでしか、読んでいないのよね。全部で10章とか読めたもんじゃないわ、まったく。興味のない書物ほど、頭に入ってこないものもないし。なんだか、班長の視線を感じる。
「なにかありましたか?」
「・・・、いや、なんでもない」
なにか言いたげな顔してたけれど、気の所為だったかしら。それにしても、もう始業時間が近いのだけれど。他の人が来ないわね。そんなことを思っていたら扉が開いた。
「おはよううございます、ゼニス班長」
「ああ、おはよう。今日から君と同僚になるサザンだ」
「よろしくサザンって、、、サザン!!なんでお前なんかがここの班にいるんだよ」
ああ、班員って貴方だったのね。ジャックさん。初日にすごいあからさまに敵意を向けてきた人。
「今日からよろしくお願いします。ジャック・ロシュタインさん」
「お前、名前もつけることはは許してないぞ!俺のことは先輩なんだから、家名だけで呼べ」
「ロシュタインさんでよろしいでしょうか」
「ジャック、いい加減にしろ。これから同僚となるのだから、しっかりやれ」
ゼニス班長が言ってくれた。公正な人なのね。
「でも、なんでこんなやつと・・・」
ジャックさんは途中で視線を感じて振り返る。そこにはこちらに笑みを浮かべているブレーメさんがいた。ちょっと笑顔が黒い。ジャックさんはどうやらブレーメ課長には弱いみたい。一気に静かになった。
「ああ、わかったよ。仕事はやってやる」
「ジャック。あんた、なにやってるんだい。さわがしい」
もう一人女の人がドアから、入ってきた。見たところ、純血の魔族かしら。王都ではあまり見なかったから、少し新鮮ね。
「こいつが俺達の班員になるんだってさ、副班長」
「よろしくお願いします、ウィッチ副班長」
一応家名で読んでおいた。そうすると、彼女はずんずんと近寄ってくる。
「あのね、ネロちゃん。私のことは名前で呼んでほしいの。ラリサってね。家名で呼ばれると、まるでネロちゃんは私と仲良くなりたくないって、言われている気がして。あ、わかってるわよ。そんなつもりはないって。でも、あまり人との距離感を間違えないようにしてね。苦手なのかもしれないけれど」
正直に一番、めんどくさいタイプ。表向きは友好的だが、中身ではこちらを蔑んで、下に見ている。さっきのジャックくんのほうがよほど扱いやすいわね。事情は知っているといえど、良くは思わない。小物感が半端ないわね。とはいえ、これからうまくやっておく必要があるから穏便に。
「すみません、ラリサ副班長」
「いいのよ、別にわかってくれれば。いままでろくに注意もされなかったのでしょうし」
なんというか、いちいちとげがあるわね。
「おはようございます、班長」
「おお、おはよう。スルズ」
もう一人、女性が入ってくる。私と同い年くらいの子かしら。きれいな人。アイスブルーの瞳に氷が透けているような色の髪。
「紹介するよ、今日からうちの班の一員となる、サザンだ」
「知ってる。よろしく」
こちらに少し顔を向けただけで、自分の机にすぐ向かっていった。敵意は感じなかった。この班の中で一番マシな気がする。昨日宣言したものも、少し心配になってきたわね。
<お知らせ>
とてつもなく更新が遅れてすみません。また、更新は再開していきますので、たびたび見に来ていただけると幸いです。以前書いていた、スマホの故障は結局買い換えることで落ち着きました。今回はしっかりフィルムも貼っておきます。故障は落として、画面がバキバキになったのが原因なので。最近物が落ちる音が怖いです。
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