第十四話 いざ『鳩の止まり木亭』へ
「おとうさ〜ん、ただいま」
ミシェルが扉を開けて、食堂に入っていく。屋台のおじさんの言う通り、中々の人気店のようね。
「ミシェルちゃん、今日もかわいいぞ!」
「看板娘だ」
「買い物の帰りかい?いつもより遅かったな」
中は多くの人で賑わっていた。みんな常連さんのようで、ミシェルちゃんに親しげに話しかけてくる。
「ただいま!ケンおじさん、お父さんはどこにいる?」
「たぶん、厨房のほうじゃないかね。さっき、ミシェルの帰りが遅いって心配していたぞ。俺も少し心配してたんだ。無事で良かった」
ミシェルは礼を言って、厨房へと向かった。私もついて行った。それにしてもこの食堂は冒険者が多いらしい。武器を持っているしね。これは料理の量と質にますます期待ね。
厨房に行くと、めっちゃ筋肉隆々なおじさんがいた。
「お父さん!ただいま」
ミシェルが呼びかけると、おじさんが振り向く。いい人そうな雰囲気だ。
「ミシェル!!遅かったじゃねえか?一体どこにいたんだ」
「え〜と、実は・・・ちょっと暴漢たちに襲われて」
食堂が静まり返る。さっきのを見たところ、ミシェルちゃんとここにいる人々は、たいてい顔なじみね。中には彼女を小さいころから見守ってきた人もいるだろう。そんな大事な看板娘が襲われたとなったら、こうなるのも当然ね。
「本当か!?」
「どいつだ!おじさんが締めてくる」
「殺す・・・」
「大丈夫なの?」
みんな一気に騒ぎ出す。
ミシェルちゃんのお父さんも顔面蒼白になりながら口を開く。
「お前、襲われたって、、、大丈夫なのか!?」
「大丈夫だよ!後ろにいるネロさんが助けてくれたから」
今度は食堂中の視線が私に集まる。
「はじめまして、ネロです。お嬢さんを襲ったバカどもは、自警団に突き出しておいたのでご安心を」
「そうだったのか。まさかお前、あの道を通ったのか?」
「うっっっ・・・」
「まあ、今はいいけど後で説教だ。え〜と、ネロさんとか言ったか?うちの娘を助けてくれてありがとうな。お礼と言っては何だが、うちの店の料理を食べていかないか?もちろん奢る」
「よろこんで!」
「おお、たのしんでくれよな!客のみんなも今聞いた通り、ミシェルは無事だ。席に戻りな!」
客たちも安心した顔をして、それぞれ己の席に戻っていく。ミシェルちゃんは本当にみんなから可愛がられているのね。
「じゃあ、こちらの席にどうぞ」
ミシェルがすかさず案内してくれる。
「このメニューの中から選んでくださいね」
う〜ん、悩むわね。本当に多くのメニューがあるらしい。よく見る『白身フライ定食』や珍しいモンスターを使った『レインボーサモンの塩焼き』。でも、、、今日の気分は肉ね。
「肉料理で一番オススメのって何?」
「う〜ん、おすすめはやっぱりこれですかね。スペシャル=ビックダックハンバーグ定食。でも、ネロさんみたいな女性の方には多すぎますね・・・一人ですし」
「ボリュームがあるの?」
「はい、それこそあの人達が食べているものです。見ての通り、相当な量です」
向こうでは2人くらい大柄の冒険者たちが一生懸命、食べ物を食べていた。確かにすごい量のようで美味しそうだった。
「おすすめしておいて、なんですが辞めとおいたほうがいいかも・・・」
「それにするわ」
「えっ!!!あれですよ!」
「大丈夫、こう見えても食べる量には自信があるわ」
こう見えても、学園の大食い大会では常に上位にランクインしていた。よくベスに「なんで太らないの?」と不思議がられていたな。
「だから、お願いね」
「わかりました、食べきれなかったら言ってくださいね。お父さん、スペシャル=ビックダックハンバーグ定食いっちょう!」
「はいよ〜!」
「おまたせしました!スペシャル=ビックダックハンバーグ定食です」
大きな音を立てて、皿が置かれた。真ん中には大きなハンバーグ。主役だ。その主役を取り巻くようにみんな大好きなフライドポテト、エビフライが置かれていく。もちろんその近くにはサラダがある。それをひいてもかなりのカロリー爆弾だ。
「おっ、お嬢さん、その量食えるか?」
「余ったら俺にくれよ〜?ソレ絶品だからなあ、高いから中々食えないし」
「美少女の余り物だったら喜んで食うぞ!」
周りの人達が騒ぎ出す。セクハラ発言した人はあとでミシェルちゃんに怒られていた。美少女とよばれてまんざらでもないけれどね。
「じゃあ、いただきます!」
まずは主役のバンバーグから。こういう時に主役は最初から食べる派だ。
「う〜ん!!」
ほっぺが落ちそう。濃すぎず、薄すぎない自家製ソースに新鮮なビックダックの肉。
これは上手いと言う他ない。ちなみにビックダックとはCランクに位置する鳥型の魔物だ。でも、鳥のくせして飛ぶことはできず、風魔法を使った高速ダッシュで蹴りをかましてくる厄介な魔物だ。だから、流通量はそれほどでもない。あと、臭みはあるものはあるので調理に技術が必要だから、珍しいと言えるわね。
このビックダックは全く臭みがない。噛めば噛むほど肉汁の旨味が溢れてくる。ご飯と食べるのも最高!肉とご飯は古来から最高の組み合わせね。
いつのまにか私は料理に夢中になっていて、周りの人たちの呆然とした顔に気づくことはなかった。
「ごちそうさまでした!」
「嘘だろう・・・?あの量を食べきったぞ」
「あんな小さいお嬢さんが、あのスピードで?」
「すごっっっっ」
「すごいですね・・・。大の大人でも食べ切れないのに・・・」
ミシェルちゃんが皿を下げにやってくる。
「だから言ったでしょう?私いっぱい食べるって、魔術師だし」
こんな食べるのにもちゃんと理由がある。私が魔術師だからだ。ある人が剣を振るとなった時、必要なエネルギーに対し、魔術の使用に必要なエネルギーは約1.2倍だと言われている。だから、魔術師は基本的に食べる量が多い。今日はたくさん魔術を使ったからいつもより食べたのね。
「いや、、、魔術師だからってそんなには食べない気が・・・?」
うっ、痛いところ突かれた。
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