はじめての冒険っぽい何か

「――朝早くからだから眠い……」

『相変わらず朝弱いのね、かわいいけど強くなっておく事に越した事はないわ』

「わかってるけど……」


 アレックスはまだ城の中庭に足を踏み入れたばかりで、太陽の光に反射する石畳をぼんやり眺めていた。連日ねか訓練で体中が筋肉痛だったが、それも悪くない。心なしか、昨日より少しだけ剣を握る手が軽く感じられる。


 しかし今日はいつもとは違っていた。

 昨日――冒険者として登録が終わった後、リリアにいきなり明日は1日空けろと言われたのだ。


「ん、時間より早くに来てる。偉い」

「リリア」


 背後から聞こえた声に振り向くと、リリアがいつも通り無表情で立っていた。肩には小さな肩掛け袋、手には地図のようなものを持っていた。


「今日は何する予定? なんかとりあえず経験させるとは言われたけど……呼び出した理由が分からなくて……」


 アレックスはやっと冒険者として登録を終えたばかりで、まだ見習いの身。呼び出された理由について聞いたらとにかく試験をやる前に冒険者としての最低限の基礎を積ませるために、本当のクエストに同行してもらうつもりらしい。


「今日は君と二人で簡単なクエストに出かけてみようと思う」


 リリアの口調は淡々としている。まるで日常的な確認事項を言うかのようだ。だがアレックスには、彼女の言葉に微かな期待が含まれていると感じていた。


 ただそれでも不安なものは不安だった。


「クエスト? 俺、まだほとんど経験ないけど大丈夫かな……」

「大丈夫。今日は初めてのクエストにしては簡単な内容だから、経験を積むにはちょうどいい」


 リリアは無表情のまま、ギルドからもらった依頼書と地図を広げる。


「小さな村で家畜が攫われた。犯人と攫われた家畜の安否を確認して、生きていたら取り戻すのが仕事」


 アレックスは目を丸くする。


「え、攫われた……? ゴブリンが現れたとか……?」

「その可能性は高いけど、犯人はわからない。現場行って調べてみないと」

『また随分と初歩的なクエストね、まぁアレックスが初心者も初心者だから、これぐらいがちょうどいいけど』


 背中にいるマルティアナの声が、アレックスの頭の中にだけ響いた。彼女は懐かしむように言ったが、いきなり不穏な空気を出し始める。


『にしてもこのボクっ娘エルフと2人きりだなんて……。よりにもよってアレックスの股間に響いてそうなこの娘とタッグなんて……!』

(下品な言い方やめろ! あと響いていないし!)

『私にはお見通しよ、貴方にプライバシーなんて存在しないわ!』

「最悪だこいつ、もう魔剣だろ」


 思わずアレックスは腰の鞘に手をかけてマルティアナをより奥に押し込み黙らせる中で、リリアは淡々と地図を広げ、村までの道順を示す。


「村までは徒歩で40分程度。森を抜ける必要があるけど」

「……よし、行こう」


 アレックスは勇気を振り絞る。

 まだ見習いの自分が今日初めての現場に立つ。だがリリアが一緒ならなんとかなるだろう。


「ちゃんと動きとか見るから、基本的にはアレックスに任せるよ」


 何とかなる――はず。


 ◆◆◆


 村は非常に長閑で、揉め事や厄介ごととは無縁そうな場所だった。小鳥の声と風に揺れる木の葉の音だけが辺りに響き、非常に落ちついた雰囲気だが、一部違った場所があった。

 それは家畜小屋の前だ。

 柵が壊された跡があり、土の上には蹄の跡と何かに引きずられたような筋が残っていた。被害の跡が非常に生々しい。


「……ここが、依頼された村か」

「うん」


 アレックスが辺りを見回していると、少し離れた場所から声がした。


「リリアさーん!」


 声の方を見ると、柔らかい雰囲気の女性が駆け寄ってきた。長い黒髪を後ろで結び、少し眠そうな糸目で、それでもどこか人懐っこい笑みを浮かべている。


(あの人が依頼人かな……?)


 アレックスがそう思っているとリリアは軽く手を挙げて応じる。


「おはようございますシルさん」

「まあまあ、わざわざありがとう。あら、その子は……例の?」


 女性の視線がアレックスに移る。糸目の奥に浮かぶ柔らかな眼差しは、まるで年の離れた弟でも見るかのようだった。


「随分と可愛らしい男の子ね、あらあら」


 頬に手を添えて、くすっと笑う。


 ――その瞬間。


『……なんてどすけべな依頼人! 子どもを愛でる顔で男を値踏みするなんて……! あらあら可愛いなんて、もう完全に捕食者の目よ!』


 背中からマルティアナの毒舌が炸裂した。


(ちょっと待て! 今のどこがどすけべなんだよ!)

『分かってないわねアレックス。女の“あらあら”はね、無垢を装った危険信号なのよ!』

(落ち着けっての! 勝手に決めつけるな!)


 思わずアレックスは小声で突っ込むが、女性には聞こえていないらしい。リリアは依頼人に事情を尋ねている最中で、アレックスの独り言に気づく様子もない。


(このまま依頼は大丈夫なのかな……)

『むー!むー!』

 

 アレックスは鞘を押し込み、マルティアナを無理やり奥に封じながら自己紹介する。


「……えっと、はじめまして。俺はアレックス、今回からリリアさんと一緒にクエストに同行する事になってまして――」

「大丈夫、アレックス君のことはリリアさんから大体聞いてるわ」

「ぶい」


 リリアは無表情でピースマークを作る。

 なるほど、随分と話がスムーズなわけだと感心する。


「立ち話もあれですし……ひとまず私の家に来てください、そこで詳しく話しますので」


 そう言うシルの後を、リリアとアレックスの2人はついて行った。マルティアナはギシギシと刃を揺らしていた。


「――さ、どうぞ中へ」


 シルの家は村の中でも大きめの造りをしていた。木材をふんだんに使った素朴な家屋だが、掃除が行き届いており、窓辺には鉢植えの花が並び、柔らかな陽射しに揺れている。


 玄関をくぐると、草木や乾燥ハーブの香りがほのかに漂った。アレックスは思わず「……落ち着くな」と小さく呟く。

 居間へ通されると、テーブルの上にはシルが用意した焼き菓子と湯気の立つ紅茶が並べられていた。


「わざわざ来ていただいたから、せめておもてなしを」

「……ありがとうございます」


 アレックスは姿勢を正して礼を言い、紅茶を口に含む。ほのかな甘みと香ばしさが口の中に広がり、思わず表情が緩んだ。


「美味しい……」

「そう? よかったわ」


 シルは糸目を細めて笑う。その柔らかさにアレックスは少し照れくさくなり、顔をそらす。


『いいなぁ……私も飲みたい』


 マルティアナが寂しそうに呟くと、アレックスは何だか申し訳ない気持ちになった。剣だから飲める訳ないのは理解しているが、それでも何とかしてやりたいと思った。


 やがて一息ついた頃合いを見計らい、シルは表情を少しだけ曇らせた。


「……それで、本題なんだけど」


 声の調子が柔らかさを残しながらも、わずかに重くなる。アレックスも自然と姿勢を正した。


「家畜が攫われたのは二日前の深夜だったの。小屋の周りには侵入者が入れば分かるよう、鈴を吊るしていたのよ。でも……」


 シルは首を横に振る。


「音は一切鳴らなかった。気づいたのは……突然、大きな破壊音がした時。慌てて外に出たら、もう小屋は壊されていて……中にいた家畜の牛は全ていなくなっていた」


 アレックスは息を呑んだ。柵が壊され、地面に残っていた跡を思い出す。あれだけ荒々しい破壊をしておいて、なぜ侵入時に音がしなかったのか。


「普通の泥棒や獣なら、そんな器用な真似はできないはず……。それに複数の牛を攫うって簡単じゃない……」

「だね」


 リリアが低く頷く。無表情のままだが、瞳の奥に分析の光が宿っていた。


「いきなり家畜だけが消えていた――そういう状況から考えれば、転移の類いを使われた可能性が高い」

「転移魔法……? でもそんな高度な魔法を、ゴブリンが使えるわけないよね?」


 アレックスの素朴な疑問に、リリアも「そう」と短く返す。


「だからこそ調べる必要がある、普通じゃないから。……それに、ゴブリンならもっとわかりやすい痕跡がある。鈴も無事だったなら、何か別の仕組みが働いたと考えるべき」


 彼女の声は相変わらず平坦だが、その言葉の裏に危機感が潜んでいるのをアレックスは感じ取った。


『転移だなんて、ただの家畜泥棒にしては贅沢ね。これは裏がありそうね』

(そう思う?)

『ええ、多分』

(多分かい)


 頼りになるのか、ならないのかよくわからない物言いにアレックスは突っ込む。そんな中でシルは深刻な表情のまま話を続けた。


「家畜はこの村の生活の支えなの。乳も肉も、作物を運ぶのも全部彼らに頼っているわ。だから……いなくなると本当に困る。支援金を受け取ろうにも、ただ“いなくなりました”では認められない。せめて、何があったのかはっきりさせなきゃ……」


 その声はだんだんと震え、糸目の奥に隠れていた悲しみがにじみ出る。やがてシルは立ち上がり、リリアとアレックスの前で深く頭を下げた。


「どうか、どうかお願いします……!」

「!」


 アレックスは言葉を失った。ギルドで受けた“初めての依頼”――それが誰かの生活を支えるものだという現実に、胸の奥がじんわりと熱くなる。


「……わかりました」


 リリアが短く答える。その声はいつも通り淡々としているのに、不思議と強い安心感を与えた。


 ◆◆◆


 村外れの草原は、昼下がりの陽射しを受けて静かに揺れていた。のどかな景色だがその一角に残された破壊の痕跡は異質だ。柵の破片、荒れた土、蹄の跡。アレックスはしゃがみ込み、改めて現場を見渡した。


「……やっぱり、普通に荒らされたって感じじゃない」


 リリアは無言で頷くと、両手をそっと前に翳した。彼女の細い指先から淡い光が滲み出し、周囲の空気が微かに震える。


「何してるんだ?」

「魔力の残滓を探してる。転移の痕跡があるなら、まだ残ってるはずだから」


 そう言った瞬間、アレックスの目には何もなかった空間に、かすかな光の筋が浮かび上がった。それは小屋から離れるようにして、森の奥へと伸びている。


 目には見えない魔力の動きを可視化したのだ。


「……すごい……!」

「でしょ?」


 リリアがふふんと胸を張る。無表情のままなのに、なぜか「ドヤ顔」をしているのが伝わってくる。


「ボクはエルフだからね。魔力に関しては人より敏感だし、下手な魔法使いよりも詳しいんだよ」

「そ、そうなんだ……」


 アレックスは素直に感心する。エルフの能力については本や噂でしか知らなかったが、こうして実際に目の当たりにすると説得力が違う。


『……なによ、ドヤ顔エルフ。魔力の残滓を読むくらい、私でもやろうと思えば――』

(やろうと思えば?)

『……やろうと思えば!』

(できるとは言わないんだな)

『うるさい!』


 鞘の中から拗ねたような声が響く。アレックスは溜息をつきつつも、リリアの後を追った。


 光の筋は森の奥へと続いている。二人は枝を払いながら慎重に進む。やがて鬱蒼とした木々が途切れ、岩肌が剥き出しになった場所に出た。


「……洞穴だ」


 岩壁に口を開けた暗い穴。ひんやりとした空気が漏れ出しており、まるで中から何かが息をしているかのようだった。


 だが、その前に広がる光景にアレックスは息を呑んだ。


「な……!」


 地面には数体のゴブリンの死骸が転がっていた。緑色の肌は切り裂かれ、黒ずんだ血がまだ生々しく残っている。腐臭は薄い。どうやら死んで間もないらしい。


「これ……全部殺されてるのか?」

「うん。しかも……」


 リリアは片膝をつき、死骸の一つを観察する。指先で切り口をなぞり淡々と呟いた。


「焼けこげた痕と強い力で引き裂かれた痕がある、単なるゴブリン同士の争いじゃない」


 その声には、普段の平坦さとは違う緊張が混じっていた。アレックスも思わず聖剣の柄を握り直す。


『へぇ……ただの洞穴じゃなさそうね』

「……!」


 アレックスの心臓が高鳴る。けれどマルティアナの言葉は冗談ではないのだろう。アレックスは震える指で、彼女を鞘から少し抜いた。金属音がわずかに響き、刃が青白い光を帯びる。


「アレックス」

「……ああ、わかってる」


 二人は視線を交わし、無言で頷いた。


 ◆◆◆


 洞穴の中は外の光を一歩で断ち切るほどの暗さだった。湿った岩壁からは水滴が落ち、足音と共に反響する。


 奥へ進むほど、血の匂いが濃くなる。鉄のような、鼻の奥を刺す重い臭気。アレックスは思わず口元を押さえた。


「……っ、うぇ……」

「気をつけて。まだ奥にいる」


 リリアは低く呟き、腰に佩いた細身の剣を抜いた。月光のように澄んだ刃――エルフ特有の技術で鍛えられた刀身だ。さらに掌に光球を生み出すと、洞穴の奥を淡く照らした。


 その瞬間。


「……っ!?」


 揺らぐ光の中に、不気味な影が浮かび上がった。大きな塊が動く。ガリ、ガリ……骨を噛み砕く音。照らし出されたのは、血塗れの牛の死骸に貪りつく影だった。


 それは、ゴブリンのはずだった。だが常識で知る姿とはまるで違う。

 肌は煤けたように黒ずみ、血走った眼は獣のように爛々と輝いている。胸や肩にはクリスタルのような異物が食い込むように突き出ており、そこから黒い靄が漏れていた。


「……見たことのないゴブリンだね」


 リリアは平坦な声でそう告げるが、剣先はぶれない。冷静に状況を見極めながらも、その瞳には緊張が走っていた。


 一方アレックスは、体の奥から突き上げてくる感覚に足を止めた。


 ――それは本物の殺意だった。


 異形のゴブリンの視線が自分に向いた瞬間、頭から冷水を浴びせられたように体が強張る。膝が笑い、剣を握る手が汗で滑りそうになる。


『ほらアレックス、立ち止まらないの! 相手はこっちを殺す気でいるわよ!』

(わ、分かってる……! けど、体が……動かない……!)


 ゴブリンが獣の咆哮を上げ、血に濡れた口を開いた。耳を裂く叫びと共に、岩壁が震える。


「アレックス!」


 リリアの声が響いた。その瞬間、アレックスの体に熱が走る。胸の奥――握る聖剣マルティアナが脈動する。


『怖い? 当然よ。でも、力は貴方の手にある! 踏み出せ、アレックス!』


 恐怖と混乱の渦の中で、アレックスは必死に息を吸い込んだ。震える膝を叱咤し、足を前へと踏み出す。


「……っ、うおおおおおっ!」


 声を振り絞り、聖剣を構える。

 青白い光が刃を包み、洞穴を照らした。


「グ?」


 異形のゴブリンがこちらへ振り向く。その目には明確な敵意と、獲物を狩る狂気が宿っていた。


 ――初めて向けられた“本物の殺意”。


 怯えながらもアレックスはそれに立ち向かう。


「ギャッギャッ!!!」

 

 異形のゴブリンが、血走った瞳でアレックスに飛びかかってきた。それに合わせるように、アレックスの体が自然と動いた。いや、動かされたのかもしれない。胸の奥でマルティアナの脈動が強くなり、刃が導くように振り抜かれる。


「はあああっ!」


 青白い光を纏った聖剣が、音もなく閃いた。

 次の瞬間――ゴブリンの体は、驚くほどあっさりと両断されていた。

 まるで硬い肉や骨の抵抗すら存在しないかのように、刃はするりと通り抜け、血も声も置き去りにしたままゴブリンは崩れ落ちる。


「……え……?」


 あまりにあっけなく切れた衝撃に、アレックスは呆然とした。だがその余韻に浸る暇もなく、振り切った勢いで体のバランスを崩し、洞穴の床に思い切り尻もちをついた。


「う、うわっ……!」


 転がりそうになるアレックスをちらりと見て、リリアはため息混じりに言った。


「大振りすぎ。そんなのじゃ隙だらけ」

「ぐっ……!」

「剣はね、力で振るものじゃない。動きは最小限。体の力を抜いて、刃の重さに任せればいい。聖剣だったら尚更」


 リリアはまるで授業をするかのように、淡々と説明する。平坦な声なのに、不思議と説得力があった。


「脱力して、冷静な心で振るんだよ」

「……脱力……冷静に……」


 アレックスは言われた通りに呼吸を整えた。尻もちをついたまま立ち上がり、まだ残る数体の異形ゴブリンを睨む。暗がりの中で奴らは牙を剥き、黒い靄を滴らせている。


 恐怖はある。けれど、さっきほどの硬直はもうなかった。

 マルティアナを握る手に自然と力が集まり、しかし同時に肩から余計な力を抜いていく。


 ――よし、冷静に。脱力して、最小限の動きで――


 振り抜こうとした、その瞬間。


『あ……』


 耳の奥で、マルティアナの小声が響いた。


(え? な、なんだよ……?)


『あー……ちょっと……やばいかも』


 アレックスが問い返すより早く、聖剣から迸る光が暴発した。


 ――轟ッ!!


 刹那、洞穴全体が真昼のように白く染まる。

 刃先から放たれた光の奔流は、一筋の巨大なビームとなって前方の全てを呑み込んだ。


 ゴブリンたちの断末魔は、声になる前に光に掻き消される。岩壁は粉々に砕け、天井ごと吹き飛んでいく。


「な、なにこれええええっ!!!」


 アレックスの絶叫と同時に轟音が鳴り響いた。地響きが洞穴を揺さぶり、砂塵と破片が一気に吹き抜ける。


 次の瞬間――アレックスとリリアの頭上には、青空が広がっていた。さっきまで薄暗い洞穴にいたはずなのに、今は陽光を真正面から浴びている。小鳥の声さえ聞こえる。


「……」


 アレックスは呆然と立ち尽くし、手にした聖剣を見下ろした。刃はなおも微かに燐光を放ち、空気を震わせている。


「洞穴どころか、全部吹き飛ばした……」


 口から勝手に驚きの言葉が漏れる。心臓が痛いほど脈打ち、額から汗が滴り落ちた。


 隣でリリアは剣を納め、ゆっくりとこちらを見た。

 その顔にはやはり無表情。だが僅かに目を細めて、感心とも呆れともつかない声を出す。


「……オー」

「オーって」

「いや、すごいね。洞穴ごと消し飛ばすなんて」


 ジト目で見つめられる。淡々とした声音のまま、皮肉なのか本心なのか判別できない。


「え、えーと……この場合って」

「まあ、やり過ぎだね」

「……く、クエストってこの場面はどうなるの?」

「失敗はないかもだけど……ただ生きていた家畜いたら、やっばいかもね」

「……うわぁぁ! やらかした!」


 アレックスは頭を抱える。目の前に広がるのは、もはや“洞穴の跡地”。地面は抉れ、森の一部までえぐれている。ゴブリンより自然を破壊しているまである。


『ちょっと力出すぎちゃった』

(ちょっとであんなレーザーみたいなの出すの!?)

『だって、あの異形ゴブリン、ちょっと面倒くさそうだったし? まぁ、結果オーライでしょ』

(どこがオーライだ……!)


 アレックスが頭の中で絶叫する横で、リリアは「ふむ」と顎に手を当てる。


「でも、ある意味では収穫だね。あの異形ゴブリン……明らかに普通じゃなかった。それをまとめて消し飛ばせたんだから、結果としては依頼達成……かもしれない」

「家畜は……?」

「ゴブリンが全て殺した事にしよう、まぁ多分全てやられてたから」

「だ、だといいけど……」


 アレックスはマジで気をつけようと、若干項垂れながらトボトボ歩く中で、リリアは洞穴があった場所に目を向けながら思案する。


(にしてもあのゴブリン……どこから来た? 念の為ナフタに報告するか)


 どうにも何かきな臭いと思ったリリアは、とりあえずその場を後にする。




「――担い手が現れたか」




 その遥か遠くの地にて、何者かが見ているとも知らずに。

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