「異空庫を作るまで…。」 殺人姫:枷取菜緒は幸せに たい
sterben
第1話 異空庫を作るまで…。 その1
悠が異世界もののマンガを見せながら「菜緒姉ってこのマンガに出てくる《アイテムボックス》みたいな能力って、創れる?」
悠から借りてる百合の恋愛マンガを読む手を止めて菜緒が「あいてむぼっくす?」と聞き返す。
「菜緒姉ってちょくちょく服無くすじゃん?現に今、Tシャツ一枚だし。」
「寝てる間に鈴ちゃんに取られるから…」
「それで、服を入れておいて必要になったら取り出す…みたいな?」
菜緒は数秒考えて、「創ってみるかな…悠、そのあいてむぼっくすについて詳しく教えて…。」
* * *
「…大体こんな感じかな?」
・物を入れられる異空間を作る
・どこからでも物を取り出せる
・無限に物を入れられる
・中に入れた物の時間は止まる
「ん。とりあえず…必要なのは《異界化》の能力かな…」
「《異界化》って?」
「世界の中に自分の世界を創る?みたいなもので強い地縛霊とかがよく使ってる」
悠はふーんと頭を傾げながら「例えばどういうのがあんの?」
「例えば…出口に辿り着けないトンネルとか廊下と部屋が永遠に続く館とか?私は見たこと無いけど…。」
「菜緒姉なら自分で見に行きそうだけど、行かなかったの?」
菜緒は目を逸らしながら「私が入ると一瞬で異界化壊れちゃうから…。」
「……」「……」
二人の間にほんの少し静寂が訪れた。
《異界化》は世界を塗り替える能力、故に消耗も重く制御も繊細。そんな所に菜緒が入れば菜緒が常に纏っている大量のエネルギーで、異界化は乱され維持出来なくなる。
「…まぁとりあえず、トンネルか館を探せばいいの?」
「ん。[術士組合]で聞けば誰も祓えてない場所の情報をもらえるはずだから…これから聞いてこようかな。」
悠は手を振りながら「いってらー」と見送るつもりだが…。
「悠も行くんだよ?」
「…え?」ポカンと口を開けて固まる悠。
「私一人だと余計な依頼とか色々、押し付けられるし。」
スッと立ち上がり菜緒は悠を脇に抱え、窓から出ようとするが…
「待って待って、菜緒姉せめてちゃんとした服着て?その格好で人前に行かれたの鈴姉にバレると僕が怒られるから!」
「…鈴ちゃんまだ寝てるし、千賀ちゃんから服借りてくる。」
千賀から服を借りた後、悠を脇に抱え[術士組合]支部まで向かった…。
* * *
[術士組合]支部の受付にて、報酬の分配についてのクレーム対応から解放された受付嬢がいた。
カウンターの下で拳を握りしめながら、小声で「後でゴチャゴチャ言うなら依頼を受ける前に分配考えておけよ。」とキレている。
この受付嬢は菜緒が組合に来た時に対応する担当みたいな立ち位置を押し付けられた可哀想な、そして菜緒にビビらず依頼を押し付けてくる肝の据わった人間だ。
受付嬢が一息ついていると、支部の入り口付近が少し騒がしくなってきた。菜緒と悠が支部に着いたのだ。
菜緒と悠が入ってきたことで二人を知っている者は支部から出ようとし、知らない者は二人に事情を聞こうとする者、子供が来る場所じゃないと追い返そうとする者と、人が一気に動き騒がしくなってしまった。
その騒ぎの中を人に話しかけられても無視しながら菜緒と悠が受付嬢の元まで歩いていった。
「…やっぱり菜緒ちゃんかぁ、今日はどんな用事かな?報酬の引き出し?武具、術具の買い取り?最高ランクの依頼も余っているし、指名依頼も溜まっているけど。」
「今日は違う…悠、代わりに説明して。」
「えーっと、地縛霊の居る、出口に辿り着けないトンネルとか館とかの詳しい情報をもらいに来たんですけど、大丈夫ですか?」
「情報だけ?なら、情報料もらうけどいいわね?」パソコンを操作し、悠が言った条件の情報を纏めていく。
「ん。」
「それで情報集めてどうするの?学校の自由研究とか?」
「色々あって、その地縛霊を見に行くことになったから、情報集めたいなって。」
「そうなのね。菜緒ちゃんが一緒なら死なないと思うけど、気をつけてね?」
「はい」「ん。」
* * *
情報を集め終わった受付嬢が「それで、情報は端末に送ったけど、行くならついでに依頼受けていかない?集めた情報のとこの除霊依頼だし、見に行ったついでに祓ったりするんでしょ?」と提案してくる。
菜緒は苦虫を噛み潰したような表情で「行く所決めてから…他のはやらない。」
「フフッ、悠君連れてきたのは面倒な依頼を断る為ね?」
「ん。」「合ってます。」
クレーム対応と違ってスムーズに仕事が進んで受付嬢は気分が良くなったらしい。
菜緒は悠に端末を操作してもらいながらどこに行くか考え、一番近いトンネルに決めた。
行き先を決め、受付嬢に「此処。」と見せる。
「そこね?ちょっと待っててね、依頼受注するから。」
パソコンでちゃっちゃと依頼を受注し、受付嬢は二人を見送りに行く。
「じゃあ、行ってらっしゃいね。」
「ん。」「行ってきまーす」
『ふぅ、行った行った、さて、通常業務に戻りますか。』
* * *
支部を出て数分後、二人はトンネルに着いた。
「じゃあ、ここから一人で行ってきて。」
「うん…うん?なんで一人?」と、悠は菜緒に詰め寄るが、「私は入らないよ?入ったら地縛霊の《異界化》壊れちゃうから」と菜緒は平然と言う。
「武器とか無し?この前使った魔銃とか無いの?ってか、地縛霊居るんだ。」
「カースド・ローズはこの前右肩吹っ飛んでたから、それに耐えれる防具作ってからだし、気配で居るか分かるハズだけど…探知サボってる?」
ジト目で悠を見つめ、やがて切り替えるように「死にかけたら助けに行くから、どうにか地縛霊を《異界化》繋がったままトンネルの外に引きずり出して。」
「どうやって?」
「祓うギリギリまでボコボコにすればいい。」
「素手で?」
全然入ろうとしない悠にちょっとイライラした菜緒は悠を持ち上げて「後は自分で考えて戦って」と言いながらトンネルにぶん投げた。
『そもそも、倒さないように気をつけて欲しいんだけど…私が鍛えたんだから、地縛霊程度は道具無しで簡単に祓えるくらい強くなってるし。』
「…あ、鍛え始めてから稽古ばっかりで、実戦連れてって無かった。」
『まぁ、大丈夫なハズ。』
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