カフェにて 最終話
「帰るよ」
僕はふらつきながら部屋を出て行こうとドアノブに手をかけた。
ぽかんと見上げていた彼女だったが、僕の腰に手を回ししがみついた。
「あれだけじゃ足りない……。絶対逃がさない!」
そして彼女の右手が僕の股間部分を撫で始めた。
「ねえ……君の精液をちょうだい。たくさん君を気持ち良くするから!ここでずっと私とセックスしよう?犬飼君!」
再び僕は倒され、彼女は馬乗りになった。
そして僕の股間部分に顔をうずめ、ズボン越しに舐め始めた。くつくつと笑う彼女の目は金色に光っている。
「今から君は私の夫になります。これからたくさんセックスして、子供を作りましょう」
「悪いけど、断るよ」
笑っていた彼女が、「えっ?」と間の抜けた声を出した。信じられないと言いたげに僕を見下ろす。
「どうして、どうして?君には効かないの……」
さっきまでとは違い、その顔は焦りを帯び始めていた。すると彼女はおもむろに自身のシャツを脱ぎ、ブラジャーを外した。
雪のように白い肌と小さな胸、そして薄桃色の乳首が露わになる。
「舐めて」
僕は無言で首を横に振る。
「揉んで」
僕の右手を掴み、彼女の左胸に押し当てた。強制的に揉まされる。この状況に戸惑っていると――。
「んう……私の身体が悦んでいるの……。見て?」
彼女は制服のスカートを捲り、僕に下着を見せた――かと思っていると、それを下ろし全裸になってしまった。
「もうこんなにトロトロ……。君を感じて余計に興奮したの。責任取って……?」
口元を歪めると犬歯がちらりと見えた。彼女は彼女自身を指で撫でながら、恍惚の表情になった。
「見ていて、犬飼君」
僕の前で彼女の指は、そのまま秘部へ入って行った。くちゅくちゅといやらしい音が部屋中に響く。
「犬飼君、犬飼君、犬飼君、犬飼君……見てる?」
彼女は僕を見下ろしながら自慰行為を始めた。時折よだれが僕の顔に落ちて来る。
「君の男根を……種を早く……。私の中にぃ……!んっ……あぁっ」
先ほどよりも激しく腰を振り、ぐちゅぐちゅと音を立てながらその行為を続けている。
「猫屋敷さんがこんなに破廉恥な女の子だとは思わなかったよ」
「……破廉恥?」
何故か彼女は不満げだった。じとっと僕を睨む。僕は次第にうんざりしていた。一体何なんだ……。
彼女は指に付いた粘液を舐めながらくつくつと笑っている。
「これから夫婦になります。いえ、もうなりました。なのでこれらの行為も当然です。だって夫婦だもの」
「お付き合いも結婚もせずにいきなり夫婦だなんて、驚いたな」
「お、お付き合い……?」
「どうして君は、段階をすっ飛ばすんだろう」
「君は嬉しくないの?君の気持ち良いことをされるんだよ?」
「正直戸惑ってる」
「……口ではそう言っているけれど、ここはどうでしょうねぇ!」
そう言うと彼女は僕のズボンを脱がし股間部分を確認した。その後頭の上にクエスチョンマークを浮かべ、困ったように僕を見た。
「犬飼君のここ、元気ないわ……?」
僕は内心これまでの彼女にドキドキしていたが、状況がこれなので素直に喜べなかった。僕の息子も色んな意味で元気がなかった。彼女はショックを受けたようにその場にへたり込んでしまった。
「そういえば君には私の力が効かなかった」
「大抵の男は言う事を聞いたのに……。私にされるがまま快楽に落ちて……」
「どうして、犬飼君には効果がないのかしら……」
長い髪を乱し、頭を垂れながら四つん這いの状態でぶつぶつ呟く女の子を見るのは、ある意味ホラーだった。
僕は立ち上がると、彼女はばっと顔を上げた。長い前髪の間から目を覗かせこちらを見ている。
「どこへ行くの」
まだおぼつかない足取りで歩く僕を眺めながら目を細める。
「絶対逃がさないから……」
「猫屋敷さん。とりあえずさ、服着よう?」
辺りに脱ぎ捨てられた制服と下着に視線を向ける。
「女の子がそんな恰好してちゃだめだよ。お腹冷やすし風邪ひいちゃう」
彼女は呆気にとられたようだった。そして静かに涙をこぼし始めた。
「犬飼君、好き……」
彼女の涙は次第に大粒になり、泣きじゃくり始めた。
「ごめんなさい……。怖い目に遭わせて」
「多分、大丈夫」
猫屋敷さんの部屋にはシャワー室があった。彼女は無言で僕を見ていたが、そのまま一人で中へ入った。
僕はこのまま逃げてしまっても良かったんだけれど、何となくあのまま放っておくのは気が引けた。それにまだ聞いていないことだってある。
30分ほどして出てきた彼女は、下着姿だった。先ほどとは打って変わりさっぱりとした印象になっていた。
「逃げても良かったのに……ねぇ。私、化物なのよ?」
そのまま僕の目の前で制服を着始めた。ワイシャツのボタンを留めずに歩き回り始めた。
「大抵の男なら、私が誘えば言うがまま。まあ、最終的に糧となったけれど」
「君は一体何なんだ?」
「私?私は……そうね」
ぺろりと舌なめずりをし、くつくつと笑う。はだけたワイシャツと白い肌、下着姿はどこか艶めかしかった。
「私は人ではないわ。そうね……別の#生物__せいぶつ__#と思ってちょうだい。先日の廃墟で見たんでしょう?くすくす……」
「君はその……二重人格なのか?口調も振る舞いも彼女と違う」
「どうかしら」
「自分でわからないのか?」
「そんなことないわよ」
猫屋敷さんは僕の前に立つとにこりと笑った。その笑顔に僕は寒気がした。
「私は最初から私なのよ、犬飼君。あなたのクラスメイトの猫屋敷。普段大人しくてちょっと猫をかぶっていただけ」
「何か思っていたのと違うな。猫屋敷さんは口数は少ないけれど君とは違うんだ。例えば野原にひっそり咲いている花のようで……。君はその花を食べる害虫」
「……へーえ?」
そう言うなり彼女は笑い出した。
「犬飼君って例え方がひどいわねぇ。私を害虫ですって……!」
彼女はお腹を抱えてひとしきり笑った後、急に真顔になりこう言った。
「私は彼女に宿っている化物と思ってくれて結構よ」
「結局君たちは…」
彼女は少し離れた場所に立つとぽつりと話し始めた。
「昔々、ある所に化物がいたの。そいつは猫ばかり食べていたんだけれど次第に飽きちゃったの。だから人間たちに違う物食べさせろって言ったわけ」
「……」
「次に差し出された餌は人間でした。男を差し出された時はそれはもうしゃぶりつくしたわ。女もおいしく食べました。子供は返したわね」
僕は思わず後ずさった。彼女は困ったような顔をし、「嫌ねぇ……あなたにもう手は出さないわよ」と言った。
「化けようと思えば美男美女も難しいことではなかった。これまで色んな人間とセックスして自身の糧として取り込んだ……。今まで色んな場所を転々としてきた。けれど、ある場所でこの猫屋敷と出会った」
ふうと息を吐いて彼女は続けた。
「最終的に私は彼女と交わって一つになったのよ」
「猫屋敷さんは人間ではない……」
「そうね。見た目のわりに長生きなのよ。私たち」
彼女はちらりと僕を見て目を細めた。
「私の力があなたに効かないのは家系もあるのかしら……」
「え?」
「それともあの狐塚という、あなたのお友達。彼の実家は神社……」
「彼には手を出さないでくれよ」
僕は彼女を見つめながら言った。
「そうね……。あなたに嫌われないようにするには、あなたの大事なものを大切にするって事なのよね」
一人ぶつぶつ言いながら宙を見ている彼女を眺めていたが、ふいにこちらへ寄ってきて手を握られた。
「夫婦は確かに性急でした。けれど、これくらいは良いでしょう」
そう言いながら僕の唇に軽くキスをされた。ええ……?僕のファーストキスがぁ……。
「そういう事なのでまた明日から学校でもよろしく。犬飼君」
「猫屋敷さん……」
「そろそろ帰さないと。ごめん、少し目をつぶって」
「うん……」
そうして次に目を開けた時には僕は家の前に立っていた。不思議な事にあれから時間もたいして経っていなかった。
僕は色んなことで頭がいっぱいになりながら、玄関のドアを開き家に入った。キッチンにいた姉が「おかえり」と言いかけて、不審な顔になった。
何か言いたげに僕を見ていたが、呆れたように「あんた、放っておけない性分なのねぇ……」とだけ呟いて温かいココアを淹れてくれた。
―カフェでみんなと・終―
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