スキル【生きる】

αβーアルファベーター

スキル【生きる】



第一部 ──スキル


◇◆◇

人は生まれた瞬間、目の前に「スキルウィンドウ」が開く。

 それは神が与える生涯唯一の能力。

剣士には《剣技》、魔導士には《大魔法》、治癒士には《再生》。


 俺のウィンドウに現れた文字は――


【スキル:《生きる》】

効果:生存力が向上する




 それだけだった。

村人は笑い、父は黙り込み、母は目を逸らした。


「戦えない、

 癒せない、役立たずの力だ」


 俺もそう思った。


 十七の春、魔王軍が村を襲う。空が赤黒く染まり、地響きと咆哮が全てを呑み込む。

 剣を持った仲間は瞬く間に倒れ、家族の声は炎の向こうに消えていった。

 俺はただ、逃げた。

スキルウィンドウは無情にも【生存力向上】のままだった。



---


第二部 ──死なない者


◇◆◇

 流浪の末、

俺を拾ったのは剣聖の女だった。

 焚き火を挟んで、彼女は言った。


「お前のスキルは、まだ本当の意味を見せていない」


 戦場を渡る中、俺は気づく。

どれだけ傷を負っても死なない。炎に焼かれ、毒に侵され、胸を貫かれても、翌日には必ず目を開ける。

スキルウィンドウが淡く光るたび、

「生き延びた」という事実だけが残る。


 ある時、戦友がぼそりと言った。


「お前が立ってると、なぜか俺まで諦められなくなる」


それが偶然ではないことを知るのは、もう少し後のことだった。



---


第三部 ──希望の具現化


◇◆◇

 魔王城の広間。紫の魔石が脈打ち、空気が重く淀む。

 六人の仲間と俺。最強の布陣――のはずだった。


 戦闘は瞬く間に崩壊した。

《雷槍》の魔導士が胸を貫かれ、盾役の戦士が炎に飲まれる。

 仲間は次々と倒れ、残ったのは俺と二人だけ。


片腕は砕け、視界は血で霞み、呼吸のたびに痛みが走る。

魔王が迫る。


「なぜ立つ?」


その時――俺の意識に、過去の声が溢れた。


『あの時、お前が立っててくれたから、俺は剣を振れた』

『お前の背中を見たら、不思議と足が動いた』

『お前が生きてくれるだけで、負けじゃないって思えた』


それは、これまで共に戦った仲間たちの声だった。

戦士も、魔導士も、治癒士も……皆、俺の「生き続ける姿」に救われていた。


胸の奥が熱くなる。

その瞬間、スキルウィンドウが光り輝いた。


【スキル:《生きる》覚醒】

効果:自身および半径15m以内の味方に「希望」を付与。致死ダメージを耐え、一度だけ立ち上がる。




崩れ落ちていた仲間が、ゆっくりと立ち上がる。

血まみれの顔に笑みを浮かべ、剣を構えた。


「……最後まで、生きてやる!」


魔王の剣が俺の胸を貫く。だが倒れない。

俺が立っている限り、皆も立ち続ける――それが《生きる》の真の力だった。


総員での突撃。

仲間の《雷槍》が魔王の肩を砕き、盾役が渾身の体当たりで奴を膝つかせる。

最後に俺が剣を振り下ろし、魔王の首を断ち切った。


広間に静寂が訪れる。

仲間たちが俺を囲み、泣き笑いで言った。


「お前は……

 希望の具現化だったんだ」


瓦礫の中、スキルウィンドウが静かに変わる。


【スキル:《生きる》】

効果:希望を繋ぐ




――ああ、そうか。

生きるとは、自分の命を繋ぐことじゃない。

生き続けることで、仲間の心に火を灯すことだ。


戦後、俺は剣を捨てた。

だが今日も、どこかで誰かが倒れそうになった時、その背中を押すために――

スキル《生きる》は光を放ち続けている。



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