第9話

「お父さん……」


 土が盛り上がって出来たのは、お父さんでした。 服も髪も、肌まで生きているような色に変わって……


 言いたい事がいっぱいあって言葉が出ないでいると、「すまん話しは後で! リリスさんイリーナを頼む!」と急ぎポーチからロープを取り出して、獣道の木に縛り付けていきます。

 なんでお姉ちゃんの名前を知ってるんだろう? 何をしてるんだろう? なんで手ぐしで前髪ととのえて、木に隠れて腕組んでるんだろう。


 と、明らかに人間用の、しかも子供が考えそうなイタズラに……戻って来たアレが引っ掛かっちゃいました。


「俺の前で娘に手を出せると思うなよ」

「お父さん……」

 私の感情は今ぐちゃぐちゃです。


 気持ちが込み上がって声が震えていると、獣道の奥から風に乗ってフードのお姉さんに引っ張られる皆さんが走って来ました。 手を離したフードのお姉さんがそのままアレの背中に跳び乗って、アレと私たちの間に鎧のおじさんとダークエルフさんとエルフさんが着地します。


 皆さん無事でした。 怪我も無いっぽいです。 あとフードのお姉さんがフードを脱いでます。 やっぱり可愛い獣人さんでした。


「よう間に合ったなぁ、イリーナのおっちゃん様々やわ」

「僅かな戦闘でここまで読むとは、流石としか言いようがありませんね」

「エウクが聞いてて助かった」


 皆さんが何だかよく分からない話しをしていると、獣人のお姉さんに乗られているアレが「ぁああぁあぁあああ!!!」と手を伸ばして叫び始めます。 背中に乗る獣人さんも、盾を構える目の前のおじさんも見えていないように、必死にバタバタと暴れてます。


「ガキかよ……さっさと拘束しとこうぜ」

「魔封じすっから。 チタ、用心しときやぁ」

「了」


 何だかアッサリとした最後に、私は一安心してお姉ちゃんに…………あれ?


「お姉ちゃん?」


 気が付くと、お姉ちゃんは隣に居なくて。

 いつの間にかカタナの方に行っていました。


「私のぉォおぉ!! それハ僕のダぁああァァ!!」

「うるせぇな、口も縛っとけ!」

「足もやっとくかぁ。 おっちゃん、もう1本ある?」

「えぇ。 ただ、これらはリリスさんの力で再現しているだけなので、土に戻ってしまう前に町で縛り直す必要が――」

「ソレは儂のだあァぁアァぁ!!」

「えぇぃいい加減に――」

「儂のからだぁアァーー!!!」

「…………っ!」


 鎧のおじさんが振り向いた時には、お姉ちゃんはカタナに手を伸ばしていて。


「待て! リリスちゃん!!」


 柄を持ったお姉ちゃんの体が、一瞬だけガクッと脱力したように見えた後、スッと直立します。 と同時に、うるさく叫んでいたアレの声がパタリと止んで、鎧のおじさんや獣人さんがこっち走って来てます。


 寝起きのような動きでゆっくりと、目を擦るお姉ちゃん。 でも、なんだかいつものお姉ちゃんとは別人に見えて……


「お姉ちゃん? だよね?」

「…………いいえ」


 感情の無さそうな声に戸惑っていると、獣人さんと鎧のおじさんが私とお姉ちゃんの間に入りました。


「君は……?」

「私はリリです」

「リリ? リリスは?」

「リリスは今、こっちに行っています」


 そう言いながらカタナを見下ろしたお姉ちゃん(?)は、アレを縛り終えたダークエルフさんに「この武器のさやを取って下さい」と伝えました。


「気が済んだら戻って来ますので、もうしばらくお待ち下さい」


 戸惑う私達に代り、鞘を持って来たエルフさんが質問します。 警戒するように。


「失礼ながら、貴女あなたは……いえ、貴女方は何者なのですか」


 エルフさんから受け取った鞘にカタナを納めて、お姉ちゃん(?)は答えました。


「私はリリスの友達で、この体はリリスにあげた物です」

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