第10話 大活躍!

 翌朝、古代遺跡の丘には多くの人が集まっていた。ギルド職員、瓦礫撤去のために集められた職人、そして、ドルトンメイスを振り回す、俺の噂を聞きつけた冒険者たちが大勢だ。

 注目を一身に集めながら、俺とロイネは遺跡の窪地へと降りた。こんなに目立つのは、人生で初めてかも。前世の俺なら、きっと恥ずかしさと緊張で思うように動けなかっただろう。

 でも今は平気だ。この変化は、身体を鍛えたことで自信がついたからだろう。そう言えば、筋トレが最強のソリューションって本が凄く売れてたな。まさにあれだ。何かあっても鍛え上げた身体能力でなんとかなる、という変な自信がついた。

 しかし……俺の記憶ってどうなってんだ。あんな本のことは覚えてるのに、なんで自分の名前や家族の顔すら思い出せないんだ?

 まぁいいや。もし覚えてたら、それはそれで悩みの種になってたはずだしな。今は、ロックゴーレムの破壊に集中しよう。


「さすがに目立ち過ぎかも」


 ロイネが呟く。


 目立ちすぎないほうが良いのは、ロイネの忠告で分かっているつもりだ。でも、ここまで期待されてる状況では引くに引けない。せっかく頑張ったのだから、今はこの期待に応えたい。


「ごめん、今後は気をつける」

「謝らないで。ここを勧めたのは私だしね。じゃぁ……やるよ!」


 ロイネが窪地の中央へ進み、ゴーレム一体を引きつける。昨日と同じように素早い動きでゴーレムの攻撃を躱しながら、手前へ手前へと引き寄せる。さあ、俺の出番だ。


 こそこそとゴーレムの背後へ回り込み、その背中にドルトンメイスを叩き込む。


 ドガン!


 まんま野球のスイングでドルトンメイスたたきつけた。

 狙ったのは体幹に位置する岩。ロックゴーレムを構成するもっとも大きな岩を粉々に砕く。

 体の中心を失ったロックゴーレムがバラバラになって、文字通り崩れ落ちる。

 いけそうな気がして背中を狙ったが、想像してた以上だ。このドルトンメイスの破壊力は尋常じゃない。そしてこれを振り回せるようになった俺の身体能力も尋常じゃない。


「「「おおおぉぉぉぉっ!!」」」


 窪地を取り囲んでいた観衆から、割れんばかりの大歓声が巻き起こった。


「はは、もうオルトに目立つなってのが無理ね」


 ロイネが諦めたように笑う。


 ドガーン!


 俺がロックゴーレムを倒すたびに、窪地に歓声が巻き起こる。そして、ロックゴーレムを4体倒したところで、職人のリーダーらしき人物が号令をかける。


「野郎ども! 取り掛かれ!」


 その声に、職人集団と冒険者たちが声をあげる。


「よっしゃあああ!」

「これで発掘作業が進むぞ!」

「開通したら、すぐに突入だ。準備をしておけ!」

「俺達が一番乗りだ!」

「防衛システムの破壊報酬は俺たちがいただくぞ!」


 冒険者や職人が興奮した様子で叫び、中には俺の名前を呼ぶ者までいた。ドルトンメイスで訓練していた時に職員から聞いた話だと、ダンジョンの入口まであと少しってところで、ドルトンがギックリ腰になって作業が進まなくなっていたらしく、そのフラストレーションが大爆発したのが、まさに今って感じだ。


 ドゴーン!


 ゴーレムを全て破壊したところで、俺とロイネは一休みする。と言って正直さほど疲れてない。ロイネは休憩しながらも、倒したロックゴーレムの様子を、目と警戒スキルで見張っている。


「オルトさん、期待以上です。素晴らしいです。大活躍です! 胴体を破壊してくれたおかげで、ロックゴーレムの復活も、かなりの時間がかかるみたいです。作業が捗って、本当にありがたいです!」


 近づいてきたギルド職員に、何度も頭を下げられる。この町の冒険者ギルドは、ダンジョン管理で収益を上げる予定で最近大きく拡張したらしく、なのにダンジョンアタックが出来ない状況に、とても困ってたらしい。


「しかし、オルトさんはどうやってその身体能力を手に入れたのですか? お持ちのスキルは『癒やしの加護』だけですよね?」


 職員が不思議そうに聞いてくる。


「筋トレです。癒やしの加護で、疲れが取れやすいので、俺は暇さえあれば筋トレしてるんです」


 この返事は、いつかこういう質問がくるだろうと考え、ロイネと一緒に無難な返事を考え、準備しておいたものだ。俺の返事を聞きながら、ロイネが頷いている。ロイネから見ても、自然に対応できたってことだろう。


「努力家なんですね。素晴らしいです! この勢いなら今日中にダンジョンに入れる様になるでしょう。そうなったらオルトさんは昇格間違いなしです。きっと、この町のギルドにオルトさんの名が残ることになるでしょう。ドルトンさん、悔しがるでしょうね」


 職員がそう言い残して立ち去る。


「昇格確定だね」

「早すぎない?」

「Cランクまでは、そんなもんよ。Cから上は、簡単じゃないけどね」


 作業は勢いよく進んだ。全てのゴーレムが破壊されている状況は、久しぶりらしく、職人とダンジョンアタックがしたい冒険者たちは、凄まじい熱量で作業を勧めた。

 俺はロイネと一緒に、動き始めたロックゴーレムを破壊し続けた。


 そして、半日が過ぎた。


「開いたぞ!」


 窪地の中央から歓喜の声が響く。予想よりも早い開通だ。その次の瞬間、俺とロイネを除いた全ての冒険者が、そこへと駆け寄り、次々に姿を消していく。


「すごいな。あんな真っ暗な穴の中、よく恐れずに入っていけるね」

「ダンジョンアタックが好きな冒険者にとって、探索されてないダンジョンは最高の環境だからね。お宝求めて我先にって感じよ。危険だけど、運が良けりゃ一生遊んで暮らせるような高価な物が手に入ったりするしね」

「ロイネは行かないの?」

「ソロじゃ危険すぎるし、私、軽装が基本だからダンジョンには向いてないの。でも、オルトと一緒ならダンジョンアタックもできそうね」

「俺はロイネのポーターだからね。荷物、いくらでも持つよ」


 今の俺の身体能力は、昔、登山で使ってた60Lのザックに砂を満載して担いでも、余裕でスキップしたり、全力疾走ができると思う。

 というか、このドルトンメイスは砂を満載した60Lザックよりも遥かに重い。ダンジョンアタックの荷物を担ぎ、ロイネを抱っこした状態でも、いくらでも走れる気がする。


「じゃぁ……そのうちダンジョンアタックもしてみよっか!」

「ここではいいの?」

「うーん、移動したほうがいいかも」


 ロイネが少し悩んで答える。


「あ、目立ちすぎたってことね」

「うん、もう手遅れな気もするけどね」

「はは、ごめん。張り切りすぎたかも」

「しかたないよ、あれだけ期待されちゃったら、やらずに逃げても悪目立ちしてたしね」


 俺は冒険者たちがダンジョンに消えていった後も、復活しようと光の糸を伸ばすロックゴーレムを破壊し続けた。そして、空が夕焼けに染まり始めた頃、ロックゴーレムから光の糸が現れなくなる。


「ダンジョンの防衛システムが停止したようです。お疲れ様でした」


 ギルド職員がそう言って、頭を下げる。


「お役に立ててなによりです」


 俺も頭を下げる。


「オルトさんは、面白い方ですね。それだけの力をもちながら、とても謙虚だ。冒険者には珍しいタイプですね」

「そうなんですか?」

「はい。良い意味で冒険者っぽくないと思います」

「良い意味なんだ」

「はい。ずっとそのままで居てください」

「たぶん、変わらないと思います」


 もういい大人だからな。ここから性格が大きく変化することはないだろう。


「では、今後のダンジョン管理は職員で行います。お二人には、今日の活躍に見合った報酬が支払われますので、明日以降にギルドへ立ち寄ってください」


 職員がダンジョンの入口に向かう。そこではギルド職員と職人によって、簡易な小屋が造られ始めている。


「じゃぁ、帰ろっか」

「だね。帰ろう」

「報酬、期待しちゃうね」

「どれくらいもらえるんだろ」

「うーん、どうだろ。こういう特殊な仕事は始めてだから、予想がつかない」

「気が早いけど、今日は少し贅沢なディナーにしよっか」

「いいね、そうしよう! オルトは何が食べたい?」


 俺達は、何を食べるかを考えながら気分良く町へと戻った。


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