量子物理学者が神との邂逅を経て、男爵家の次男に異世界転生したので、この世の真理を解き明かす、人生をおくると決めました。『量子物理学者の異世界転生譚』
青松桃梅
プロローグ
30歳の量子物理学者小山祐介は、研究室の無機質な蛍光灯の下、時間結晶の装置を調整していた。たくさんの装置が整然と並び活躍の時を待つ。彼の夢は超光速通信を実現することだった。
量子もつれを使った通信は理論上可能だが、時空の乱れが実用化を妨げていた。小山の最新の仮説は、時間結晶を用いて時空を安定させることだった。
「時間結晶は時間軸に周期的なパターンを刻む物質。これで磁場を安定させられれば...。」
「よし、準備完了。」
小山はコンソールを確認し、独り言をつぶやいた。研究室は静まり返り、夜の大学は彼一人だった。
「時間結晶にレーザーを照射して、時空のパターンを刻む。磁場が安定すれば、量子もつれの連続観察も可能だ。」
彼の通信装置は、3つの量子もつれペアを使い、2進数で情報を伝える仕組みだ。文字列を入力すれば、装置が二進数に変換し、量子αの観察結果を遠隔地の量子βに即座に反映させる。
これまで、高速観察を繰り返すと磁場が乱れ、通信が途切れていた。時間結晶がその問題を解決できると信じ、小山は初の実験に臨んだ。
「量子αの観察、開始!」
彼はスイッチを押した。モニターにデータが流れ、遠隔地の量子βが即座に反応。
「よし、磁場も安定してる! これまで乱れた時点を越えたぞ!」
小山の心臓が高鳴った。超光速通信が現実になれば、人類の科学は飛躍する。だが、喜びも束の間、警告音が研究室に響いた。磁場測定器が異常を示し、数値が急上昇。
「何!? 時間結晶のパターンが維持できない?」
彼は冷静さを取り戻し、考える。
「時空のゆがみが予想以上なら、エネルギーを増やせばいい。」
小山はレーザー出力のダイヤルを限界まで上げた。その瞬間、時間結晶が眩い閃光を放ち、研究室を白く染めた。時間結晶が放つ光は、まるで宇宙の果てから響く神秘的な波動のようだった。
「うっ!」
小山は目を覆ったが、光は彼を包み込み、意識を飲み込んだ。電力が落ち、装置は停止。暗闇の研究室に、小山の姿は消えていた。
小山は、完全な『無』の空間にいた。光も闇も存在しない空間は、まるで意識だけが無限に漂う海のようだった。重力も温度も感じられず、ただ虚無が彼を包み込んでいた。
「ここは...。どこだ!?」
彼は叫んだつもりだったがそこに声はない。それでも、叫んだことははっきりと分かった。
「研究室で実験してた。時間結晶が光って...その後、どうなった?」
小山は混乱した。爆発したにしては、残骸も衝撃もない。心臓が締め付けられるような恐怖が彼を襲った。空間も時間もない世界に、ただ意識だけが漂う感覚は、まるで宇宙に放り出されたようだった。
「死んだのか...?」
その時、温かいエネルギーが小山を包み込んだ。圧倒的な存在感、宇宙の根源そのものだ。小山の意識は拡大し、多次元宇宙の真理を垣間見た。
「全ては...。1つのエネルギーから生まれた?」
彼は理解した。万物は、神と呼ばれる根源のエネルギーから分かれたものだ。個々の存在は、意思と個性を持ち、進化と調和を経験するために生まれる。そして、死後、再び神に還る。小山の肉体は消滅したが、彼の意識『エネルギー体としての個性』はまだ神に還っていなかった。神は、彼の真理を探求する姿に喜ばれ、今の個性を持ったまま、もう一度『人生』を与えようとしていた。
神のエネルギーが彼を包んだ後、言葉を必要としない対話が始まった。それは、音や形ではなく、純粋な情報の流れだった。
「あなたは、神なのですね。」
小山は先ほど実感したことを聞いてみた。
「人間は私を『神』と呼ぶこともあるが、君には『意思を持った根源のエネルギー』と言った方が分かりやすいだろう?」
「ここはどこなのですか。」
「君はもう知っているはずだがね。」
神がほほ笑んだように思えた。
「多次元宇宙におけるそれぞれの宇宙と宇宙のはざまだよ。つまり、時空のはざまだ。時も空間もここには無い。君の実験が時空に干渉し、結果として君はここにいる」
「小山祐介。君の探求は私の真理に触れた。」
神の意思が響く。
「君の研究は時間と空間の境界を揺さぶり、宇宙のエネルギーの本質に近づいた。」
小山は神につつまれた時の直観を確認してみた。
「あなたのエネルギー…? 全てがあなたに繋がっているってことですか。この私もあなたの一部だと?」
「然り。万物は私のエネルギーの分身であり、意思の『言葉』によって形作られる。『言葉』とは、意思のパターン。エネルギーの波動を定める。」
「これが、ずっと追い求めてきた統一理論の答えなのか? 言葉が、宇宙を形作る力だなんて。」
「万物は私の言葉で形作られる。それが真理だ。」
小山は興奮と同時に、圧倒的な存在感に息を呑んだ。この『神』は、彼の科学を超えた何かだった。
神のエネルギーが微笑むように揺れた。
「君はこの宇宙の真理を理解した。だが、それは今の君が意思を持ったエネルギーだからできたこと。生まれ変わって人の体に宿るとき、その知識は膨大すぎるが故に、ほとんどを忘れる。ただ、人の本質たる意思を持ったエネルギーが私と繋がっていることさえ覚えていれば、君は今理解した真理にいつでも触れることができる」
小山は興奮した。
「生まれ変わる? 私はまた人間として生まれ変わるんですか? 真理を追究する為に?」
「そう、人間として。だがこれまでとは異なる世界。君の魂は、騎士の血を引く者に宿る。そこは魔法と剣の世界。だが、真理は変わらぬ。真理の探究に役立つ力を一つ君に与えよう」
「騎士の血? 魔法と剣? どんな世界なんだ…?」
困惑する小山に神から新たなエネルギーが流れ込む。神から贈られた力の種。どんな能力かは分からない。けれど確かな神の愛を感じた。
「その力を使い真理を追い、弱き者を守り正義を貫きなさい。」
彼を包んでいた神のエネルギーがそう告げ、そして離れて行った。
次の瞬間、光の奔流が彼を飲み込み、意識が新たな肉体に引き寄せられていく。引き寄せられる毎に、神との対話の記憶が徐々に薄れていく。薄れる意識の中で小山は決意した。
「どんな世界でも俺は科学者だ。エネルギーの真理を追い精一杯、新たな人生を生き抜いてみせる!」
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