雨の日に立つ子

 最高の立地で開院できた、と彼は考えていた。


 住宅街の中にあるボール遊びなども可能な中規模の公園、その入り口付近。十字路の角にあたるその土地は日当たりも良い。受付に設えた大枠の窓からは面した道路が良く見通せる。それは同時に、外側からも院内がよく見えるということでもある。明るく、小ぎれいで、入りやすい――狙い通り、彼の整骨院は順調に賑わっていった。




 ある雨の日のことだ。


 彼は受付からぼんやりと外を見ていた。流行っているとはいえ、患者が四六時中やって来るほどではない。雇っている施術者は午後からの勤務だったから、特に雨の日ともなると、院内には彼一人、ということもそれなりにあった。


 道路を挟んだ公園の入り口に、少女が一人立っていた。


 恐らく5,6歳だろう。小雨だからか傘は差していない。淡い黄色のワンピースを着ている。


 彼女がいつごろからそこにいたのか、何をしているのかは分からなかった。公園の中に入っていくでもなく、何か遊んでいる風でもなく、ただ佇んでいる。


 誰かを待っているのかも知れない。例えば、お母さんから「すぐ戻るからここで待っていて」と言いつけられて。


 そんな風に考えた時、顔馴染みの患者が扉を開けて入ってきた。いわゆるワンオペだから、彼の意識はすぐに仕事に切り替わった。結局、その日はもう、少女のことを思い出すことは無かった。




 その日以降、彼は少女を度々見かけるようになった。


 見かけるのは決まって雨の日。午前中。彼が一人で受付にいるとき。窓の外、公園の入り口に少女は立っている。傘は差しておらず、服装は同じ。やがて常連がやってきて、その応対や施術をしている間に、少女はどこかにいなくなる。


 あまりに何度も見かけるものだから、次第に気味が悪くなってきた。


 少女はどこの誰で、どうして雨の日に立っているのか。天気予報を見る度に考える。


 もしかすると。




 とある考えに至ってから、彼は少女のことを考えないようにしている。


 最近では雨の日を憂鬱に思うようになった。受付で作業をすることすら気味が悪いという。何故なら、受付から顔を上げると、ちょうど少女の立つ公園の入り口が見えるから。


 彼女は今日も立っているのかも知れない。彼をじっと眺めるために。


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