第二話 差別というステータス異常

 草原を抜け、土の道を歩くこと三時間。

 やっと視界に、大きな石造りの城壁と、木製の門が見えてきた。

 その周囲では、獣人やエルフが行き来しているが──人間の姿はほとんどない。


「……街か。ゲームだとセーフゾーンだったけどな」


 門の前には、槍を持った衛兵が二人立っている。

 俺が近づくと、その目が俺を値踏みするように動いた。


「……人間か」

「入るなら通行税だ。銀貨三枚」


 言われた金額に、思わず眉をひそめる。

 この世界の物価はまだ分からないが、腰の袋に入っているのは、ガルドから勝利の証として渡された銅貨数枚だけだ。


「そんなに持ってない」

「じゃあ入れねぇな。人間は身元保証人もいないだろう?」


 言い方が完全に「物を拒否する」それだ。

 俺の背後では、獣人の商人が銀貨一枚だけ払ってすんなり入っていく。

 ──どうやら、人間は入場料すら差別されるらしい。


「……保証人がいればいいのか?」

「ああ。だが、好き好んで人間の保証人になる奴はいねぇ」


 その時だった。

 背後から軽い足音が近づき、聞き覚えのある声が響いた。


「おい、通してやれ。そいつは俺の客だ」


 振り返ると、そこに立っていたのは──昨日戦った獣人、ガルドだった。


「ガルド様、この人間は……」

「俺の勝負相手だ。保証人になってやる。文句あるか?」


 衛兵は渋い顔をしつつも、無言で道を開けた。


 城門をくぐった瞬間、鼻を突く匂いが漂う。

 香辛料、焼いた肉、油の香り……そして、混ざり込む獣臭と金属の匂い。

 石畳の道の両脇には露店が並び、行き交う人々の大半が獣人やエルフだ。

 人間は……物乞いか荷物運びくらいしか見えない。


「見ての通りだ。人間は最下層。街の中じゃ、下手に目を合わせるな」

「……俺を助けたのは、同情か?」

「いや、面白そうだからだ」


 ガルドは薄く笑い、路地の奥へと歩いていく。


 市場を抜けたところで、事件は起きた。

 通りの真ん中で、粗末な服の少女が二人の獣人に押し倒されていた。

 耳と尻尾がない──人間だ。


「やめて! その荷物は返して!」

「うるせぇ、税を払えない人間に権利はねぇ!」


 周囲の通行人は見て見ぬふりをして通り過ぎる。

 ガルドも立ち止まらない──が、俺の足は勝手に動いていた。


「おい、お前ら。それは人間用のクエストか?」

「ああ? なんだこのゴミは」


 獣人の腕を掴むと、ステータスウィンドウが自動で開いた。


【Name】ロクス

【Race】獣人族(下級)

【Lv】3

【Skill】蹴撃Lv1


 ──いける。

 相手のスキル動作を予測し、手首を捻って地面に転がす。

 続けざまに少女を引き起こし、その背後に庇うように立った。


「この街じゃ、人間は商品以下だぜ?」

「なら、今から変えてやるよ」


 ──次の瞬間、俺のスキル欄に新しい文字が浮かんだ。


【Skill獲得】

《蹴撃》Lv1


 笑いながら構える俺に、獣人たちは一瞬たじろいだ。


 ──そして、この日、街に一人の厄介な人間が現れたと噂が流れ始めた。


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