最弱種族に転生したけど、ゲーム廃人の俺にはチートすぎる世界でした

れいや

プロローグ ラストログアウト

 ──目の奥が焼けるように痛い。

 液晶の光が、まるで剣で突かれるように突き刺さってくる。

 それでも、俺は手を止めなかった。いや、止められなかった。


「……あと一戦。あと一戦でレート二千だ……!」


 マウスを握る右手は汗で滑り、キーボードを叩く左手はしびれている。

 画面の中、ギルドの仲間たちが叫んでいる。チャット欄は光のような速度で流れ、敵のHPバーが赤く減っていく。


 俺の人生は、この画面の中に詰まっていた。

 昼夜逆転? 出社拒否? そんな現実のステータスなんてゴミだ。

 この世界──俺が十年間やり込んだMMORPG《アーク・フロンティア》こそが、俺の人生そのものだ。


「……よっしゃ、ラストキル!」


 敵の大将を切り伏せ、勝利のエフェクトが画面いっぱいに弾けた。

 その瞬間、俺の視界の端に「ランク到達」の金色の文字が浮かび上がる。

 同時に、何かがぷつりと切れたような感覚があった。


 ……あれ? なんか、頭が……。


 視界が暗く沈む。手足から感覚が消える。

 椅子に座ったまま、俺の身体は前のめりに崩れ落ち──。


 冷たい風が頬を撫でた。

 同時に、鼻腔をつく草木と土の匂い。


 ──ログアウトしたはず、だよな?


 ゆっくりと瞼を開ける。目の前には青すぎる空と、金色の草原が広がっていた。

 ゲームの背景グラフィックよりも、何倍も鮮やかで、何倍も現実的な光景。


「……夢か?」


 だが、身体を起こした瞬間に違和感が走る。

 目の前に、半透明のウィンドウがふわりと浮かび上がっていた。


【名前】カナメ・リュウジ

【種族】ヒューマン(最下級種族)

【Lv】1

【HP】35/35

【MP】10/10

【スキル】──なし

【特性】???


 ……は?


 思わず首をひねる。これは、どう見ても《アーク・フロンティア》のステータスウィンドウだ。

 だが、俺が知っている初期ステータスよりも、さらに酷い。

 HPもMPも、ほぼ紙切れ同然。種族欄には、プレイヤーが誰も選ばないゴミ種族──ヒューマン。


「おいおい……よりによって、最弱かよ」


 頭を抱えた、その時だった。

 背後から、獣のような足音が草原を踏みしめて近づいてくる。


「……人間? この辺りで見るとは珍しいな」


 振り向くと、そこには獣耳と尻尾を持つ青年が立っていた。

 背丈は俺よりも頭一つ分高く、腰には獰猛な光を放つ剣。

 その口元には、薄く笑みが浮かんでいる。


「……面白ぇ。久々に狩るか」


 剣が抜かれる音が、やけに澄んで響いた。

 次の瞬間、俺の背筋を冷たい汗が伝う。

 ゲームなら、ステータス差がありすぎて勝負にならない。現実なら……生き残る術は一つしかない。


「……やってやるよ」


 握った拳に、なぜか力がみなぎる。

 画面の中だけで磨いたはずの反射神経が、今、この現実で牙を剥く。


 ──異世界転生。最弱からの成り上がりは、ここから始まった。

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