最後の復讐者《ウルトリクス》

あさぎ

プロローグ

 ――今でもたまに夢に見る、あの日のことを。


 馴染の家は真紅の炎に包まれ、熱気が私を炙る。額からは汗が湯水のごとく湧き出る。

 夜空は紅く染まり、周りの家々は炎に包まれ、人々の悲痛な叫びが狂想曲きょうそうきょくの如くこだまする。地獄の一端で私もまたひとり、泣き叫んでいた。

 家族の姿はすでになく、目の前にはこちらをにらむ魔獣がいる。四本ある足で一歩、また一歩と足を進め、私に近づいてくる。私は泣き叫びながら心の中で自分を恨んだ。

 なぜ私には力がないの? どうしてこいつらを追い払う魔力がないの? もっと、もっと力が欲しい。

 しかし六歳ほどだった私は、どれだけ問いても無力で、ただ目を背けて泣き叫ぶことしかできなかった。


 気づくと目の前の魔獣はいなくなり、代わりに大柄な男ほどの大きさをした人形の魔族が立っていた。それは驚いたようでもあり、怒りを隠せないようでもある表情で私を見ていた。それは右手に持った杖をこちらに向け、呪文のようなものを唱え始めた。

 このとき私は理解していた、ここで死ぬのだと。この地獄から救われるのだと。私は再びそっと目を閉じ、すべてを受け入れようとした。

 しかし、幾秒が過ぎてもその時は訪れなかった。再び目を開けると、そこには一人の騎士が立っていた。右手に持った細長い剣で魔族の首をはねたようだった。


 この夢はいつもここで終わる。この騎士が誰だったのか、どんな人物だったかは思い出せない。ただ私をあの地獄から生きて救ってくれたということだけを覚えている。


 厄災戦やくさいせん。魔族が魔神を現界げんかいさせ、人類と戦った歴史上最大の戦争。大陸全土を巻き込んだこの戦いは、無数の街を灰燼かいじんに帰し、数え切れない人々の命を奪った。

 そして私の故郷も、その例外ではなかった。魔族への憎しみは、あの日以来私の中で静かに燃え続けている。この夢が記憶をよみがえらせるたび、その感情はより深く刻まれていく。


 これは、厄災戦下で繰り広げられたほんの一握りの地獄の記憶。そして私が魔術師を目指すきっかけの記憶。


 そう、私は忘れてはならない。私の故郷を取り戻すまでは。

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