2、彪ヶ丘学園



 ── 20✕✕年 4月 某日、彪ヶ丘学園ひゅうがおかがくえん


 彪ヶ丘学園と言えば大概の人が『あ~、なんか聞いたことあるかも』ってレベルで有名ちゃ有名。広大な敷地に綺麗な校舎が数棟あって、一般コースの校舎だけパッと見でわかる、汚くないけど綺麗でもない校舎。


 美智瑠と玄関口に張り出してあるクラス分け表を見て、奇跡的に同じクラスだったことを『ラッキー』と互いに軽く喜び自分達の教室へ向かっていた。


「なぁ、あのちっさいギャルの子めっちゃ可愛くね?」

「おっ! 俺その隣のちょっとヤンキーっぽい綺麗な子くっそタイプだわ!」

「あー、わかる! 俺もあの綺麗な子一択だわ、レベルたけぇ!」

「つーかスタイル良すぎだろ、やべぇな!」


 ギャルとヤンキーとか私達のこと言ってんだろうな。ていうか私、ヤンキーじゃないし。たしかに親は元ヤンだけど私は違うし! まあ、元ヤンの親に育てられた私は普通の女に育つはずもなく、美智瑠みたいにふわふわした女の子らしさの欠片もないけど。ま、美智瑠も別にふわふわ系って柄でもないわ、うん。


「凛子ヤンキーだってさ~、マジでウケるぅ」

「まったく笑えないんだけど」

「ハハッ! あながち間違ってなくなぁい? てゆうかヤンキーじゃ~ん」

「違うし」


 ジト目で美智瑠を睨み付けると笑いながらスマホをいじって、見てくださいと言わんばかりにスマホを向けてきた。そこに写っていたのは──。


「ちょっ、それ消してって言ったじゃん」

「え~、だってこの凛子かっこいいんだもぉん。女のあたしでも惚れちゃ~う」

「マジで勘弁して、黒歴気でしかないから」


 認める、認めるよ。血は争えないでしょ、仕方ないじゃん。


「でも凛子は理由がなきゃこんなことしないって知ってるから。この時もあたしを助けてくれたんだし」


 どこか誇らしげな表情でニコニコしながら私を見上げてくる美智瑠。そんな美智瑠が愛おしい。


「まあ、どちらにしろ喧嘩とかそういうのはもうしたくない。お父さんとお母さんテンション上がってうるさいし」

「ちょ、それマジでウケる~」

「いや、ウケんし」


 ※元ヤンな両親は私が喧嘩すると大喜びするというキチガイな夫婦です。ちなみに美智瑠が見せてきた写真は、美智瑠をナンパして無理やりホテルへ連れ込もうとした男二人組をボコボコにしてる時の私。


「うわぁなんか嫌だな、ああいう子達」

「うん、風紀乱れるよね」

「ちょっと怖いし、人の彼氏とかに手出して問題起こしそう」


 ここ、彪ヶ丘学園には特にこれといって身なりの規則はない。だから私と美智瑠は良くも悪くも派手だから目立つゆえに注目の的。男子からは『ライク(連絡先)交換しよ』とか『彼氏いる?』と話しかけられて、女子からは白い目で見られる始末。


「凛子が美人だからって僻みすぎっしょ。僻むまえに自分磨きしろし」


 なんて嫌みったらしく大きな声で言う美智瑠の頭にコツンッと軽くチョップした私。


「はいはい、そういうこと言わないの」


 入学早々無駄に敵なんて増やしたくない、めんどいし。話しかけてくる男子を軽くあしらって、教室の前に席順が書かれた紙が貼ってあるのを確信。


「さすがに凛子と席は離れちゃってんね~」

「あらま」


 そんなこと話ながら教室の中に入って自分の席に着いた。一番後ろの窓側って最高かよ、なんて思いつつボケーッとしながら担任が来るのを待つ。時間になると担任が来て、入学式の説明やら担任の自己紹介やら。


「んじゃそろそろ行くぞ~」


 高校生にもなってこんな列作ったりしなきゃなんないの? 適当でいいじゃん、こんなの。


「久しぶり、羽柴はしばさん」


 そう声をかけられて隣を見てみると── えーっと、誰?


「って言っても羽柴さんが俺のこと把握してるはずがないか」

「ああ、うん、ごめん。同中だっけ?」


 羽柴凛子15歳。自分で言うのもなんだけど、おそらく普通の女子高生より敵を多く作ってきたから、どこの誰とかいちいち把握していない。そもそもこの人、絶対こっち側(不良男)でもあっち側(ギャル男)でもない。どちらかと言うと真面目? っていうか、爽やかスポーツ青年みたいな感じ。


「うん、西中。羽柴さんとは1回も同じクラスになったことないし、俺バスケばっかやってたから羽柴さんが把握してないのも無理ないよ」


 まあ、私が把握してなくても相手側が把握してることなんてザラっていうか、私と美智瑠を知らない同中の人なんてほぼいないだろうし? これも良いんだか悪いんだかわかんないけど。


「俺、新藤恭輔しんどうきょうすけ。よろしくね」

「あ、うん。よろしく、新藤君」

「実は俺、羽柴さんのことが──」

「よーーし、出発すんぞ~」


 担任の馬鹿でかい声のせいで新藤君の声が書き消されて『ごめん、なんて言った?』的な顔をしながら新藤君を見る。


「いや、ごめん。なんでもない」


 苦笑いしながら、ばつの悪そうな表情を浮かべている新藤君に『ああ、私なんかと無駄に喋りたくないわな』と悟って、そっぽを向きながらスマホをいじる私に新藤君がそれ以上絡んでくることはなかった──。

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