第7話 決戦前夜、集う転生者たち
決戦当日の朝。
勇者軍が王都リベラを出発する時刻が近づいていた。
宿屋の一室で、勇者アレク(田中雄也)は最後の準備をしていた。
剣を研ぎ、鎧を点検し、魔法の道具を確認する。
だが、心は複雑だった。
「今日、全てが決まる...」
ドアがノックされる。
「アレク、準備はいい?」
戦士ガイの声だ。
「ああ、すぐ行く」
アレクが答える。
ドアが開き、仲間たちが入ってくる。
戦士ガイ。筋肉質で単純明快な性格。忠実な仲間だ。
魔法使いレナ。知的で冷静。戦術の立案が得意。
盗賊ジン。身軽で情報収集が上手い。軽口を叩くが、仲間思い。
そして—
「おはようございます、アレク様」
聖女ミリア。
だが、何かが違う。
昨日までの疲れ切った表情ではなく、晴れやかな笑顔を見せている。
「ミリア...調子が良さそうだな」
「はい。昨夜、祈りが通じたみたいです」
ミリアが微笑む。
「本当の自分の力が、分かりました」
アレクは察した。
ノワールが約束通り、ミリアと接触したのだ。
「それは良かった」
アレクも微笑み返す。
「では、出発しよう」
一行は宿屋を出て、王都の門に向かう。
街の人々が見送りに集まっている。
「勇者様、頑張って!」
「魔王を倒してください!」
「世界を救ってください!」
歓声と祈りの声。
だが、アレクの心は重い。
今日、彼らが期待している「勇者が魔王を倒す物語」は起きない。
代わりに、全く新しい物語が始まる。
理解されるだろうか。受け入れられるだろうか。
「アレク」
ガイが心配そうに声をかける。
「緊張してるのか?」
「少し、な」
アレクが苦笑する。
「でも、大丈夫だ」
嘘ではない。緊張はしているが、不安はない。
魔王ヴェルド(黒瀬透)も転生者。ノワール(佐藤優奈)も転生者。聖女ミリア(田中花音)も転生者。
みんな同じ想いを抱いている。
必ず、理解し合える。
王都の門を通り、一行は虚無城に向かう道を歩き始める。
「アレク様」
ミリアが隣に歩み寄る。
「今日の戦い...本当に大丈夫ですか?」
「何が?」
「『愛の力』を...使わなくても?」
アレクが振り返る。他の仲間たちは少し離れて歩いている。
「ミリア、お前も...」
「はい」
ミリアが小さく頷く。
「昨夜、闇の四天王ノワールと話しました」
「そうか」
「彼女も転生者だと聞きました。そして、魔王も、アレク様も」
「ああ」
アレクが認める。
「みんな、同じ境遇だ」
「それで」
ミリアが決意を込めて言う。
「今日は、『愛の力』ではなく、私の本当の力で戦います」
「本当の力?」
「魔法少女の力です」
アレクが目を見開く。
「魔法少女?」
「はい。私の本当の夢は、魔法少女になることでした」
ミリアが恥ずかしそうに言う。
「『愛の力』なんて、私の力じゃありません」
「そうか...」
アレクが納得する。
「なら、お前も本当の自分で戦えるんだな」
「はい」
ミリアが微笑む。
「でも...」
「でも?」
「ガイさんたちには、どう説明すれば?」
アレクが仲間たちを見る。
戦士ガイ、魔法使いレナ、盗賊ジン。
彼らはNPCだ。だが、この世界では生きた人間として存在している。
「正直に話そう」
アレクが決意する。
「少なくとも、今日の戦いについては」
一行は虚無の平原に差し掛かる。
遠くに、黒い城—虚無城エレボスが見える。
「あれが...」
ガイが呟く。
「魔王の城か」
「禍々しいな」
ジンが顔をしかめる。
「でも、今日で終わりだ」
レナが杖を握りしめる。
「みんな」
アレクが立ち止まる。
「その前に、話がある」
仲間たちが振り返る。
「話?今?」
ガイが困惑する。
「ああ。大事な話だ」
アレクが深呼吸する。
「今日の戦いは...いつもと違う」
「どう違うんだ?」
ジンが聞く。
「魔王を倒すのが目的じゃない」
「は?」
三人が驚く。
「魔王を倒さないって、どういうことだ?」
ガイが混乱する。
「俺たちは勇者軍だぞ?」
「そうだ」
アレクが頷く。
「だが、今回の敵は魔王じゃない」
「じゃあ、誰だ?」
「この世界を操る、見えない力だ」
三人が顔を見合わせる。
「アレク」
レナが心配そうに言う。
「疲れてない?少し変よ」
「疲れてない。これが真実だ」
アレクが真剣に言う。
「俺たちは操られている。決められた筋書き通りに動かされている」
「筋書き?」
「そうだ。『勇者が魔王を倒す』という筋書きに」
アレクが空を見上げる。
「だが、それは本当の俺たちの意志じゃない」
「アレク様」
ミリアが口を開く。
「私からも説明させてください」
「ミリア?」
ガイたちがミリアを見る。
「実は...私も同じ気持ちなんです」
「同じ気持ち?」
「『愛の力』で魔王を倒すって決まってますが...それは私の本当の力じゃありません」
ミリアが光に包まれる。
そして現れたのは—
魔法少女だった。
「これが、私の本当の姿です」
三人が絶句する。
「み...ミリア?」
「はい。魔法少女ミラクル・フラワーです」
ピンクのドレス、白いブーツ、星のティアラ。
完全に魔法少女の格好だ。
「なんで...聖女が...魔法少女に...」
ジンが混乱している。
「説明が難しいんですが」
ミリアが苦笑する。
「私の本当の力は、魔法少女の力なんです」
「そして」
アレクが続ける。
「今日の戦いは、その本当の力で戦う」
「『愛の力』じゃなく?」
レナが確認する。
「そうだ。『愛の力』なんて、安っぽすぎる」
アレクが断言する。
「俺たちには、もっとちゃんとした力がある」
三人がしばらく沈黙する。
やがて、ガイが口を開いた。
「よく分からんが...」
「分からん?」
「ああ。でも、アレクとミリアがそう言うなら」
ガイが剣を握る。
「俺も一緒に戦う」
「ガイ...」
「レナはどうだ?」
「私も」
レナが頷く。
「理屈は分からないけど、仲間を見捨てるわけにはいかない」
「ジンは?」
「俺も同じ」
ジンが苦笑する。
「魔法少女と一緒に戦うなんて、珍しい体験だしな」
アレクが安堵する。
「ありがとう、みんな」
「でも」
ガイが聞く。
「魔王はどうするんだ?本当に戦わないのか?」
「戦う」
アレクが答える。
「だが、殺し合いじゃない。お互いの力を確かめ合う、本当の戦いだ」
「なるほど」
レナが理解を示す。
「決闘みたいなもの?」
「そういうことだ」
こうして、勇者軍も準備が整った。
転生者が三人、NPCが三人。
奇妙な混成軍だが、心は一つだ。
虚無城が近づいてくる。
そして、城の前に人影が見える。
魔王と四天王たち。
迎撃ではなく、出迎えだ。
「いよいよだな」
アレクが呟く。
「本当の最終決戦の始まりだ」
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