聖女姫と道化師「姫様が俗物で困っています!」
@007NYASU
みんなの聖女姫様
王都の朝は、例外なく美しかった。
城下の広場には朝露を帯びた石畳が陽光に照らされ、白鳩が空を舞う。市は活気に満ち、人々の顔は笑みに溢れている。その視線のすべてが、一つの場所へと向けられていた。
白銀の大階段――その頂から、彼女は姿を現した。
純白のドレスは金糸の刺繍に彩られ、風にそよぐ金の髪は陽の光を受けてきらめく。
彼女が微笑めば、空気さえも柔らかくなる。
「皆さま、ごきげんよう。今日も良き日でありますように――」
その声は鐘の音より澄み渡り、慈愛に満ちた瞳はすべての者を等しく見つめる。
歓声が起こり、子供たちは花を投げ、老いた人々は涙ぐむ。
民は祈るような目で彼女を見る。
その名を――セシリア姫。
聖女のごとく崇められ、光の象徴と称される王国の第一姫。
その気高く、完璧な微笑みは、誰の心にも祝福のように届く。
……少なくとも、広場にいる限りは。
*
「~~~~もう無理っっ! あの笑顔、一時間もやったら顔面崩壊するぅぅぅぅ!!」
ドレスのまま控えの間のソファに倒れ込み、セシリア――否、セリィは顔を埋めて叫んだ。
「この靴、痛い! 王国規定ヒールとか意味わかんない! マジであのドレス汗だくだし、早く風呂入らせて~~~!!」
ソファの上で暴れる姫に、使用人たちは目を逸らし、退出の気配すら見せない。
この光景は日常。誰も驚かない。
「お疲れさまでした、“聖女姫”セシリア様」
控えの隅で道化の青年が、紅茶を一杯手にしながら、ニヤついた顔で近づいてくる。
金髪に赤い羽飾り、軽薄そうな微笑み。
彼の名はカイル。セシリアの側に仕える“道化師”であり、幼馴染である。
「……カイル、その顔うざい」
「褒め言葉として受け取っておきますよ、セリィ」
そう呼ばれた姫は、枕を掴んで彼めがけて投げつけた。
が、カイルはひょいと交わし、紅茶を一口。
「今日は特に光り輝いておられました。涙する民、倒れる老女、鳩も舞い、花も降り――」
「うっさい!! 顔がひきつってたでしょ!? あたし途中から目死んでたもん!!」
「まあまあ。聖女の演技も板についてきましたし」
「演技言うな! ていうか、カイル、アレ買ってきた?」
「はいはい、こちら“ゴシップ宮廷版・特別増刊号”。表紙は近衛兵のイケメン隊長です」
「よっっっしゃ!!」
すぐさまページをめくる姫。
その後、イケメン近衛兵に彼氏がいたことを知り、ものすごく荒れたのは言うまでもない。
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