聖女姫と道化師「姫様が俗物で困っています!」

@007NYASU

みんなの聖女姫様

王都の朝は、例外なく美しかった。




 城下の広場には朝露を帯びた石畳が陽光に照らされ、白鳩が空を舞う。市は活気に満ち、人々の顔は笑みに溢れている。その視線のすべてが、一つの場所へと向けられていた。




 白銀の大階段――その頂から、彼女は姿を現した。




 純白のドレスは金糸の刺繍に彩られ、風にそよぐ金の髪は陽の光を受けてきらめく。




 彼女が微笑めば、空気さえも柔らかくなる。




「皆さま、ごきげんよう。今日も良き日でありますように――」




 その声は鐘の音より澄み渡り、慈愛に満ちた瞳はすべての者を等しく見つめる。


 歓声が起こり、子供たちは花を投げ、老いた人々は涙ぐむ。




 民は祈るような目で彼女を見る。


 その名を――セシリア姫。




 聖女のごとく崇められ、光の象徴と称される王国の第一姫。


 その気高く、完璧な微笑みは、誰の心にも祝福のように届く。




 ……少なくとも、広場にいる限りは。




  







 




「~~~~もう無理っっ! あの笑顔、一時間もやったら顔面崩壊するぅぅぅぅ!!」




 ドレスのまま控えの間のソファに倒れ込み、セシリア――否、セリィは顔を埋めて叫んだ。




「この靴、痛い! 王国規定ヒールとか意味わかんない! マジであのドレス汗だくだし、早く風呂入らせて~~~!!」




 ソファの上で暴れる姫に、使用人たちは目を逸らし、退出の気配すら見せない。


 この光景は日常。誰も驚かない。




「お疲れさまでした、“聖女姫”セシリア様」




 控えの隅で道化の青年が、紅茶を一杯手にしながら、ニヤついた顔で近づいてくる。


 金髪に赤い羽飾り、軽薄そうな微笑み。


 彼の名はカイル。セシリアの側に仕える“道化師”であり、幼馴染である。




「……カイル、その顔うざい」


「褒め言葉として受け取っておきますよ、セリィ」




 そう呼ばれた姫は、枕を掴んで彼めがけて投げつけた。


 が、カイルはひょいと交わし、紅茶を一口。




「今日は特に光り輝いておられました。涙する民、倒れる老女、鳩も舞い、花も降り――」


「うっさい!! 顔がひきつってたでしょ!? あたし途中から目死んでたもん!!」


「まあまあ。聖女の演技も板についてきましたし」


「演技言うな! ていうか、カイル、アレ買ってきた?」


「はいはい、こちら“ゴシップ宮廷版・特別増刊号”。表紙は近衛兵のイケメン隊長です」


「よっっっしゃ!!」




 すぐさまページをめくる姫。


 その後、イケメン近衛兵に彼氏がいたことを知り、ものすごく荒れたのは言うまでもない。

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