第5話 振り向かない彼

「今日の会食は気が張って疲れたわ」

「ですが、上手く立ち回れていらっしゃいましたよ」


 珍しくクラークが私を褒めた。それだけで疲れも吹っ飛んだ。もう一度さっきの話の真相を掘り起こそうとも考えたが、逆に疲れるだけだと諦める。

 

 クラークが誰を好きでも嫌いでも関係ない。彼は私の側近だ。それ以上でもそれ以下でもないと言われて終わるのが目に見えるようだった。


「アウベス国の領土からも税の取り立てができるようになれば、うちの国は無税でも構わなくなるんじゃないかしら」

「いいえ、無税はいけません。国の一旦を自分達が支えているという自覚がなくなります」

「じゃあ、引き下げは?」

「それも聖女様と国王陛下が話し合われてください」


 いかにも自分には関わり合いのないこととして言われた気がした。確かに聖女の側近が国政に口を出すのはどうかも思うが、クラークは今ではただの側近ではない。相棒だ。クラークは私をどう思っているのかは不明だが。


 馬車が宮殿の車寄せに到着し、先に下り立ったクラークが私のドアの方に回り込む。ドアを開け、手を握って下ろしてくれた。


「ありがとう」


 私が礼を言っても目くばせひとつで終わらせる。なんだかずっと機嫌が悪い要因がわからない。シモンやジャスティン、レイまでが私への好意を露わにしてからというもの、ずっとこうだ。


 私は三人に対して答えを出すつもりはない。

 互いに互いを競わせて、兵力を上げた方が得策だ。

 あくどいと言われても私は平気だ。何しろ私はバカ聖女なのだから。道徳も同情も何も感じない。


 ただ、三人のうちならレイがいちばんか。

 黒衣が似合うニヒルな見た目も愚直すぎるほどの誠実さも、無口で控えめなところも私のタイプだ。だが、彼は自分がタールーラ国に寝返ったせいで恋人が串刺しの刑に合ったばかりだ。

 たとえレイが私に好意を抱き始めているとしても、そんな彼に言い寄るほど私はバカじゃない。今はそっとしておくしかないだろう。

 

「それじゃあ、私は会食の報告と今後の税収や国政のことで、国王陛下にご報告申し上げに行きます」

「かしこまりました」


 クラークとは玄関で二手に分かれた。

 私は肩越しに振り返ったが、クラークは振り向かなかった。


 

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