第2話 シモン

 本館の正面玄関から私の部屋まではクラークが案内してくれた。


「さぁ、こちらです」


 その得意顔が鼻について少しも喜べない。

 確かに部屋の広さは二倍近くなっている。家具は白で統一されていて、天井や白漆喰壁しろしっくいかべやチェストの扉にしつらえられた彫刻には金箔が貼られていた。剥がしたり汚したりしたら雷を落とされるんだろうなと、暗い気持ちになる。だが、特筆すべきはベッドの広さだ。

 私は駆け寄り、ダイブする。


「ベッドは最高。気に入った」

「それはようございました」


 何度ダイブしてもふかふかだ。ハンモックのゆらゆらも良かったが、羽毛布団のふかふかも捨てがたい。


「食堂室は別館に移動させました。食堂でお食事の支度が出来ています。お移りください」

「今はこうしていたいんだけど」

「食事にはタイミングというものがあります。料理長が最高のタイミングで料理を提供できるよう、ご協力ください」

 

 私は恨みがましい目で彼を見る。私の人生はなかなか私の思い通りになってくれない。


「わかったわ」


 渋々私はベッドを下りた。先導するクラークの後に続きつつ、別館の食堂室は、ついでに来賓に景色の良さを堪能してもらうために本館の四階に移動させたとか、武器庫は壊滅状態だったとか、召使いの部屋は最も逃げやすい一階へ移動させた等々の説明を受ける。

 私の部屋は中間にあたる二階だ。

 四階建ての本館では、上にも下にも逃げやすい。


「武器ならもう買ったんでしょう? 軍艦四隻買ったんだから」

「買えば問題ないという話ではありません。そこまで攻め込まれていたことが問題なんです」

「じゃあ武器庫は何階なの?」

「武器庫は別館に用意しました」

「なるほどね。本館に侵入されて取られるよりも別館を囲めば安全は確保できるもの」

「今回の砲撃で見直すべき箇所が多くありました」


 しばらくすると別館の食堂室に着く。食堂室のドアもシモンが開けてくれていた。


「いらっしゃいませ。こんばんは」

「ありがとう」


 そんなに気にしていないはずなのに、喉が詰まったようになる。


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