第7話 撤収

「撤収!」


 主だった戦艦が沈没すると、深追いはせず、クラークが相変わらず刀を軍扇ぐんせん代わりに指揮をする。

 湾に向かって走らせる。

 雨が小降りになるにつれて風が吹き、厚ぼったい暗雲のあちこちが裂け始め、黄金色の日が射した。

 結局、私の出番など何もなかった。

 すべてクラークが指揮をして、衝角しょうかくを装備させた小舟でアウベス国の海軍を蹴散らせた。


 船が浜に着くと、クラークはびしょ濡れの私に手を伸ばし、引っ張るようにして下ろしてくれた。


「ケガはないか?」

「ありがとう。大丈夫」


 平和が脅かされいる今、クラークがこんなに勇ましくて頼りになるとは思わなかった。

 いつも私に小言を言うだけの小姑こじゅうとだと思っていた。


「せっかく着替えたばかりだったのにな」


 クラークは私を笑ったが、言葉が喉で詰まって言い返せない。反論しない私をクエスチョンマークが頭の上に乗ったような顔をしている。


「仕方がないから、またシャワーを使うしかないわ」


 私は労いの言葉も伝えずに、それだけ言い残して背を向ける。

 鼓動が高鳴り、早鐘を打っている。

 あらためてクラークを見返せば、目鼻立ちの整った端正な顔立ちだったのだ。綺麗だなとは思っていたが、その綺麗が今は別の意味で私の鼓動をかき乱す。


「俺は国王陛下へ戦勝の報告に行く。出来るだけ早く戻って来る」


 労いの言葉がなくても特に気分を害したような様子もなく、閉じた唇の両端をきゅと持ち上げるようにして笑んでいる。それを可愛いと思ってしまった私がいた。



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