ハルの旅旅1 〜心の傷が分かる国〜

雨宮 隅

第1話 ゆびきりげんまん

1


 ニンゲンのハルと、カミのセブンは、森の中のよく午後のが当たる場所で、旅の途中の一休みをしていました。

 目指している国は目の前、もうあと一息です。


「空気がいいねえ」

「そうだなー」

「和むねえ」

「そうだなー」


 がさがさがさ、と近くの茂みが音を立てました。

 ハルはびくっと肩を振るわせ、頭の上のセブンがぼとっと地面に落ちました。


「な、なに!?」

「あ、いたた……、急に動くなよ!」

「ご、ごめん」


 がさがさがさ。

 ひょっこりとヒトの少年が現れました。


「わあ、ニンゲンさまだ! 銀色の髪の毛、紅い瞳、真っ白な服。噂に聞いてた通りだ! 本物だあ!!」

「うええええ!?」


 ハルは人見知りで、怖がりなので、セブンを手に持って、少年との間の盾にしました。


「カミさまもやっぱり一緒にいる! すごい真ん丸で、真っ黒!」

「ふっ、かっこいいだろ?」

「かわいい!」


 セブンはぎゅっとされました。



2

 かきかき。

 すーはーと息を整えると、ハルはごそごそ、平ぺったい機械を取り出して、何か書き始めました。


「何してるの?」

「メ、メモしてる」

「何を?」

「な、ないしょ」


 その後、ハルとセブン、カイトという少年はお話をしました。


「今日は学校は休みなのか?」

「ううん」

「さぼったのかよ?」

「うん」


「さ、サボりはよ、よくない……」


 ハルがぼそぼそと言います。


「まあなー」


 セブンはとりあえず同意しました。


 カイトは顔をしかめて、言いました。


「だって学校に行くと、イジメられるもん」


「そうなのか」


 ときんときんの黄色いくちばしを、さらにとがらすセブン。

 どう言葉をかけたらいいか、分からないハル。


「ダサい、汚い、キモイ、死ね。よくある悪口を浴びるだけだよ。体は傷一つない、健康体。でも心はぼろぼろ。でも、それを証明できない。だって心は見えないもん。心の傷は見えないもん」


 少年の瞳に涙はなくて、表情もなくて、感情は枯れようとしていました。


 疲れちゃった。


「僕は弱いね」


「そんなことたあない」

「う、うん。強い、よ」


 だって、


「「まだ生きてる」」



3


「つ、辛かったね」

「うん」


「よく頑張ったな」

「うん」


「何か僕たちにできることはあるか? できることなら、何でもするぞ。ハルが火でも吹こうか?」

「えっ、火が吹けるの!? すごい!」


「いやいやいや、むりむりむりだから!!」


 ハルは頭をぶんぶん振って否定します。


「テキトーなこと言わないでよ、この毛玉」 

「はっははー。けだまって言ったな? よおし戦いだ」


 一人と一匹は、しばし殴り合いました。



4


 かきかき。

 またハルは何か書きました。

 やっぱり内容は教えてくれません。


「で、話を元に戻すぞ」と傷一つないセブン。

「な、何かして欲しいこと、ない?」と傷一つないハル。


「僕の誕生日がもうすぐなんだ。一緒にお祝いして欲しいな。いい?」

「もちろんいいぞ」

「よ、喜んで」

「わーい」


 その後、カイトは自分の国の自分の家に、ハルとセブンを案内しました。

 カイトの家族、両親と姉は驚きましたが、事情を話すと喜んで一人と一匹を泊めてくれました。

 

5


 誕生日の日、ささやかなパーティーが開かれました。

 バースディソングを歌って、料理とケーキを食べて、みんながカイトにプレゼントを渡しました。

 カイトが喜んでくれて、みんな嬉しくなりました。


6


 旅立ちの日が来ました。


「ハルさま、セブンさま、また来てくれる?」


 カイトはとても寂しそうです。


「ああ」

「う、うん。また一年経ったら来るよ」


 ハルにできることはしました。

 学校とお役所には相談しました。

 人見知りで怖がりなハルは、とても緊張しました。


 かきかき。


 いじめっこたちに、「い、い、いじめたら、ニンゲンさまの呪いをかけるぞー、本気だぞー」と警告しました。


「あれは傑作だった」

「う、うるさい、毛玉」


 ひと喧嘩、ぼこすかぼこすか。

 その後、メモかきかき。


 効果は必ずあるはずです。

 でも、「いつまで」あるかは分かりません。


「絶対だよ? 絶対来てね?」

「うん、ぜったい。だ、だからあなたも頑張って生きて欲しい」


 ハルとカイトは、小指を絡ませました。

 セブンは羽根しかなくて、指がないので、ただ眺めています。


「「ゆびきりげんまん」」


 嘘ついたら、


「「はりせんぼん、飲まーす」」


 こうしてハルはいつものように、セブンを頭にのっけて、旅立ちました。


 その後、ハルは約束を守りました。

 

 でも、カイトは約束を守れませんでした。















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