第3話「止まった時間」

午後の授業が進む中、私は何度も目をそちらに向けてしまった。

時雨は相変わらず、窓際の席に座ってじっと外を見つめている。

授業に集中しようとしても、どうしても気になってしまう。

時雨の存在は、教室の中でまるで別の世界にいるかのように感じられた。

彼女の目線の先に広がるのは、今の教室ではない。

何か遠く、見えない場所を探しているようだった。


「ねぇ、やっぱりおかしいよね、あの子」

隣の席のひかりが、私の肘をつついてきた。


「うん、ふつうじゃない」

私もひかりに小声で答えたけれど、時雨はこっちを見たわけでもないのに、ほんの少しだけ口角を上げた。


その瞬間、ひかりと私は目が合った。お互いに、彼女についてもっと知りたくなる感覚があった。

ひかりの目には、少しの好奇心とともに、疑問の色が浮かんでいた。


チャイムが鳴り、授業が始まる。

でも、時雨はノートを開く代わりに、小さな革の手帳を取り出し、何やら細いペンで書きつけていた。

その手帳の表紙には、銀色の大きな時計の絵が描かれていた。

針は十二時を指したまま、止まっていた。


「また、あの時計か…」

私は思わず呟いた。あの時計の針が止まっていることが、ずっと気になっていた。

でも、どうしてもその意味がわからない。


ひかりが私に小声で話しかける。

「ねぇ、見てみて。さっきから、何か変じゃない?」

私はひかりの目線を追ってみると、時雨が手帳に何かを書き込んでいる。

そのペンの先から、ほんのわずかな光が漏れているのを見た。


「え?」

私も目を凝らして見たが、確かに、時雨のペン先が少しだけ光っていた。

でも、それはただの光の反射だと思いたかった。


「気のせいじゃない?」

私はひかりに笑って答えるが、心の中で何かがひっかかっていた。


その瞬間、教室の中で奇妙なことが起こった。

机の上のペンが突然、ほんの少し動き、床に転がり落ちたのだ。

その動きに誰も気づかないように、何事もなかったかのように授業が続いていく。

だが、私はその瞬間に確信した。


時雨が書いたことが、何か現実に影響を与えている。

そのことをひかりに伝えたかったけれど、言葉にするのが怖かった。

もしかしたら、私たちの知らないところで、彼女が何かを操作しているのかもしれない。


授業が終わり、みんなが教室を出ていく中、時雨はゆっくりと席を立ち、静かに教室を出ていった。

その姿を見送ると、ひかりが不安そうに私を見た。

「ねぇ、あの子、何かおかしいよね?」


私はうなずいた。

「うん、絶対に。だけど、何が起きてるのか、まだわからない」


その言葉が口から出た瞬間、またふと、時雨の手帳が気になった。

あの時計の針は、まだ止まったまま。

私たちの知らないところで、時間が止まっているのだろうか?

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