過去の妻を俺は
@shalabon
第1話 携帯
「あなた、沙織と由紀と買い物に行ってきますね。」
妻の純玲(すみれ)が笑顔で声をかけてきた。
「うん。何を買うの?」
「新しい服と、靴がほしいんですって。」
「いいでしょ。冬休みに遊びに行く時、着たいんだもん。」
「はい、はい。あなた、行ってきます。」
「うん。こっちは片付けやっておく。」
姉妹みたいに仲の良い母子を見送った。
「さて、やるか。」
クロゼットの片付けに取り掛かった。1畳半ほどの夫婦のウォークインクロゼット。夫婦の寝室とつながっている。左右に俺と純玲で分けて使っている。コート、スーツ類は掛けて、パンツやシャツ類は畳んで棚に置いてあるので、ちょっとしたショップのようだ。2人とも普段の仕事でスーツを使うのでフォーマルな服が多く、そこに普段着があるので、さすがに手狭になっていた。
「もう、着ない服を片付けないとだめだな。」
着なくなったTシャツやセーターを段ボールに入れていく。純玲のものは勝手に捨てるわけにいかないので、棚に畳んで置いてある服を畳みなおしたり、種類ごとに整理し直していた。
「あれ?」
純玲の棚の一番上のブラウスを持ち上げると、その下に携帯電話があった。ずいぶん古いモデル。いわゆるガラケーだ。純玲の物か?こんな携帯使っていたか?見覚えがない。
聞いてみようかと思ったけれど、出かけてしまったのでそれもできない。電源は当然入らない。まあ、もういらないだろうし、データも移行してるだろうな。不燃ごみの袋に入れようかと思ったけれど、とりあえずデジカメやLANケーブルなど使ってないPC関係の引き出しに放り込んだ。
そのまま、携帯のことは忘れてしまったが、ひょんなことから思い出すことになる。
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