迷いの森のツンデレ妖精と、秘密の耳かき膝枕

すまげんちゃんねる

第1話:森の番人と綿毛の誘い

(SE: 静寂に包まれた森の環境音。遠くで澄んだ水のせせらぎ、チリリ…という神秘的な虫の音、時折キラキラ…という魔法的な音が微かに響いている。全体的に静かで幻想的な雰囲気)

(SE: あなたが「ん…ぅ…」と小さく身じろぎする音。ゆっくりと意識が浮上してくる感覚)

リリィ:

「……………」

(SE: サラ…という衣擦れの音)

「……………ふん」

(あなたの視界がゆっくりと開けていく。目の前には、腕を組んであなたを仁王立ちで見下ろしている、小さな妖精リリィの姿がある)

リリィ:

「あら。やっとお目覚め? ニンゲン」

「ずいぶんと気持ちよさそうに眠ってたじゃない。よだれ、垂れてたんじゃないの?」

「ここがどこだか、わかってるの? あんたみたいなおマヌケさんが、ふらふら迷い込んでいい場所じゃないのよ、ここは」

(あなたは状況が飲み込めず、ゆっくりと体を起こそうとする)

(SE: あなたがザワ…と服の音を立てて身を起こす音)

リリィ:

「自己紹介がまだだったわね。私はリリィ。このティタニアの森の、由緒正しき番人よ」

「あんたみたいな、方向音痴で、おっちょこちょいで、すぐ森で迷子になるおバカさんを、ちゃんと森の外へ誘導してあげるのが、ま、私の仕事ってわけ」

「……何よ、その顔。不満でもあるわけ?」

「ほら、さっさと立ちなさい。森の出口まで案内してあげるから。…って、言いたいところなんだけど…」

(あなたが立ち上がろうとして、こめかみを押さえてふらつく)

(SE: あなたが「ぅ…」と小さくうめき、頭痛に耐えるような仕草の音)

リリィ:

「…! ちょっと、大丈夫なの…?」

「…ふん、やっぱりね。思った通りだわ。顔色、最悪よ。土気色っていうの? まるで腐ったキノコみたい」

「頭、痛いでしょ。なんかこう、キーンって高い音が鳴り続けてる感じじゃない? それか、頭全体が重くて、水の中にいるみたいにぼーっとするとか」

「…図星、でしょ。なーんでもお見通しなんだから」

リリィ:

「この森の『音』は特別なの。花が咲く音、木々が呼吸する音、妖精たちの囁き声…。私たちにとっては心地いい音楽だけど、ニンゲンの耳にはただの雑音。情報量が多すぎて、あんたの耳と頭が処理できずにショートしてるのよ」

「言わば、性能の低い機械(からくり)に、無理やり大量の情報を詰め込んでるようなもんね。そりゃあ壊れもするわ」

リリィ:

「はぁ〜〜…(深くて長いため息)。まったく、だからニンゲンは厄介なのよ…。放っておけば勝手に倒れるし、かといって、そんなボロボロのまま森の外に放り出すなんて…」

「わ、私の寝覚めが悪くなるじゃない! そうよ、私の! 私がスッキリ眠れないのが嫌なだけ! 別にあんたの心配なんて、こーんな(指でミジンコほどのサイズを作りながら)これっぽっちもしてないんだからねっ!」

リリィ:

「…しょうがないわね…。ほんっとうに、しょうがないんだから!」

「特別に、この私が、あんたのその汚くて詰まっちゃってる耳、掃除してあげる!」

「い、言っとくけど、サービスじゃないわよ!? これは治療! 森の番人としての、義務! 感謝しなさいよね! 感動して涙を流してもいいくらいなんだから!」

(リリィはそういうと、自分の足元をポンポン、と叩く)

(SE: ポンポン…と自分の柔らかそうな服の上から膝を叩く音)

リリィ:

「ほら、何ぼーっとしてるのよ。こっち来なさいって言ってるの」

「そこに、頭、乗せなさい。…膝枕、してあげる」

(あなたが驚いて、躊躇している)

リリィ:

「な、ななな、何よその顔! 人がせっかく、その…ひ、膝枕してあげるって言ってるんじゃない! 妖精の膝枕よ!? 普通、何百年積んでも体験できないくらいの栄誉なんだからね!」

「い、嫌ならいいけど!? すぐにでも森の入り口まで蹴り飛ばしてあげるわよ! 頭痛いまま野犬にでも襲われればいいんだわ!」

「…早くしなさいよ…。…その、足、痺れてきちゃうじゃない…」

(あなたがおそるおそる、リリィの膝に頭を乗せる)

(SE: ザワ…と衣擦れの音。あなたの髪がリリィの服に触れる優しい音)

リリィ:

「〜〜〜っ!」

「お、重っ…! ニンゲンの頭って、石ころみたいに重いのね…!」

「ていうか…あったかい…。…って、何考えてんのよ私! 早く終わらせてさっさと帰らせるんだから!」

「いい!? 絶対に変な動きしないでよね! 私の言うこと、ちゃーんと聞いてなさい。わかったら返事は?」

「……(あなたがこくりと頷く)…ふん、よろしい」

リリィ:

「それじゃあ…まずはお試し。肩慣らしってとこかしら」

「使うのはこれ。『太陽を浴びたタンポポの綿毛』。ふわっふわで、とっても柔らかいの。これでまず、あんたの右耳の、入り口からお掃除してあげる」

(SE: ふわ…と綿毛を取り出す音。空中で軽く振るカサ…という音)

リリィ:

「いくわよ…。失礼するわね…」

(リリィがあなたの右耳に顔を近づける。彼女の温かい吐息が、あなたの耳にかかるのを感じる)

(SE: フワフワ…カサカサ…と綿毛があなたの耳介(耳の外側の部分)を優しく撫でる音。非常に繊細で、くすぐったくて、空気の揺らぎを感じるような、極上の音)

リリィ:

「…どう? くすぐったい? …ふふ、そうでしょうね。でも、我慢しなさい」

「まずは、外側からよ。この、耳の縁の複雑なところ…。ニンゲンって、どうしてこんな変な形してるのかしらね。ゴミが溜まりやすいだけじゃない」

(SE: カサ…カサ…と耳の溝を丁寧になぞる音)

リリィ:

「あんまり動くと、中に入れられないでしょ。…じっとしてて。そう、上手…」

「それじゃあ…いよいよ、入り口に、ちょっとだけ…綿毛の先、入れてあげる」

(SE: さっきよりも少しだけ、耳の穴の入り口付近をフワ…コソコソ…と撫でる音)

リリィ:

「ふふっ…。どうかしら…?」

「いきなり奥までズブズブって突っ込まれるより、こうやって入り口のあたりを、ずーっとじらされる方が、なんだかこう…ゾクゾクするでしょ…?」

「あんたの肌、鳥肌立ってるわよ。…見えてるんだから」

(SE: コソコソ…フワフワ…と執拗に、だが優しく入り口付近の掃除が続く)

リリィ:

「んっ…♡」

「ねえ、あんまり気持ちよさそうな息、吐かないでくれる…。なんか、こっちまで…変な気分になってきちゃうじゃない…」

「私がやってあげてるんだから、気持ちいいのは当然なんだけど…。それにしても、あんた、反応良すぎ…。ちょっと面白くなってきちゃった…」

(あなたの気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる)

(SE: あなたが「はぁ…」と完全にリラックスした息を漏らす音)

リリィ:

「ちょっ…! だから、そういう声出すなっつーの! この朴念仁! 無自覚! 天然タラシ!」

「こっちが、どれだけ恥ずかしいか、わかってないでしょ! この! ばかニンゲン!」

リリィ:

「…ふんっ!」

「もういいわ! 今日のところは、これくらいで勘弁してあげる! 入り口が綺麗になって、外の音が少し柔らかく聞こえるようになっただけでも、少しは楽になったでしょ!?」

(リリィは少し名残惜しそうに、綿毛を耳から離す)

リリィ:

「でもね、言っておくわよ。さっき、あんたの『中』…こっそり覗いてみたんだけど」

「とんでもないことになってたわ。今日の綿毛のお掃除なんて、ほんの準備運動。序の口よ」

「その奥にはね、もっとすごくて、頑固で、固くて…おっきいのが、壁にへばりついて、潜んでるわよ…」

「ふふふっ…。それを取るのは、また今度ね」

リリィ:

「次に来る時までに、ちゃんと覚悟、しておきなさいよね」

「じゃあね。…私の、ニンゲン」

(SE: パタパタパタ…という軽い羽音が響き、リリィが飛び去っていく。あとに残されたあなたは、少しだけ軽くなった頭と、さっきよりも格段に心地よくなった森の音に包まれながら、彼女が去っていった方向を、ただぼんやりと見つめているのだった)

(第一話 完)

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