第20話 運命の三角関係、涙の対決
1 約束のカフェ
約束の日。
私と彼は、街外れの静かなカフェに向かっていた。
秋風に揺れる木々の間を歩きながら、私は彼の手を強く握る。
「本当に……大丈夫?」
「大丈夫。君がそばにいれば」
彼の声は落ち着いていたが、その奥に隠された緊張を私は見抜いていた。
彼の心臓の鼓動が、私の手のひらに伝わってくる。
カフェの扉を開けると、そこに彼女がいた。
長い黒髪を揺らし、まっすぐこちらを見つめる瞳。
彼の元カノ――美里。
彼女の存在感に、空気が一瞬で張り詰めた。
---
2 過去と現在の狭間で
「来てくれてありがとう」
美里は微笑んだが、その瞳は涙をこらえているようだった。
「俺も……話さなきゃいけないと思ったから」
彼は椅子に座り、私もその隣に腰を下ろした。
沈黙が数秒続き、やがて美里が口を開いた。
「まだ覚えてる? 二年前の夏。海辺で言った言葉」
「……覚えてる」
「私たち、運命だって。永遠だって。
なのに、どうしてこんなにあっさり終わらせられるの?」
彼の横顔が苦しげにゆがむ。
私の胸も痛んだ。
“運命”という言葉が、まるでナイフのように突き刺さる。
---
3 揺れる心
「美里……俺はあの時、本気でそう思ってた。
でも今は違う。俺の隣にいるのは彼女だ」
そう言って、彼は私の手を握った。
その温もりに少し救われる。
だが、美里の目に涙がにじんだ。
「そんなの、信じられない。私だってまだ……こんなに愛してるのに」
テーブルの上に、彼女の涙が落ちた。
その姿に同情しそうになる自分が怖かった。
愛されることは残酷だ。
愛が強すぎると、人を壊してしまう。
---
4 告白と裏切り
「私、ずっと待ってたの。あなたが戻ってくるって」
美里の声は震えていた。
「でも……その隣にいる彼女を見るたび、涙が止まらなかった。
どうして私じゃダメなの? どうして彼女なの?」
突き刺すような言葉に、私は息を呑む。
私じゃなかったら――?
そんな考えが一瞬よぎり、怖くなる。
「……俺は彼女を選んだんだ」
「裏切りだよ、それ」
「違う。未来を選んだんだ」
彼の声は静かで、でも強かった。
---
5 涙の対決
ついに美里は立ち上がり、私をまっすぐ見た。
「あなたは幸せ? 本当に彼といて幸せ?」
挑むような瞳。
私は逃げられなかった。
「幸せです。彼と出会えて、愛されて……苦しい時もあるけど、全部が私の運命だと思える」
震えながらも、言葉を吐き出した。
その瞬間、美里の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「……わかった。
負けたよ。あなたには敵わない」
彼女は涙をぬぐい、かすかに笑った。
「私の“運命”は、彼じゃなかったのかもしれないね」
---
6 決別
美里は手紙を一枚差し出した。
「最後にこれだけ受け取って。もう二度と会わないから」
彼は黙ってそれを受け取った。
封筒の中には――感謝の言葉と、別れの言葉。
「ありがとう。さよなら」
美里は涙を浮かべたまま、背を向けて去っていった。
その背中は小さく震えていたが、どこか吹っ切れたようでもあった。
---
7 新しい未来へ
静まり返ったカフェで、私と彼は黙って手を握り合った。
「……本当に終わったね」
「うん。これでやっと、前に進める」
彼の瞳は澄んでいた。
私は強くうなずき、心の底から安堵の涙を流した。
――恋愛は、時に運命を試す。
涙に濡れても、信じ合う選択を続ければ、未来は必ず開ける。
私たちの物語は、ここからまた新しく始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます