第29話 ランスロット卿の敗北
ALLの本部。その中にある一室では二人の人間が険しい顔をしていた。
一人はコマンダー理沙。ALLの中でも屈指の実力者で、同時にALLの中でもトップクラスの異端。
もう一人はオリバー支部長。ALLイギリス支部の支部長で銃の名手。
この二人が険しい顔をしていた理由は一つ。
このALLに裏切り者がいるという発言。
そして実際に監視をしているというオリバー支部長の独断によるものだった。
「……で。怪しい行動は取っているのか?」
「いや。今の所は何もない。だが分かり次第すぐに君に報告をしよう」
「それはうれしいな。私も出来る限りの情報をお前に渡す。それぐらいはしないとな」
「それはうれしい! 君のエージェントたちは優秀だからね!」
「褒めても何も出んぞ。それにうちのエージェント達はどいつもこいつもバカばかりだ」
コマンダー理沙は冷めた紅茶を飲み干すと、静かに席を立つ。
「そろそろ本部長が帰って来る頃合いだろう。一度様子を見てくる」
「ああ! それなら少し待ってくれ。監視してる部下に確認を取るよ」
そう言うとオリバーは何やら耳につけた無線を使って、恐らく監視につけていた部下に連絡を取る。
その様子をバレないように、コマンダー理沙は観察していた。
何やら嘲笑うような、そんな目をしながら彼は部下と会話をしている。
そして席に戻った時、彼は口を開いた。
「……どうやら本部長は戻ってこなさそうだ」
「…そうか。因みに後どれくらいで帰って来る?」
コマンダー理沙の返しに、オリバー支部長は大きく笑った。
それは紛れもない嘲笑。
彼はしわくちゃの顔をゆがめ、卑しい気持ちの悪い笑みを浮かべた。
「一生帰ってこないさ! 貴様も同じくな!」
「…………お前がユダだったのか」
「今更気づいてももう遅い! 我々の勝ちだ! 先程連絡が入ったよ。貴様のエージェント二人を拘束したとな!」
「…お前、まさか本部長も」
「ああその通りだ! 貴様と同じで紅茶の中に薬を入れた! 貴様の体は次第に動かなくなる!」
オリバーは勝ちを確信したのか、紅茶のカップを指さし、高笑いする。
「のど飴舐めるか?」
「ふん! 貴様のその憎たらしい態度にはもううんざりだ! 紅茶の味も理解できぬ愚か者め!」
オリバー支部長はそう言うとゴクゴクとイギリス人とは思えない礼儀の悪さで紅茶を飲む。
「後は貴様と貴様のエージェントの脳味噌から直接情報を手に入れたらいい。貴様らがいなければALLは終わりだ。私はすぐにこの場を去ることにしよう」
「……………」
「おや、とうとう言葉も喋れなくなったのかな?」
芝居がかった様子で立ち上がり、彼は部屋の中にあった荷物を纏める。
「…………?」
だが、次第にその様子が崩れてきた。
冷や汗が止まらなくなり、そして体が震えだす。
息も次第に荒くなってきた。
自身に起きた状況に困惑していると、後ろから女性の声が聞こえてくる。
それは本来であればすでに死んでいる女の声。そのはずなのに、はっきりと彼女の声が聞こえてきた。
「苦しいか? オリバー」
「な、なんで…? なんで貴様! 平然としている!」
その声はすでに喋れなくなったと思われていたコマンダー理沙の声だった。
彼女は立ち上がり、オリバー支部長の方へと向かっていく。その様子は軽快で、とても毒に侵されている人間とは思えなかった。
「カップを入れ替えさせてもらったよ。お前がのんきに資料を取っている間にな」
「なに!? …それじゃあ……これはまさか!?」
「そうだ。今毒に侵されているのはお前の方だ。オリバー。お前が裏切り者なことには最初から気づいていたさ」
「りざあああ!!!!」
次第に体が動かなくなり、とうとうオリバー支部長はその場に倒れ伏してしまう。
声も発することができずピクピクと体を震わせながら、それでもしっかりと目はコマンダー理沙を睨みつけている。
「哀れな男だオリバー支部長。…いや、ここはランスロット卿というべきかな」
「……………!?」
突然自身のコードネームを言われ、驚愕しているオリバー支部長の事は意に介さず、彼女は持っていた手錠をかけ応援を呼ぶ。
中に入ってきた警備兵は最初こそ驚いたものの、すぐに状況を理解しオリバー支部長を引っ張っていく。
「…ああそうだ。ランスロット卿。これを見ろ」
「……………?」
部屋から出る前にコマンダー理沙はそれを止めた。
そしてスマホから動画を見せてくる。
それは本来であれば捕らえたはずの本部長が、謎の仮面の女によって救出されている様子だった。
「本部長も救出済み。そしてつい先程連絡があった。……捕まったエージェントは無事私の下へ帰ってきたと、な」
「……………………!? ……!!!!」
もはや暴れることすらできず、ビクビクと陸へ上がった魚の様に震えコマンダー理沙を強く睨みつける。
そんな様子を見たコマンダー理沙は静かに、嗜虐心たっぷりの笑みを浮かべた。
「無線はこちらで操作済みだ。お前は嵌められたんだ。馬鹿め」
「008。009。遅れて申し訳ありません。貴方達の援護をします」
「「011!!」」
「はい。011です。現在の状況を教えてください」
「えーと現在は……。都市が吹き飛んじゃった所」
「…?」
「ええ。色々とあって都市が吹き飛びましたわね」
「…………????????」
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