第14話 ユニークモンスター
「よ〜し。何とか通ることができたぞ!」
「申し訳ありません009。七回も死なせてしまいました」
「ここまでこれたからダイジョーブ! 次は警備室でしたっけ!」
「ああ。警備の服に着替えておけ。丁度そこに服が歩いてるからな」
「オラあ! よし! 服を手に入れました!」
警備の服へと着替え、警備室に侵入する。
警備室には如何にも眠そうに欠伸をする一人の男がいた。
「……交代のタイミングだったぽいですね。コイツ堂々と警備室で寝る宣言してる。…私も見習わないと!」
「…………エージェント」
「反面教師という意味です!」
「エージェント。ダウンを取ってと言われていますよ」
「あ、ほんとだ! えい!!!」
「何故殴った」
「ダウン取ってって言われたから…」
「自身を気絶させてほしかった可能性は0%です」
「日本語って難しい…」
何重にも仕掛けられたトラップや警備兵を回避し、彼女はとうとうチップの目の前に辿り着く。
幾何学的な模様の壁や床が平衡感覚を奪い、思わず酔っ払いそうになる。
「よっし! チップゲット!」
「良くやったエージェント! 011。データのコピーにはどれくらいかかる?」
「かなりの量があるので……10分はかかるかと」
「コマンダー! 猥談しましょう!」
「深夜に会話してる大学生か! 私はもうアラサーだ! …………ハァ」
「私が悪かったんでマジなダメージ負うの止めて下さい」
011がコピーしている間、009は研究機関から脱出した。
ダンジョンの中で彼女はただ隠れ、その時を待つ。
その目は真剣で、気迫に満ちていた。
「……コピー完了しました」
「うおおおおおお!!! 単行本アタァァァク!!!」
「バカめ編集長バリアー!!!」
「そんなバカな!? それじゃあコマンダーの給料が減らされる!? ……捨て身か!」
「クックック…。本当にそう思うか?」
「ど、どういうことだ!?」
「私は手札からスポンサーの圧力を発動! これにより編集長バリアーのデメリットを打ち消す!」
「そんな…。編集長がストレスで禿げてしまった!」
「更にここで私は!」
耳元に爆音でオッサンのゲップが流れた。
「「ぎゃああああああ!!!!」」
「コマンダー理沙。コピーが完了しました」
「そ、そうか。良くやった」
「…………うう。ラーメン食った時、隣でくっさいゲップしたオッサンの顔が…頭に」
「よ、よし! それじゃあ早速チップを粉微塵にし、目的地まで脱出しろ! 人はそれで終いだ!」
「了解したコマンダー!」
彼女は持っていたチップを銃で撃ち抜く。
粉微塵になったチップをさらに踏みつける。
何回も、何回も、塵一つ見えなくなるまで彼女は続けた。
……その時だった。
「グルオオオオオオオ!!!!!!」
「「「!?」」」
声が、恐ろしい声が響く。
もはやこの声は一種の兵器。音圧だけでダンジョンの壁が壊れる。
壁は即座に修復されるが、音圧の強さは修復速度に拮抗し、暫し硬直が生まれた。
頭の中にアラートが響く。
その後すぐに、普段の011の機会的な口調とは違い、焦りが聞こえる声色で011は私達に警告を告げた。
「アラート! 同層にユニークモンスターが出現!」
「何だと!? 009! 今すぐそこから離れろ!」
「……もう遅そうです。コマンダー理沙」
彼女の目の前には、誰もが悲鳴をあげるであろう巨大な鬼の怪物。
赤い、紅い、はち切れそうなほど大きな肉体に、天を貫かんと伸びている巨大な角とゴッツゴツの棍棒。
シンプルなオーガの特徴。だが、一箇所だけ違う部分がある。
「オーガフォースです!」
「っ! エージェント! とにかく逃げろ! すぐに援軍をよこす!」
【オーガフォース】
通常のオーガとは違い四本の腕がある巨大なオーガ。
その強さは一級品。彼女じゃ勝てない。
「フッフッフッ」
「エージェント? その不敵な笑み…。まさか何か考えがあるのか?」
「攻撃が来ます!」
「ア〜ハッハッハ!!!」
「おお! なんて華麗なステップなんだ! これなら!」
「右肩に被弾。止血をしなければ五分後に確実に死にます」
「駄目じゃねえか!」
「左足に被弾。出血更に15%増大」
「グベェ…。ま、まだだ。まだ私は負けてない!」
「頭部に被弾。3%消滅」
「……ば、バカな!? か、身体が寒い!
こ、この史上最強最高最可愛のこの私があああああ!!!」
「エージェント。生命活動停止」
「殴り合いじゃああああ!!!」
「これで35回目のトライですコマンダー」
「……いい加減遭遇より前の時間に戻れ」
「いやです! こいつを倒すまで! 私は挑み続けます!」
「だめだまた蛮族モードに……」
「うおおおおおお!!! 私のきびだんごを喰らえええ!!!」
研究機関の警備からパクっておいた大量の手榴弾をポイポイポイッと、オーガフォースに投げつける。
爆発がオーガフォースに襲いかかり、大きな悲鳴が聞こえてくる。
「009避けて!」
「!?」
「現状持っている武器では倒さない! 研究機関に戻り、奴らになすりつけろ!」
「…………コマンダー理沙。私は死に場所を見つけました!」
「待て! 突っ込むな!」
「コマンダー理沙。バンザーーイ!!!!」
天空島ダンジョン四階層。
ここでは先ほどまでダンジョンに挑んでいた探索者達の悲鳴が聞こえてくる。
彼らの中には意識が無い者もおり、その顔には怯えが見える。
「逃げろ逃げろ!」
「全員いるか!?」
「ああ! ……!? いやあの嬢ちゃんがいねえぞ!」
一番ムキムキな男が立ち止まり、周囲を確認する。
この探索一の貢献者が見つからない。
皆、そのことに気づき慌てだす。
「そういえば途中からいなかったような」
「……っ! 救出は!?」
「意識の無い奴も多い! 無理だ!」
「外に出てすぐに救助隊を呼ぶぞ! 彼女の為にも! 急げ!」
助けたいがこのダンジョンでは、どこに行こうと無線や通信機の類を使って外に連絡を取ることはできない。
ムキムキ男はダンジョンの壁を勢いよくいい殴り、舌打ちと共に上を向く。
「…………あ?」
「どうした!? 何を立ち止まっている!?」
突如その場にムキムキ男は釘付けになった。
不思議がる他の人達に、ムキムキ男は震える口を開く。
「今……人がいたような、気がしたんだ。……五階層に入ってった」
「はあ!? ユニークモンスターの出現時は強力な魔力がダンジョン外まで出る! 入ってくる奴なんている訳ねえだろ!」
「そ……そうだよな」
ムキムキ男はとりあえず納得し、その場から走り去る。
……だが、彼の脳内はずっと汚染されていた。
自身の目の前に映った光景が。
銀髪の少女が、高校生ぐらいの少女が、嬉々とした表情で五階層に入っていくのを。
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