第40話 狭霧の竹藪ダンジョン②つい癖で余計なことを考えてしまった
「こんにちは」
「はい、こんにちは」
「どうですか? 稼げてますか?」
「ええ、たっぷり魔石を持ち帰ってますよ。頑張ってください。失礼します」
効率的なダンジョン故、冒険者も多い。ダンジョン内で他の冒険者とすれ違うのも日常茶飯事だ。
蘇鳥たちがすれ違った冒険者はホクホク顔でダンジョンを引き返していた。どうやら、かなり稼いできたみたいだ。
担当者が頭を悩ませなくていいダンジョン。冒険者が笑顔になるダンジョン。それが狭霧の竹藪ダンジョンだ。蘇鳥が普段行くダンジョンとは真逆の性質を持っている。
「……ここに霧払いの眼鏡があったら、ヤバいことになっていただろうな」
「ん? 何か言った?」
「いいや、特に何も」
霧払いの眼鏡は魔道具の一種。効果は名前から想像できるもので間違いない。
身につけることで、霧がかかっていても普段通りに見えるようになる。霧以外の視界を妨げるものには効果がなく、効果が超限定的な道具となる。
もっと他に暗闇を見通せるようになったり、布や壁も見通せるような魔道具だったら、その価値は計り知れないだろう。しかし、用途が限定的すぎるので価値は低いし、知っている人も少ない。
(でも、それでよかったのかもな。霧払いの眼鏡がこのダンジョンに用意されていたら、もっと冒険者で溢れていただろう。ダンジョン内が芋洗い状態になっていてもおかしくない)
ただでさえ稼げるダンジョンなのだ。その上、厄介な霧に苦労しなくて済むのなら、冒険者が押し寄せるに違いない。
霧払いの眼鏡、狭霧の竹藪ダンジョンのための魔道具と言っても過言ではない。
(冒険者に教えて、購入してもらうか? でも、他のダンジョンで使えないから、実質ここ専用になるな。投資に見合った効果はあるが、回収するまで他のダンジョンに行きにくくなるな。いっそのこと、迷宮省側に数を用意してもらって、レンタル制にするのがいいか? ダンジョンの入口にカウンターを設置して、貸し出しと返却をする。冒険者がこぞって利用するだろう。数を用意するのは大変だが、レンタル料金を安くしても魔石の買取が大幅に増えるから利益は出るはずだ)
狭霧の竹藪ダンジョンには多くの冒険者が来ている。しかし、霧で視界が悪くなるのを嫌っている冒険者も多く存在する。霧払いの眼鏡で霧の脅威がなくなるのなら、他のダンジョンに行っている冒険者もここに来るようになるかもしれない。
とはいえ、蘇鳥が気にすることではない。もしかしたらこれ以上冒険者に来てほしくないという贅沢な悩みを持っているかもしれない。現状でも、数多くの冒険者でごった返しているのだ。冒険者が増えれば、それだけ問題も増える。
どこもかしこも、冒険者に来て欲しいとは限らない。
「いかんな、つい癖で余計なことを考えてしまった」
「どうしたの? さっきから一人でぶつぶつ言ってたけど、大丈夫?」
「問題ない。ちょっと気になることがあったけど、もう解決した」
●●●
時刻はお昼。現在、ダンジョン内にてお昼ご飯の準備を進めている。地面にピクニックシートを敷き、止木お手製のお弁当がシートの上に置かれる。
本来なら、ダンジョン内でこんなにゆっくりするのは言語道断な行為だ。休憩するにしても、周囲のモンスターを警戒しながらとなる。しかし、上級の冒険者がいるのなら、こんな暴挙も許される。余裕が圧倒的に違うのだ。
惜しいのは、景色だ。狭霧の竹藪ダンジョンは霧で視界が限りなく悪い。これで絶景が目の前に広がっていたのなら、文句なしのピクニックになること間違いなし。
「デザートも用意しているからねー。輪ちゃんの好きなプリンだよ」
「ああ、悪いな。咲華のプリンは絶品だから、嬉しい」
止木が用意したお弁当にはおにぎりや唐揚げ、卵焼きなどが入っている。その他にサンドイッチもある。もちろんすべて手作りである。気分は完全にピクニックだ。
「これが鮭で、こっちがおかか、そっちはツナマヨだよ。はい、おしぼり。きちんと手を拭いてね」
お弁当箱には、海苔がしっとりと貼りついた三角形のおにぎりが整然と並んでいる。蘇鳥はおしぼりで手を綺麗にすると鮭おにぎりを一つ取り、そのまま一口齧る。
お米のほのかな甘みと、焼き鮭の塩気がちょうどいい。口の中でほろほろとお米が崩れ、柔らかい鮭の身がほぐれて、旨味が広がる。鮭の脂乗りも完璧で、一口食べただけで美味しさを実感する。
唐揚げは冷めてもサクサクジューシーを保っているし、卵焼きは一口噛みしめると中から出汁が溢れる。どっちも最高に美味しい料理だ。
「うん、うまい。最高だ、咲華。おにぎりも唐揚げも卵焼きも全部うまい」
止木は昔から料理を振る舞っていたので、蘇鳥の味の好みを完全に把握している。好みの味に合わせるのはお手の物だ。
「えへへ、ありがとね。たっぷり用意したから、お腹一杯食べてね」
「いや、ダンジョンで腹一杯になるのは危ない。腹痛で動けなくなったら困る」
蘇鳥はお弁当を余すことなく堪能する。基本的にコンビニ弁当やファストフードしか食べないので、手料理にありがたみを感じている。
特にここ一年は止木と疎遠になっていた。手料理を食べる機会は本当になかった。改めて、止木に甘えていたのだと理解する。
(やっぱ、手料理っていいもんだな。咲華が料理上手ってこともあるけど、スーパーの弁当とは格段にうまさが違う)
ちなみに、食事中もモンスターが押し寄せてきていたが、止木が目にも止まらぬ速さで仕留めていた。周囲を探索すれば、魔石がいくつか転がっていることだろう。
後で回収するとはいえ、いくつかは他の冒険者に拾われるだろう。止木は蘇鳥と違ってお金に余裕がある。狭霧の竹藪ダンジョン程度の魔石にそこまで興味はない。
「ふぅ、茶がうまい、このまま昼寝したい…………ってダメだ、ダメだ。リラックスしすぎた、気を抜きすぎるのは危険だ。ピクニックに来たんじゃない、冒険に来てたんだ。で、ここで昼ご飯を食べているということは、もっと先に進むという認識でいいのか?」
ほんのり苦みのあるお茶を飲み、口の中を潤すと、肩の力が抜ける。リラックスして完全に脱力しそうになるが、肩の力を抜く誘惑に打ち勝ち今後の予定を尋ねる。
時刻は昼だ。ダンジョン探索を切り上げるのなら、昼食など摂っていない。まだまだ探索を続けるからこそ、ランチタイムを取っている。
「もちろんだよ。進まないとこのダンジョンに来た意味がないよ」
「これ以上進んでどうなる? こっから先はモンスターのランクが一段階あがるんだぞ。俺の実力じゃ、勝てないモンスターが出てくる。それとも咲華が戦うのか? 咲華ならこっから先でも余裕だろうが……」
これより先は出現するモンスターのランクが上がり4となり、蘇鳥単体では勝てない相手となる。全盛期でも勝てないモンスターだった。いくら装備品のアドバンテージがあるとはいえ、実力が根本的に足りていない。
先に進むのは危険な行為だ。
「違うよ、私は戦わないよ。サポートはするけど、メインで戦うのは輪ちゃんだよ。だって因縁があるでしょ? ちゃんと清算しないとね」
「因縁……か」
ここから先に出現するモンスターは竹刀武士と竹刀銃士の二体だ。確かにこの二体は蘇鳥と因縁がある。それもとびっきりの因縁がある。
その因縁を語るために、少しだけ昔話をしよう。
TIPS
バンブーブレード
竹刀型のモンスター。竹刀が浮遊しながらダンジョンを移動し、敵を見つけると刀を振り回して攻撃してくる。細くて攻撃が早く、その上攻撃力も高い。捉えるのが難しい、強敵のモンスター。
詳細に観察すると、モンスターごとに種類が異なることが見えてくる。
柄の形は、円型、小判型、八角型、八角小判型がある。柄の長さも短いものと一般的なものがある。柄の太さは、柄太型、柄細型、一般的なものがある。刀身の形は胴張り型、一般型、古刀型がある。竹刀の先の太さは先細型、一般的なものがある。
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