第20話 林護町ダンジョン⑧酒だよ、酒

「だああああああぁっ! スライムしか出ねぇぇぇ!」


 希望を捨てず、ダンジョンの調査を再開したものの、出てくるのは事前に得た情報通りのスライムだけ。

 普通のスライム、ブルースライム、レッドスライム、グリーンスライム、イエロースライム、ブラックスライム、ホワイトスライム、シルバースライム。各種スライムのオンパレードだった。

 どのスライムも強い物理耐性を持っているので、氷織がスキルを使って倒す。しかし、落とす魔石は特に価値も高くない。

 いや、シルバースライムの魔石だけは価値が高い。だが、滅多に出会えないので、シルバースライムを目玉にするのも難しい。

 心の底からスライムを愛している人には、ここはパラダイスだろうが、普通の冒険者からするとスライムしか出ない割に合わないダンジョンでしかない。新たな価値を見つけるのは無理かもしれない。

 蘇鳥の希望は簡単に潰えた。


「どうする? もっと深い階層に行く?」

「うーん、どうするべきか?」


 深い階層に行っても出てくるモンスターはスライムのみ。種類は変わっても、スライムであることに違いはない。希望があるとは思えない。

 それに、深い階層に行くには時間もかかる。準備もしていないので、行きたくないのが実情だ。


「ねぇねぇ、ジェムスライムは?」

「あー、ジェムちゃんか。残念だけど、ここには出ないよ」

「そうなんだ」


 ジェムスライムとは、倒すと極稀に宝石を落とすスライムだ。滅多に出会えるモンスターでもないし、倒しても宝石を落とす確率は低い。

 しかし、一攫千金を狙えるモンスターでもある。

 かつてジェムスライムが落とした宝石がオークションにかけられ、超高額な値段で落札されたこともある。夢のようなスライムだ。

 林護町ダンジョンSはスライムしか出現しないダンジョンとあって、ジェムスライムの出現が期待された時期もあった。しかし、冒険者がいくら探しても、ジェムスライムは見つけられなかった。

 深い階層も漏れなく探索され、ダンジョンは隅々まで検められた。それでもジェムスライムの痕跡一つ発見できなかった。

 その結果、ここにはジェムスライムが出ないと考えられている。

 蘇鳥もジェムスライムについては考慮していない。散々冒険者が探索したのだ。

 もしジェムスライムが出ようものなら、このダンジョンは過疎っていない。むしろ、一攫千金狙いの冒険者でごった返すことだろう。

 ちなみに、ジェムスライムはキラキラした見た目をしているので、一目で分かる。他のスライムと見間違うことはない。


「へぇー、ジェムスライム、出ないんだ。残念。私も宝石、欲しかった。買って。うるうる」

「おねだりするな。俺が宝石を買えるほど金に余裕はないからな。ただでさえ、今からどうしようか考えているのに、たかるな。宝石が欲しけりゃ自分で買え」


 氷織が可愛くおねだりするが、買えないものは買えない。蘇鳥にお金の余裕はない。

 むしろお金を持っているのは氷織のほうだ。少なくない護衛料を受け取っているし、冒険者としても稼いでいる。下手をするとそこらへんのサラリーマンより稼いでいる。

 強い冒険者は稼げるのだ。


「仕方ない。宝石は次の機会まで待ってあげる。あっ、またスライム出た」


 氷織の言葉通り、遠くにスライムが見える。色は透明だ。

 透明のスライムといえば、一番シンプルなただのスライムだ。モンスターを倒す役割は氷織が担っているが、蘇鳥も一応スライムに目を向ける。ダンジョンでは何が起きるか分からない。脅威から目を逸らすのは愚の骨頂。


「倒すね。アイスーー」

「待ーー」

「ランス。……何か言って。あっ、待って」


 蘇鳥の制止の声は氷織には届かなかった。スライムは為すすべなく氷の槍に貫かれて倒される。急なことなので仕方ない。

 確認したいことができた蘇鳥は珍しく【身体強化】のスキルを使って、スライムが倒された場所に即座に向かう。氷織のことには目も向けず。


「くんくん」


 スライムが倒された場所に飛び込んだ蘇鳥は、そこで犬のように匂いを嗅ぐ。もしかしたら痕跡がわずかにも残っているかもしれない。一縷の望みをかけて、嗅覚に集中する。

 その結果、確証には至らないが、痕跡を嗅ぐことができた。


「もう、どうしたの? 急に走り出して。危ないよ」

「氷織、今回の依頼、失敗じゃないかもしれない。やっぱ、氷織の言う通り、最後まで諦めなくてよかったよ」

「う、うん。で、何があったの?」


「酒だよ、酒。このダンジョンにはアルコールスライムが出る!」


TIPS

ジェムスライム

宝石のスライム。倒すと極低確率で宝石を落とす。

弱いのに、高額な宝石を落とすことから、別名を一攫千金スライムという。

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