第14話 林護町ダンジョン②氷織は神でした

慧眼の持ち主である神倉が別の提案をしてくれる。


「止木に頼んだらどうだ? あいつなら受けてくれるだろ?」

「あー、咲華ね。それは難しいかな」


 止木咲華。彼女はかつて蘇鳥と一緒に冒険した冒険者であり、蘇鳥の幼馴染みだ。小学校から高校まで同じ学校に通っていた、とても仲のいい相手だった。

 それこそラブコメ漫画の主人公のように、子供の頃は一緒に行動していた。学校に一緒に通ったり、お互いの家に遊びに行ったり、公園で遊んだり、常に一緒だった。

 しかし、仲がよかったのは昔の話。

 蘇鳥がダンジョンで大怪我を負ってからは、疎遠になっている。もう連絡を取らなくなって久しい。今でも冒険者をしているのか分からない。


「あんなに仲良かったのに、それは寂しいな」

「仕方ないさ。関係なんて簡単に破綻するんだよ」

「……すまん」


 どんなに仲のいいカップルでも喧嘩一つで別れることがある。近所からおしどり夫婦と言われていても離婚することがあるように、幼馴染みだってちょっとしたきっかけで関係が切れることがある。

 よくある話だ。


「また、なんか困ったことがあったら連絡してくれ。助太刀の確約はできんが、暇だったら手伝うから」

「おう、また連絡する。今度は暇なときにでも」

「そうか、こっちからも連絡する。じゃあ、またな」

「ああ、元気でな」


 神倉には護衛の依頼を断れたが、まだ蘇鳥には当てがある。慌てる時間ではない。

 連絡先を眺めながら、護衛をしてくれる人に連絡を取るのだった。


●●●


「マジかよ」


 蘇鳥は神倉以降も何人かに連絡を取ったが、色よい返事は頂けなかった。

 やはり、場所が遠いこと、泊りがけになることがネックになるみたいだった。

 連絡先に登録されている当てには片っ端から連絡した。それで色より返事がなかったのだ。


 端的に言って、全滅である。


 本格的にヤバい状況になっており、蘇鳥の表情にも焦りが見える。

 護衛が見つからなかったら、依頼を断る必要が出てくる。ダンジョン再生屋として売り出し中の今は、できる限り仕事は受けたい。名前を広めるためにも、一件一件を大切にしたい。


「断るべきか、それとも足掻くべきか」


 護衛を自分で用意できないのなら、先方に用意してもらえばいい。図々しいお願いだが、背に腹は代えられない。それに、先方が用意した冒険者ならダンジョンについても詳しい可能性が高い。依頼がスムーズに進む可能性も秘めている。

 護衛がいなければ依頼を断ることになるのだ、ダメ元でお願いするのも悪くない。

 ただ、見知らぬ冒険者に護衛をしてもらうのは座りが悪い。蘇鳥の都合を考慮してくれるか分からないし、蘇鳥の指示を聞いてくれるか分からない。相性の問題だってある。

 だからこそ、知り合いを当たっていたのだ。護衛が誰でもいいのなら、最初から適当な冒険者に依頼を出せばいい。野良の冒険者を雇うのは最終手段だ。


「はぁ、マジでどうしよっかなー」


 見知らぬ冒険者とダンジョンに入るのは賭けの要素が大きい。相性がよければとんとん拍子に進むが、相性が悪ければ攻略できるものも攻略できなくなる。

 最初から依頼を断るか、見知らぬ冒険者に賭けて成功をさせるか、蘇鳥は難問に立ち向かう。


「はぁ、マジでどうしよっかなー」

「再放送?」

「ふぁ!?」


 途方に暮れている蘇鳥に氷織が声をかける。突然のことに、変な声を出す蘇鳥。心臓が飛び出そうなくらい驚く。


「いつから、いたたんだ?」


 驚きのあまり、舌が回っていない。


「ちょっと前から見てた。百面相してて面白かった」

「それなら、さっさと声をかけてくれよ。驚きすぎて心臓が止まるかと思ったぜ」

「心臓が止まったら、心臓マッサージすればいい。命の恩人パート2」


 そうなんだけど、そうじゃないんだよ。蘇鳥はそんな感想を抱いた。


「もしかして、護衛見つかってないの?」

「ザッツライト。知り合いに当たってみたが、全滅だったよ。遠いし、泊りがけだし、急には予定を空けられないみたいだ」

「ふーん。で、どうするの?」


 興味があるのかないのか、よく分からない表情を浮かべて氷織は続きを促す。


「断ろうかなって気分がちょっと勝ってる。一応、野良の冒険者を雇うことも視野に入れてるけど、あんまり知らない人とはダンジョンに行きたくないしな」

「なーるほど」


 氷織の視線が蘇鳥の存在しない左足に向けられる。行動を制限させられる蘇鳥の護衛はかなり気を遣う。蘇鳥も気を使われている状態でダンジョンを万全に調査できるかと言われると、ノーだ。

 そうなると、蘇鳥も冒険者も、ひいては依頼主のためにならない。依頼を断れば丸く収まる。


「別日だったら護衛大丈夫だよ」

「ふぁ!?」

「やっぱり再放送かな?」

「そうじゃん、そうだよな、そうじゃねえか! 別に相手の指定した日付にこだわる必要ねえじゃねえか。そうだよ、相手に確認して日付をずらしてもらえばいいじゃん。氷織、天才かよ」


 目から鱗が落ちるとは正にことのこと。蘇鳥は天啓を得た。

 ダンジョンなんていつでも入れる。絶対にこの日でなければならない理由はない。おそらく先方も別日になっても了承してくれるだろう。

 蘇鳥は氷織に都合のいい日を聞いて、先方に連絡するのだった。

 結論から言うと、別日でも問題がなかった。

 担当者がまだおり、連絡はすぐに返ってきた。しかし、別日になったことで打ち合わせは消えた。ダンジョンについて直接説明できないので資料で確認してほしいとのこと。

 他にも細々した注意点があったが、依頼を断るほどのことでもない。これなら氷織を護衛にしてダンジョン再生屋として活動できる。

 問題はあっさり解決した。


「ありがとう氷織。神様、仏様、氷織様。この恩は一生忘れません。報酬はたっぷり弾むから期待してくれよな」

「うむ、苦しゅうない。報酬期待している」


 今回は問題が無事に解決したが、いつも問題を解決できるとは限らない。今後も護衛を雇えない可能性があるので、ダンジョン再生屋専属の冒険者が必要になってくるだろう。いつもいつも氷織に甘えてばかりもいられない。

 どこかにいつでも出動できる冒険者が転がっていないかな?


TIPS

止木咲華(しぎ・さか)

蘇鳥の幼馴染み。

ーーー

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

いいねやフォロー、レビューをお願いします。小説を書く刺激になります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る