カリーナ魔法学校にようこそ

NEO

第1話 とりあえず、自己紹介的なもの?

 王制暦1876年2月11日。

 あたしはカリーナ魔法学校に入学して二年目の春を迎えた。

「こら、パトラ。いい加減あたしの机に穴を開けるのをやめろ!」

「いいじゃん、これクソボロいし」

 パトラがニマニマ笑った。

 ここはカリーナ魔法学校の女子寮二階にあるあたしたちの部屋。

「こら、それ売ってお金にするの。メシ代ないの!」

「じゃあ、奢ってあげる。リズのお金で」

 パトラがえへへと笑った。

「あのね、それはあたしのお金でしょ。なんで、あんたの分まで出さなきゃいけないの!」

 あたしは小さく息を吐いた。

「だって、親友でしょ。親友は奢るんだよ。分かった?」

「違う。親友だから奢らないの!」

 あたしはパトラの顔面に拳をめり込ませた。

「なんだよもう、痛いなぁ」

 パトラがまたえへへと笑った。

「痛いなじゃねぇ。オメガ・ブラスト!」

 あたしは思わず、パトラの顔面めがけて自分で作った最強の魔法をぶち込んだ。

「えへへ、効かないよ!」

 パトラは頭をカリカリ掻いた。

「こら、いきなり無効化するな。オメガ・ブラスト!」

 今度はパトラが身をかがめて避け、部屋の半分を吹き飛ばすと、そのまま白球が空の彼方へすっ飛んでいた。

「それがどうした。えへへ~」

 …ちょっと、切れちゃったかな。

「この野郎、テトラ・サイクリック・オメガブラスト!」

 …しかし、発動しなかった。

「…しまった、これまだ開発中だった。この野郎!」

 再び魔力を放出させると、部屋の扉が蹴破られ、寮母のビスコッティがあたしに跳び蹴りを叩き込んできた…が、避けた。

「この、なにいきなり寮をぶっ壊しているんですか。直しなさい!」

 ビスコティがあたしの頭にゲンコツを叩き込んできた。

「痛いですね。どんな石頭ですか!」

 ビスコッティが、真っ赤に腫れた右拳をフーフーしながら睨んだ。

「パトラよりはマシでしょ。そんな事より、スコーンは?」

 スコーンとはあたしの先輩で、一個上のお姉さんだ。

「はい、部屋で盆栽を弄っていましたよ。行ってきなさい!」

 ビスコッティが笑った。

「うん、分かった。ほら、パトラ。盆栽弄りたいっていってたでしょ。行くよ!」

 あたしは笑った。


 寮の一階上にあるスコーンの部屋の前に立つと、あたしはドアをノックした。

「はい、どうしました?」

 スコーンの声が扉の向こうから聞こえた。

「盆栽見せて!」

「はい、いいですよ。鍵は開いていますので、入って下さい」

 あたしはドアノブを回して扉を開け、パトラを連れて中に入った。

「どの盆栽?」

 あたしは室内に並ぶ数々の盆栽を眺めながら、スコーンに聞いた。

「はい、これです。このなんかこう丸っこい感じが良くありませんか?」

 スコーンが笑った。

「なにがいいか分からんけど、パトラは分かる?」

 あたしはパトラに聞いた。

「えへへ、分からない。だから、芸術なんだよ。リズには分からないだろうなぁ」

 パトラが笑った。

「しかし、よくここまで好きになりましたね。盆栽なんて、あまりメジャーな趣味ではないと思いますが」

 スコーンが笑った。

「それが分かれば苦労しないんだよ。エルフでも親戚にいたかな。私は人間だけど」

 パトラが笑った。

「いえ、そういうものですよ。私もそうでしたから。リズも盆栽をやりませんか?」

「やらないよ。そんな暇があるなら、魔法書でも読むよ。で、なんで好きになったの?」 あたしは率直な疑問を投げかけた。

「分かりません。感性にはまったというか、そんな感じです。ところで、みなさんはどうしてここに。先ほど爆音が聞こえましたが」

 スコーンが笑った。

「あれはジョークだよ。うっかり、壁を破壊しちゃっただけ!」

 あたしは笑った。

「そうですか。分かりました。ビスコッティさんがいっていましたよ。こいつら、真面目に説教くれても聞きやしないと」

 スコーンが笑った。

「そりゃそうだよ。あんなババアを気にしていたら、なにも出来ないって!」

「なにもしなくていいのですよ。リズ、ちょっとそこに座りなさい。反省文用紙は…えっと、あった。これです。二百枚も書けば、少しは許して下さるでしょう」

 スコーンが、あたしに反省文用紙を手渡してきた。

「なんでスコーンが…。まあ、いいや。反省文なんていまさらだし」

 あたしは笑った。


 反省文用紙を持ってパトラと部屋に戻ると、あたしはさっそく新しい机に向かって反省文を書き始めた。

「リズはいつもスコーンに頭が上がらないね。なんで?」

 パトラがあたしに聞いてきた。

「うん、そりゃそうだよ。この前、助けてもらったじゃん。中間試験用の鉄球を運ぶのに浮遊の魔法を使ってあげたでしょ。あれは、一個二百五十キロもあるからね。お小遣いももらえたし、あんな先輩なら大歓迎だよ」

 あたしは笑った。

「それじゃ、なんでビスコッティは嫌いなの?」

 パトラがあたしに問いかけてきた。

「そりゃ、アレでしょ。嫌いではないけど、好きにはなれないなぁ。寮監として修行が足りないと思うよ」

 あたしは笑った。

「そうでもないと思うけどなぁ。まあ、あの暴力癖はどうかとは思うけど。あれじゃ、ただのケンカだよ」

 パトラが笑った。

「ケンカじゃないって。あれでも一応は頑張っているんでしょ。そんな事より、壁を直してよ。ロータス土建だっけ。あそこの監督は優しいから、ちょっ早で直してくれるし」

「分かった。無線貸して。庭のどこかにいるはずだから。私の無線壊れちゃって」

 パトラがえへへと笑った。

「自分のを使え。あたしのはクソボロいから、直した方が早い!」

 あたしは引き出しから、無線機を取り出して机の上に置いた。

 それをパトラが受け取り、なにやら会話を始めた。

「こら、そこ触るな。ただでさえ調子悪いのに、よけいにぶっ壊れる!」

「えへへ、この辺に穴を開けて…えへへ。直った!」

 パトラが笑った。

「あのね、それいくらしたと思っているの。タダじゃないんだぞ!」

「馬鹿野郎、お前なんかくそ食らえだ!」

 パトラがニマニマ笑った。

「あ、あのね…。まあ、いいけど。それにしても、あたしの無線機なんか使っていいの? 一応、ログが残るんだけど」

「大丈夫、問題ない。どうせそうだろうと思って、こうしてやった。これで、私の無線機と同じだよ!」

「馬鹿野郎、それじゃあたしはどうするんだ!?」

「馬鹿野郎、いいじゃん。くそったれ!」

 パトラがいやらしく笑った。

「こら、いい加減にしろ。クソでも食って寝ろ!」

「えへへ、いいからいいから。さっそく修理業者を呼ぶよ。えっと、ここをこうして…あっ、ぶっ壊れちゃった!」

「あのね、直した意味がないでしょ。なんでぶっ壊すの!!!」

 あたしはため息を吐いた。

「いいじゃん、また直す。それでチャラでしょ?」

 パトラが笑った。

「まあ、そうだけど…。それにしても、なんで無線機なんてぶっ壊したの? そんなにヤワじゃないぞ」

「分からないけど、弄ってたら壊しちゃった。でも、なぜか直る。変なの」

 パトラが不思議そうな顔をした。

「そうだね。意外とクソボロいからね。あんたと同じで、ぶったたけば直るか」

 あたしは苦笑した。

「えへへ、だったらこれちょうだい。あとで、新しいの買ってあげるよ。今はお金がないから、バイトでもしないとね」

「なら、いいバイトがあるよ。購買部の品物を輸送する仕事。あのね、いいから落ち着いて。さっきから、えへへえへへって。なんか嫌な事あったの?」

「うん、さっきウンコ踏んじゃってね。リズのベッドで拭いてやろうと思ったんだけど、どうしても出来なくて、洗いにいったら先生にこっぴどく叱られてね。ムカついたから、そのウンコ投げてやったらさらに怒られて…。正直、ヘコんだ」

 ぱとらの目尻が下がった。

「あのね、それは当たり前でしょ。なんで、ウンコ投げちゃうの。せめて、その場で食ってやれ。そうすれば、逆に褒められるぞ。どうせ、チョコなんでしょ?」

 あたしは苦笑した。

「分かってるのはいい事だけど、それじゃダメなんだよ。分かってるでしょ? バレンタインチョコだぞ。大切なんだぞ…」

 パトラが泣きはじめた。

「ああ、フラれたんだ。どういう理由か知らないけど、そういう事ならあたしに相談しなよ。先生に惚れちゃうなんて、まあ、パトラらしいや」

 あたしは笑った。

「それはリズしか分からないよ。まあ、親友だしね」

 パトラが泣きやんだ。

「こら、勝手に親友にするな。ほじるぞ!」

「なにをほじるの。鼻?」

 パトラがニマニマした。

「馬鹿野郎、そんな穴ぼこほじってどうする。ったく、これだからパトラは素敵なんだよ。どこまで、あたしを喜ばせてくれるんだか」

 あたしは笑みを浮かべた。

「そりゃリズしかいないもん。私の事を理解してくれるの!」

 パトラが笑った。

「あのね、それはあたしも同じなんだよ。友達いないからなぁ…」

 あたしは窓の外を見た。

「それはいいね。私もお友達!」

 こうして、パトラとの一日は終わったのだった。

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