第12話 プラゴル第三章 4
1
ボロ宿に泊まった翌朝。約一名を除いて、しっかりと睡眠を取った事で活力を取り戻した冒険者一行は朝早く街を出て目的の死霊の学園に向かうのだった。
その後の旅は重要な交易路を伝って行った為、これといってモンスターに遭遇する訳でもなく何事も無く順調に旅路は進む。
しかし、目的地に近づくに連れ、道ですれ違うのは避難の為に安全な場所に逃れる人々だけとなり、また更に進むとそんな人々も居なくなり、何時何が起きてもおかしく無い不気味な雰囲気を漂わせ始める。
そして彼らの周りを少し肌寒い空気と薄い靄が音も無く静かに覆い始める。
「これがこの先にある死霊の学園から滲み出ている霊気の霧かしら……」
あからさまな辺りの様子の変化に癒し手の巫女である姫巫女が気付き、違和感を口にする。
「おそらくはそうじゃろう。この霧が死霊の女王から滲みでる死者を呼ぶ霧じゃ」
「やっぱりそうですか。この所この馬車の馬が先に進みたがら無いんですよ」
魔法使いの言葉を確かめる様に、従騎士は馬車に繋がれた馬の手綱を引くが馬は怯えているのか動かない。
「仕方あるまい。ここから歩くしかないの。だが目的地まで目と鼻の先じゃ」
結果、冒険者一行はここで必要な荷物をまとめて馬車を降りる事に。
その時、姫巫女が何かを思い出した様に声を上げる。
「あっ!そうそう。私、この時の為にこれを用意してきたんです」
姫巫女はそう言うと彼女の荷物の中から首飾りを四つ取り出した。
それを見た勇者は過去の事を語る。
「ありゃ!?それは以前、それがしが我輩と遭遇した時に装着いた首飾りと同じ物でないかの?」
「へへ~。そうなの。でも見てこれ。今回のは私が首飾り改造してちょっと違うの。この前の首飾りは付けると人間の人がオークと気付かない首飾り。今回は人間やオークとかの人間種がゾンビや幽霊と言った死霊関係のモンスターに生者、つまり生きている者として気付かれないんです。これで死霊とかのモンスターからは襲われないと思います」
それを聞いた魔法使いと従騎士は感心。
「はっは〜これは便利なもんじゃい」
「すごいですね!さすがオーク辺境国の巫女さんです」
それからしばらく歩いて進むと薄い靄の中から小さな村が見え始める。
「あれ?おかしいな。ここら辺の住民は皆避難したはずだけど。まだ人の姿が見えますね」
その後、近づくと更におかしい事に気付く。なぜならその村の住人は目的も無く徘徊している様に見えたからだった。
「やっぱり……。みんな村人に声をかけちゃだめよ。首飾りの効果で私達の目にはゾンビが普通の人間に見えるだけだから。勿論相手にも私達が人間だと気付かないわ」
「なるほど……それで」
「うむ。おそらくはここいらを徘徊するゾンビは死霊の霧の呪いによって、近所の墓から這い出て来たのであろうな」
「本当にそうでありますか?我輩には普通に生きてる人間が歩いている様にしか見えんが」
無理も無い。長年の引きこもり生活で外に出た事が少ない中年勇者にはその違和感には気付か無いのであった。
「特にそこを歩いている若いオッパイの大きいオンニャの子なんて我輩の好みにドストライクなんですがww」
そう言うと何を思ったか、プラゴル勇者は無謀にも首飾りを外して女の子を観察する。
すると辺りを徘徊する人間は一変、見るも醜悪なゾンビに姿を変えたのだった。
「うわっ!マジヤベっ。本当にゾンビじゃん!」
そう言うとまた首飾りを身につける。
そのとたん再び辺りを徘徊するゾンビ達は人間に早変わり。
「うぉーゾンビが可愛い女の子に早変わりとは。言われてみれば若干歩き方が違うと言えば違う様な……とはいえ生きている間に会いたかった。そしたら彼女と我輩は恋に落ちていたかも知れん」
そうまったく持って可能性の低い世界線の妄言をのたまうプラゴル勇者。何を思ったか又、首飾りを外して女の子の姿を確認した。
そしてため息と共につぶやく。
「ああ、誠におしい。惜しい人を若くして亡くしました。南無〜」
とか言ってるとそのゾンビが振り向きプラゴル勇者と目が合ってしまう。
「あっ、やばすっ!女の子と目が合っちゃた。これ90年代のテレビドラマだったら出会いの始まり、視聴者置いてきぼりの強引なラブフラグ発生展開だけど、ゾンビだから違うよね」
と言いながら慌てて首飾りを再度身に付ける。
しかしゾンビの時に目が合った女の子を見るとゆっくりと方向を変えこちらに向かって来るのだった。
「うわぁ、やべっ、気付かれた!?やばい、ドキドキする。でもホラー映画の鬼気迫るドキドキなのか恋のドキドキなのかわからん。混乱する!
かわいい子が物欲しそうにこっちに向かって来るとか!でも、顔をよく見るとちょっと口から涎が出ている様な……。後、きれいな顔なのにうぅ〜とか唸っている様な……」
そんなことを言っているうちにその女の子はプラゴル勇者の前に立ちはだかる。そしてその顔を近づけ獲物の匂いを嗅ぐかの様にプラゴル勇者の首筋の匂いを嗅ぎ始めるのだった。
それは二人の顔と顔がふれあう程の距離。見下ろせば、すぐそこにたわわに実った白い双丘と、それが造り出す深い谷間が揺れている。
その時点でプラゴル勇者の脳内の記憶から瞬時に余分な情報は消え去った。
「おっ…おんなにょ子が、こっ…こんな近くで……」
緊張の中でプラゴル勇者はそう呟くと眼前に迫る女子のにおいを力一杯嗅ぐのであった。
「ぼっ、ぼきゅが、初めて間近で嗅ぐ生女子の香りは……。
……カビて、腐った屍体のにおい……!?」
「何だかすごく臭い……。女の子ってこんなに臭いの!?でもその臭いにおいが逆に興奮する……」
もう訳が分からなくなっているプラゴル勇者。と、その時
「どおぉりぃぁぁぁぁぁぁ————————!」
絶叫と供に姫巫女オークの渾身のドロップキックが女のゾンビに炸裂。
吹っ飛ばされた女子ゾンビはスゴい勢いで建物の壁に激突。血飛沫をまき散らし粉々に砕け散ったのだった。
その瞬間我に帰るプラゴル勇者。ふと、目の前に立つ姫巫女オークを見る。
ゾンビの返り血を浴びた姫巫女オークは振り返りニヤリと笑う
そして一言……。
「ゾンビにまで欲情するなんて勇者様ってスッゴく野性的♡」
(マジ怖い……)
2
プラゴル勇者の淡い恋の情事が見事打ち砕かれた後、一人傷心を引きずった人物以外、皆ゾンビが徘徊する村の雰囲気に慣れ始める。
「そう言えばこの村外れには死霊の女王の霊気がこの一帯を覆う以前は有名な観光名所があったんですよ」
ゾンビネーチャン昇天でその性欲も霧散したプラゴル勇者に気を使い、従騎士は雰囲気を変えるためそんな話題を口にする。
「へえ〜それは気になる情報ね。何がそんなに有名だったの?」
早速その話題に食いつく姫巫女オーク。やはり女子である。
「あっ、僕は訪れた事はないんですけど、この村の外れに恋の精霊が降臨したと言う聖なる愛の祠と滝がありまして、そこは恋の願いが叶うとかで、若い男女のカップルに人気のスポットだったらしいです」
そう言いながら従騎士は自らが作った冒険のしおりをめくる。
それを見てこの冒険でそのしおりが初めて役にたった気がするプラゴル勇者。
「いいわね!そこ!ちょっと寄り道して行きましょうよ」
テンションが上がってきた姫巫女オークに対して、中年と老人はあまり変わらない。
「おほんっ。年寄りがこういうのも何だがの……。我々は王国の重要な使命を受けてこの冒険に出た訳だが。それを忘れてはいかんの。それにワシがこの年になっても今だ、お一人様なのがそんな物が迷信な証拠じゃ」
冷めた口調で言う老人。
「そんな所でお願いして我輩の恋が実るならとっくに童貞捨てとるわ!」
ついでに若者に当たり散らす中年。
しかし若い青年は動じず話をつづける。
「ちなにみに、そこはあらゆる年齢層の無理難題の恋愛願望も聞いてくれるとか……。しかも今は死霊の霧で人っ子一人いませんので、これはチャンス確率が上がるのではないかと……」
「いくしかなかろう!」
即決の老人。
「しょうがない。我輩も付き合ってやるか。やれやれ……。
でっ、その恋の強制フラグ何処にあんの?行くなら行くでとっとと行こう。
今すぐ行こう。もたもたすんなっ我が騎士よ!」
年甲斐も無く目が血走り息巻く中年。
結局、冒険本来の目的地よりもそっちを優先に行く事になったのだった。
3
そして着いた愛の精霊が降り立ったと言う観光名所。
「なんじゃ、この馬の小便みたいなもんは」
そう呟く老人。
そう言うのももっともで、滝とは言っても5メートル位の高台から水道の蛇口をひねった程度の貧相な滝とそれを囲む様に直径5メートル程の池があるだけだった。
そしてその滝と池を囲む様に柵が立っていて、その柵に願い事を書き込んだお札が幾つもぶら下がっている。
「はいはい撤収。撤収。我輩もっと巨大で迫力のある滝だと思ってたよ。
流石の我輩も水道を捻ってこぼれ落ちる水に願い事を言う程、頭イカレてないでござる」
「そうは言っても皆さん。この滝の周りにはこんなに多くの参拝者の恋愛の願い事が書いた札が下げられていますよ」
「うむ〜。まぁどんな願い事が書いてあるのか少し見てみようかの。なになに?」
〈子供が成人して独り立ちしたので、糞汚物の旦那が病気で死ぬ様にするには何を食わせれば良いでしょうか?
ちなみについ最近私が作った料理を汚物野郎が甘すぎるとか、塩っぱすぎるとか、脂っこすぎるとか、舌がしびれるとか言ってきます。
私は年を取ったのだから舌がおかしくなっただけだよ、と誤魔化してます。
工作がばれる前にもっと早く汚物を消毒、いえ昇天させたいです。恋の精霊様よろしくお願いします〉
「いや、さすがにこれは……。でも一応この願いも恋愛事の願いに入るのかの?」
それを見ていた他の三人も柵に下がっているお札の願いを読んでみる。
〈近所に住む女の子と将来結婚の約束をしました。ちなみにその女の子の年齢は10歳。私は40歳彼女無し年齢です。ちなみに私はロリコンではありません。僕たち二人の恋は真剣です。どうかこの恋が叶う様によろしくお願いします恋の精霊様〉
〈婚約までした世間知らずでボンボンの彼氏に突然婚約破棄を言い渡され、現在訴訟中です。私としてはお腹に子供がいるので今の彼氏と寄りを戻したいです。彼氏に10歳も年を誤魔化されたと言われていますが、それは間違いです。実際は20歳しか鯖をよんでいません。よろしくお願いします。恋の精霊様〉
〈夫の収入が少なくて、生活が苦しくて困っています。夫にはもっと朝から深夜まで働いて生活費を稼いでもらいたいです。
夫は私にも働いてもらいたいと言われていますが、家事が忙しくて働けません。
ちなみに前の前の夫との子供が二人、前の夫との子供が三人。今の夫との子供が一人です。そんな感じなので夫に稼げる仕事を紹介してください恋の精霊様〉
〈彼女と僕で借金が700万オカネ―もあって困っています。彼女には僕の職業は騎士だと言っていましたが、実は只の一兵卒でその仕事もつい最近辞めてしまって現在無職です。
彼女は彼女で貴族だと言っていましたが実は街の行商人の三女でした。彼女の親の財産を当てにしていたのにショックです。
今彼女と借金を踏み倒す為に夜逃げ…いや、駆け落ちしようかと相談しています。どうすれば良いでしょうか恋の精霊様〉
〈三人のお付き合いしている男性から同時に求婚をされました。誰を選べば良いでしょうか?ちなみに私のお腹には子供がいるのですが誰の子供だか解りません。その事は男性達にはそれぞれあなたの子供だと言ってあります。よろしくお願いします恋の精霊様〉
「こんな無茶難題を何と言うか……恋の精霊様ってスゴく懐が深いんですね」
腕組みまでして真剣に頷く従騎士。
「うむ。確かに真の恋の精霊様じゃ」
「早速、我輩もお願いしちゃおう」
「良いわね。せっかくだもの。ところでお札は何処に有るのかしら」
「ああ、それならばこれじゃないでしょうか?」
そう言いながら従騎士は祭壇の片隅に置かれ願い札と書かれ簡素な台に並べられた札の数々を指差した。
「ん〜どれどれ。願い
とは言いつつ彼らはそれぞれの思いにあった願い札を取り出すと各々願いを書き始めたのだった。
〈150歳、独身の魔法使いです。今魔王が復活して世界がピンチなのですが、自分は独身だし後何年生きられるかわからないので正直もう、どうでも良いです。
それよりも、この年になると下の息子も思う様に反応しません。
下の息子が十代の時の様な元気になる魔法があったら教えてください。恋の神様よろしくお願いします〉
〈元オークの国で癒しの巫女をしていました。今絶賛婚活中です。
今一番気にしているのは30代になったとたん、太りやすくなって、その逆に体重が減り辛くなった様な気がします。あと、皺やシミが出来やすくなった様に感じます。
この前有名な50代の美容研究家のノウハウを50万オカネ―で買いましたが効果ありませんでした。
不審に思い後で調べたらその美容研究家は幻術の達人で実際は年相応なのにそれで誤魔化していると言う詐欺師でした。むかつきます。返金してもらいたいです
私の先輩に婚期を逃して今だ独身の人がいるのですが、見ていて痛々しいので私は絶対ああはなりたくありません。恋の精霊様よろしくお願いします〉
〈僕は現在18歳で騎士を目指している者です、今は王国の危機を救うべく冒険中なので恋とか愛とか言っている場合じゃないので、特に精霊様にお願いしたい事はありません。
ところで話は変わるのですが、恋の精霊様は男女の性別不一致の件に関してはどうお考えでしょうか?いや、決して僕がそうだと言う訳じゃないんですが、もし、そう言う人が居るとしたら大変だろうなと思う次第であって、僕は至ってノーマルです。
話は元に戻しますが、男性が同じ性別の男性に恋をするとかアリか無しか恋の精霊様的にどうお考えなのでしょうか?いや、決して僕が男性にそう言う感情を抱くとかは決してありません。僕は至ってノーマルです。
ところでそう言う同じ性別の人同士が恋愛関係になるとかは恋の精霊様的にアリですか?なしですか?よろしくお願いします恋の精霊様。
追伸。僕はまったくそうじゃありません〉
〈我輩はこの年になって今だ童貞でござる。女の子と付き合った事も無いでござる。可哀想である。と言う事で精霊様に一つご相談があり申す。
オッパイの大きい可愛いオンニャの子を一人ご所望。いや何だったら何人でも良いでありまする。拙者はその所とても懐が深いでござる。
何だったらオッパイの大きさは気にならんでござる。小さいのは小さいのでそれはそれで良いよね。てか、照れるでござる。
若ければ若い程良いでござる。あっでも年を取っていても見た目が若ければ関係無いでござる。むしろそれはそれで、ありかな、なんて思うでござる〉
4
皆、思い思いの駄文……願いを書いて満足したのか、その札を滝の前の柵にぶら下げていたその時、ふと目の前の滝の流れる祭壇の様子が変わっていた事に気付く。
「あっよく見たら滝の流れが止まってるわ!」
「ほう、そうじゃの。誰がか水の流れる蛇口を捻って止めたかの?」
そんな事を言っていると滝壺から水没死体が浮き上がる様に白いローブを着た黒髪の女性が浮き上がってきた。
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』
それを見て恐怖した冒険者達の絶叫がこだまする。
驚愕と絶叫の中、土左衛門(水没死体)はゆっくりと立ち上がる
その姿はボサボサの髪、肌は青白く、目の下に隈をたくわえて、目は半開きで生気は無い。
また着ているヨレヨレの粗末な白いローブはそれを着ている人物の猫背な姿勢の悪さと相まって、不気味さすら漂わせていた。
突然現れた不気味な人物はゆっくりと顔を上げると、目の前で腰を抜かした冒険者達を睨みつける。また冷たいブラックホールが出す暗黒の様な視線は冒険者達を震え上げさせたと同時に浮かれた気分から我に帰らせた。
腰を抜かした魔法使いの老人が叫ぶ。
「死霊じゃ!現世(うつしよ)での恋愛トラブルで無念を抱えたままこの世を去った、女の死霊じゃっ!」
「でも何故こんな所で現れたのですか」
従騎士は戸惑いながら魔法使いに問いかける。
「おそらくは死霊の女王の拡大する霊気によって怨念の力が増幅して蘇ったのじゃ」
それを聞いた姫巫女オークは祈祷の体勢に入りながら話す。
「この愛の祠で死霊として蘇るなんてよっぽど酷い恋愛でその命を失ったのでしょうね。ここは何とかして成仏してもらいましょう」
「恋愛とはまったく無縁の我輩も死んだらこんな感じの死霊になるでござるかの?こりゃまた勘弁。こう見えても我輩には二次元の架空の恋人が沢山いるでござるからに……」
この期に及んでも自分あげ目の前の死霊下げを行う中年勇者。
「違うわッ!お前ら、いい加減にせーよ!コッチは恋の精霊なんよ!
なのにどいつもこいつも無理難題、ドロドロした反吐みたいなこと ばっかり願いやがって。見ろ!この姿をストレスでこちとらストレス全開纏っちまったじゃねーかよ。この糞カスども!
もっとこう、乙女のハートがキュン♡となる様な願いとか、無いのかよ!
もーやだっ!聞いてるだけでこっちが負のオーラ全開になるわっ!」
そこまで叫ぶと恋の精霊は息を切らせながら両手を池の底に着き倒れ込む。
「ホントにこの精霊は恋の精霊様なのかな……。何だかとても疲れている感じが……」
落ち着きを取り戻した従騎士が不安そうに言う。
「何なのかしらこの陰キャの精霊。これが恋の精霊とか言ってるけど、冗談も程々にして欲しいわ」
「こいいう勘違いした輩に絡まれると一番厄介なのじゃ。下手に話しかけん事じゃ!」
初対面で散々な言われ様の自称恋の精霊は肩を怒りで震わせ立ち上がると叫んだ。
「うるさいわっ!!!!!この無礼者ども!!!
よくも恋の精霊である私を侮辱したな。こうなったら天罰として貴様らには一生恋愛が出来ない呪いを掛けてやるから覚悟しろ!」
その怒りにチョとたじろぐ冒険者達。
「大変です勇者様!僕を助けてください!」
「ダーリン私を守って!わたしならそんな呪いをダーリンが掛けられても愛しますから!」
「この老体にもはや恋愛などと……いや、最後は愛する人の豊満な胸の中で死にたいの〜」
などと言いつつ冒険者仲間は中年勇者の背後に隠れる。
突如、怒りの矢面に立たされた中年男性は後ろを振り向きながら声を上げる
「おいっ!君たちそんなことより目の前の陰キャ精霊を止めろよ!じゃ無いと我輩これから一生、ラブと無縁になるからにして……!」
陰キャ精霊は目の前で怯える冒険者一行を指差すとその指先から呪いを発動させる。
「くらえっ————————————!」
叫ぶと同時に精霊の手から眩く光る閃光が放たれ、それがプラゴル勇者に直撃する!
「ギャ—————!!!!!!」
呪いを受けて悲鳴を上げるプラゴル勇者。しかしすぐに我に帰ると自分の身体の様子を確認する。
「てっ……あれ?……何も変わらん……。痛くも痒くもない」
そして何事も無かった様にそう発言する勇者。
「えっ……嘘……。そんな馬鹿な…呪いの魔法が効かない」
戸惑う恋の精霊。
「まさかこ奴、生まれながらにして恋愛と完全に無縁の存在とでもいうのか!」
「はっ!?なにこの恋の精霊スゴく失礼なんですけどっ。大人の世界には言って良い事と悪い事があるんだけど!」
「そんな事より勇者様、恋の精霊が怯んでいるうちにここから逃げましょう」
自分の身に被害が及ばなかった従騎士が快活に提案する。
「そんな事よりってなんだよ!我輩が異性と交際出来るかどうかと言う重要な事なんですけど。今日はそこんところ恋の精霊ととことん話し合いたいね」
そう駄々をこね始める中年勇者は地面に座り込む。
その中年勇者の様子を見て、今まで怒りに我を忘れていた恋の精霊も冷静さを取り戻すと同時に戸惑う。
「ええ〜私にも出来る事と出来ない事があるんですけど……」
その言葉に中年男性は地面の上で大の字でなって、手足をばたつかせる。
「ヤダッヤダッ!恋の精霊なんでしょ!迷える中年男性の恋のキューピットになってよっ!」
駄々をこねる中年男性はテコでも動きそうに無かった。
その様子を見ていた老人が若干疲れながら中年男性に近づくと耳打ち際に小声で囁く。
「それよりお主、この冒険が成功すれば王女様の生オッパイが堪能出来るんじゃぞ。ワシも早くそのご褒美に預かりたいのじゃ」
そう聞いたとたん、プラゴル勇者の表情はがらりと変わり明るくなる。
「あっそうだった!すっかり忘れてたでござる」
そして立ち上がると恋の精霊に向かって言い放つ。
「スマンな精霊よ、我輩は王国の危機を救わねばならんので話は又後で…」
「行くぞ!野郎共!王国を救う旅に出発だ!」
そうして何の事だかさっぱり解らず呆然とする精霊を置いて彼らは出発したのだった。
5
そしてついに冒険者達は危険なダンジョンの入り口に立つ。
「はぁ〜疲れた。やっとここに到着かよ。でっ聞くけどここ何処?」
「ここは死霊の学園に行く為のダンジョンです。昔は街道を通って山の中腹にあるお城まで行けたそうなんですけど、今ではその街道は死霊の女王に出す強い霊気が強烈な寒さを呼んで厚い雪と凍りに閉ざされてしまったんです」
「あっそ、じゃあ、行くか。とっとと終りにして帰ろーよ」
「えっ?」
あまりの気楽さに戸惑う従騎士。
「なに?」
「いや、何でも無いです。でも流石勇者様。危険なダンジョンを前に少しも物怖じしないんですね」
「えっそうなの?それ先言ってよ。じゃあ一応隊列決めようか。
先頭はやはり騎士の君。がんばって。後は適当に。ちなみに我輩は一番後ろの殿だから。危ないの無理なんで。それじゃぁ突撃——————!レッツゴー!」
「とこで、おぬし、このダンジョンの先の死霊の学園があってそこには世にも恐ろしい死霊の女王がいるのじゃが、そりゃもう恐ろしいくらいの強敵じゃぞ!なんでも、かの死霊の女王はその言葉だけで何人もの異世界から来た冒険者や勇者たちを一瞬で死に至らしめて、その呪いで配下にしてしまったという噂じゃ。油断するでないぞ!」
「言葉だけでなんて……。そんなのどうすれば……。僕怖いですぅ」
「ダーリンのことだから、きっとすごい対策を考えてきたんでしょ、ねっ♡」
「対策?なにそれ?」
『えっ!?』
「あっ、!死霊の女王とどう戦うってこと?そんなことしないよ。
ちなみに我輩、喧嘩とか無理だから、勿論戦うなんて無理。社会人の大人だからね」
「じゃっ、じゃあ、どうするつもり何ですか勇者様?」
「ん~ま~、話し合い?話せばわかるみたいなww」
「相手は恐ろしく呪われた死霊の頭じゃぞ、話なんかつうじるものか」
「じゃあ、土下座でお願いするしかないか~。うむ!それで行こう!出会ったら即土下座!
あっそうだっ!死霊の女王にも王女のオッパイ揉ませてやるのはどうだろう?
幽霊だし、生暖かくて柔らかい物なんて久方触ってないから喜ぶんじゃね?
なにせ、オッパイだし。なんなら特別にオッパイの匂いも嗅いでもらおう」
「たしかにそれなら行けるかもしれんの~」
「いけるんですか!?そんなので!」
「わっ私は嫌よ!幽霊なんかに私の胸を触らせるのなんて、絶対嫌!
嫁ぐ前に私の胸は大切な人にしか触らせないし、揉ませないんだから!」
「まぁそれでも駄目だったら諦めてかえろ~。だって命を懸けてオッパイって、さすがに割が合わんわ。オッパイも命あっての物種だし」
そんな無駄話をしてようやく冒険者達の危険に充ちたダンジョン攻略の冒険が始まるのだった。
5
冒険者一行がダンジョン攻略に向かおうとしたその頃……。
イルセカーイ大陸北東部 ライトレギオーン地方に北に位置するダークノール地方。
そこは先の魔王討伐の大戦のおり、魔王軍を追いつめそして魔王を滅ぼした場所でもあった。
険しいヤバース山脈に隔てられたその地域は荒涼とした灰色の大地と空は常に分厚く暗い雲に覆われ昼尚暗い、通常の生命の生存を否定していた。
よってそこはあらゆる魔族や凶暴な怪物が跋扈する。呪われた場所である。
その奥地に鉄灰色の禍々しい姿形をした魔王城、ダークヤバイルがそびえ立つ。
その呪われた城の中心部、魔法によって建てられた黒い壁に覆われた謁見の間。その奥の中心に巨大な血塗られた赤い玉座があり、そこにメラメラと黒い炎を全身に纏った魔王が鎮座していた。
全身を黒い呪いの燃え盛る炎に覆われ魔王の姿ははっきりと見る事は出来ない。ただその顔に当たる場所には血の様な赤い目だけが光っている。
どんな屈強な歴戦の戦士、またこの世界の最強の種族と言われるドラゴンでさえその魔王を前にすれば怯えるしかない恐怖のオーラを発している。
故にこの謁見の間には魔王以外誰一人いない。
しかしその謁見の間に一人で入り、魔王の玉座に進み出る人物がいた。全身を禍々しい黒い鎧に身を包んだ魔王軍幹部、四天王の一人である暗黒騎士である。
その暗黒騎士は力強く前に進み出ると魔王を前にして、片膝を着き、頭を下げ臣下の礼を取る。
「ご報告申し上げます。我が配下の斥候の報告によりますと。召還された勇者を筆頭とする。冒険者一団が死霊の女王討伐に向け出立。現在、アンデットたるゾンビが徘徊する村を抜け、その学園に唯一向かう道であるダンジョンまで辿り着いたとの報告が上がりました」
「……」
報告を受けた魔王は無言で答えない。ただその目は怪しく光り暗黒騎士を凝視する。
「ご命令とあれば、直ちに我が一軍を派遣、勇者の目的を阻止してみせましょう」
その言葉に対して黒い炎の中から声が聞こえる。
「うむ……。そなたの進言一考の価値がある。しかしその今はその時では無い。
なぜなら、かの地は人間、魔族、獣の類いを含め生きとし生ける者全てをしに至らしめる呪いの地。いかに予言されし最強の勇者といえど、その呪いに打ち勝つすべは無い。
我々が手を下さなくとも、死霊の女王の前に姿を晒せば抗いようの無い死が降りかかるだろう」
「恐れ多くも申し上げます。魔王陛下。あの勇者という存在は最強の存在と聞き及びます。その予言を示す様にこの地に召還されて間もないにも係わらず、たった一人でゴブリンの大軍を壊滅。また怒れるオークの大進軍をその身を呈して止め、オーク辺境国を人間の王国の連合に加える切っ掛けを作った存在です。偶然とはいえ、またその様な奇跡を起こすとも限りません」
その進言が言い終わってしばらくの沈黙の後、魔王を覆う黒い炎はより一層燃え上がり業火となって辺りを暗闇のオーラで照らし出す。
「フフフフッ…。我を打ち倒す為に召還されし、最強の勇者……。
オモシロイ。ヤツの実力、奇跡を見てみようではないか」
そして魔王は立ち上がると両腕を大きく広げ、大声で叫ぶ。
「愚かな人間共、そして勇者!みせてみろ貴様の実力を……そしてその最強の力を持って我の前に現れるがイイ。楽しみにしているぞ。楽しみになっ!……
ハハハハッ————————!」
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