短編

短編 胸の内

 ——退屈だ



 朝起きると、必ず真っ先に頭に浮かぶ


 顔を洗い、朝食を食べ、着替えて学園へ行く


 変わり映えのない環境と顔ぶれ


 聞かなくても理解できるレベルの退屈な授業


 幼い頃から勉強しなくても成績は優秀だった


 だって全部分かってしまうのだから


 母に100点のテストを見せても興味が無いのか「ハイハイ」と言われて終わりだった


 だから自己肯定感は低い


 物心着いた時から父親の存在が無く、母とずっとアパートで暮らしていた


 母は水商売で生活費を稼いでいて最低限の生活費しか入らない


 だから自分で何とかするしかなかったし、家でも一人でいる生活が当たり前になっていた


 半年前の2月、自分が大富豪の娘だと母から告げられた


 結婚はせず、妊娠した事も相手には伝えてないらしい


 もしかしたら、娘を道具にして慰謝料でも請求を考えているのかもしれない


 どこの国の三流ドラマだ、と鼻で笑った


 正直、父親なんかどうでも良かった


 でも、今まで苦労して生きてきた分、慰謝料は貰っても良いだろうと気が変わった


 いつもの母の虚言だと話半分で聞いていたが、退屈しのぎに自分なりに男の情報を探る事にした


 母が酔っている時に男の住所は聞き出した


 慰謝料が取れるんじゃないかと母は期待してるみたいだけど、あの人に使われるのはごめんだ


 1度だけじゃなく2度3度、母は育児を放棄し、施設で過ごした事があったんだから


 おまけに一般常識も無い母親で、持ち前の容姿で男に依存して生きてきた様な人だ


 だから地頭の良さは男の遺伝だと思う


 その住所へ行ってみると高級住宅街が立ち並ぶ中、一際目立つ一等地の大豪邸


 高い塀に囲まれ、中の様子は分からない


 調べれば調べるほど男が雲の上の存在だと気付く


 一体どれだけの屍の上に男は立っているのか


 だから自分が娘だと訪ねても門前払いを受けるのは目に見えていた


 ある時、使用人達が門から出てきて気になる事を話していた


『旦那様もお身体が弱ってきてますね』


『私達の前では気丈に振る舞ってらっしゃるけど……後継者が居ないから、旦那様が亡くなったら仲の悪い親族がこの豪邸を受け継ぐのかしら』


『しっ、誰かに聞かれたらまずいよ』


『そっ、そうね』


 二人は周りに人が居ないのを確認すると、豪邸の中へ入って行った


 馬鹿な人達だ、人が聞いている事に気付かないなんて


 それにしてもいい事を聞いた


 物凄い速さで頭の中で計画が立てられ、男宛に一通の手紙と自分の検体を郵送した


 後継者を探しているならこの餌に食いつくはず。自分が男なら仲の悪い親族なんかに財産を渡したく無い


 そもそも、本当の娘だったらの話だけど


 退屈だったんだ毎日が


 だから自ら渦中へ飛び込み、ゲームを楽しむ事にした


 手紙を送ってから豪邸に変化が無いか探るとビンゴだった


 今まで見た事のない車の出入りが多くなった

 

 乗っている人間はどう見ても堅気じゃない人達ばかり


 後は学園で変化がないか注視するだけ


 一人の娘を探すなんて容易だと考えているのかもしれない


 でも、それは安直だと思い知る事になるだろう



 ——何故なら、私はあなたの娘なのだから



【短編 胸の内 完】

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