第26話 七宗一花は断れない
「ごめんなさい」
昼休憩時間、たまたま校舎裏を通りかかった時に謝る声が聞こえてきた。
一花先輩?
「ど、どうして僕の告白を断るかな? 僕は顔はそこそこだし、東大合格A判定で将来有望だよ?」
往生際悪く喰らいつく男は……確か学力試験2位の三年D組の男だ。
東大合格確実でそこそこ人気のある男なんだっけ?
※因みに一位は生徒会副会長の仙道始だ。
「いえ、決してあなたが駄目とかじゃなくて……」
一花は穏便に済まそうと笑顔を取り繕う。
「ならいいじゃないか? 僕は七宗さんの事を三年間ずっと思って!」
「痛っ! やめて下さい」
男は一花の肩をガシッと強く掴んだ。
「オホンッ!」
紛らわしく咳き込んで存在をアピールしながら二人の元へ近付く。
「一花先輩大丈夫ですか?」
「不破さん!」
「誰だ君は! 今大事な所なんだ、邪魔をしないでくれ!」
男は物凄い剣幕で
恋は盲目。人をこうまでさせてしまうのはある意味一花先輩の才能かもしれない。
「手」
「手がどうした!」
「分からない? 一花先輩が痛がってる事に気付かないのか? 手を離せって言ってるんだよ!」
「あっ……」
男は我に返りパッと一花から手を離した。
「先輩、頭いいですよね? 何でしたっけ? ことわざで立つ鳥……えーと……」
「”立つ鳥跡を濁さず”だろう? 君はそんな事も分からない馬鹿なのか?」
「あー、それです。で、濁しまくってる先輩と俺、どっちが馬鹿ですかね?」
そう言いながら男を睨んだ。
「う……それは……」
「先輩、馬鹿じゃないなら意味分かりますよね? もうこれ以上はやめましょうよ?」
男は俺の言葉を聞いて納得したのか項垂れて去って行った。
彼の気持ちが分からない訳でもない。
俺も、中2の時に安八恵にこっぴどく振られている。
一大決心して告白するまではいい。
チャミのルールのお陰もあるけど、客観的に見たら彼の振られた後の行動は凄くかっこ悪かった。
「不破さん、助けてくれてありがとうございます」
ホッとした顔の一花が俺の方へ駆け寄ってきた。
「いいですよ、それより肩は大丈夫ですか?」
「う、うん。思った程強くなかったみたい」
一花は強がってはいたが、小刻みに震えているのが分かる。
「良かった。俺から一つアドバイスしてもいいですか?」
「は、はい」
「一花先輩の笑顔、すごく素敵です」
「ありがとう」
「でも、その笑顔が時に相手に誤解を生んでいるかもしれない。ただ、その笑顔は一花先輩の防衛本能にも感じて……これ以上は上手く言えないですけど……」
俺がそう言うと、一花先輩はハッとした顔で目を見開いた。
「凄いですね……分かるんだ……」
そう言うと、一花は壁に寄りかかった。
俺はそれを見て、一花の隣に立つ。
「私、自分のこの性格が大嫌いなんです」
意外な言葉が一花の口から出る。
七宗一花は皆が憧れる女子生徒であり生徒会長だ。
容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、性格最高で、教師からの信頼も厚い。おまけに彼女の事が好きな男子生徒は相当数居ると聞いた事がある。
でも、今の彼女は……
「やっぱり、優等生を”演じる”のは疲れますか?」
「……うん、ちょっと疲れちゃった」
一花は上を見上げて大きくため息を吐いた。
「悩みなら聞きますよ?」
「え?」
「一花先輩にとってそう言う男が居てもいいかなって」
「そうですね……不破さん、聞いてもらえますか?」
一花は口を開いた。
彼女は幼い頃から過保護に育てられ、成長していった。
期待に応えようと勉強、スポーツを人一倍頑張って結果を残すと、彼女の友達の親達が、一花のように勉強が出来るようになりなさい、頑張りなさい、他人に優しくなりなさいと、いつしか指標にされるようになったとの事。
「少しでも成績が落ちたり、サボろうとすると、”何かあった?” “体調悪いの?”って言われちゃって、その度に笑顔で”大丈夫”と返事をすると相手が安心してくれるから笑顔が癖になっちゃって……そしたらあれよあれよと生徒会長に推薦されて今はその立場になってしまいました」
「生徒会長辞めちゃいますか!」
「えっ、そんな事したら。皆困っちゃうから……」
「困らせればいいんですよ。俺は一花先輩が潰れないか、ただそれだけが心配です」
チラッと一花の顔を見る。
「不破さんって、私の周りの人が言わない事をサラッと言うからビックリしちゃいます」
「一花先輩優しいからな。だからさっきの男が一花先輩の優しさに漬け込んでくるんだ」
「うん、結構トラブルが多くて……友達だと思っていた男の子から突然告白されたり……」
彼女は俯いて考える素振りをする。
「因みに、この学園に入って何人に告白されました?」
一花は少し思い出すかのように上を見上げて指を折り始めた。
「数えた事ないから分からないけど……」
おいおい……一体いつまで指を折り続けるんだ?
「もういいですよ。それにしても凄いですね……それで何人と付き合ったんですか?」
「えっと……これ」
一花は指でゼロのジェスチャーをした。
「あの、踏み込んだ質問で申し訳ないんですけど、今まで異性と付き合った事は?」
「……ありません」
一花は顔を赤らめた。
だったら俺と付き合ってください!
昔の俺なら今の仕草で完全に落ちて告っていた。
彼女はナチュラルボーン魔性の女だ。
無自覚だからこそ至高。
「俺に手伝える事があったら何でも言って下さい。一花先輩の為に24hオープンにしておきます」
「もう! 不破さんはいつも冗談混じりに…… あ、じゃあ 今度」
キーンコーン カーンコーン
「一花先輩、今何か言おうとしました?」
「い、いえ! 何でもないです。不破さん、チャイムが鳴ったから早く教室へ戻りましょう!」
「そうですね!」
教室へ向かおうと駆け出した時、不意に一花が俺を呼び止めた。
「ありがとう。不破さんに話したら少しスッキリしました」
一花は満面な笑顔だった。
その笑顔が彼女の本心なのか演技なのか、俺には分からなかった。
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