第19話 瑞浪伊吹は目立ちたくない
「おー、どうしたお互い固まって? まさかお互い一目惚れしたか?」
高山が俺達を見てからかってきた。
「あっ、Aさん。何か飲みますか?」
イブが気を取り直し、俺に注文を聞いてきた。
「ビールで」
「分かり……えっ?」
今のイブの反応で疑心は確信に変わった。
イブは俺の年齢は知らないはず。酒を注文して驚く理由は一つ。俺の年齢を知っている、いや、俺の事を知っているからだ。
「おいこらA! お前未成年だろう? 四年はやいんだよ!」
「冗談だって。ねぇイブさん、ウーロン茶貰える?」
「は、はい。ウーロン茶ですね」
後は、俺がイブの正体に気付いているかイブに確認する必要がある。
知らないフリをすることは出来るけど、伊吹は高山と一緒に居る俺に気づいてしまった。これじゃフェアじゃないし、俺の弱みを握られっぱなしになるからだ。
「どうだA? 絶世の美女だろ?」
「本当にビックリ。こんな美女がこのbarにいるなんて。ウチの学園の生徒会長なんて目じゃないよ」
パリンッ!
グラスが割れる音がする。
「失礼しました!」
イブがグラスを落として割ってしまった。
「大丈夫?」
俺は心配したフリをしてカウンターにサッと入り破片の片付けを手伝う。
「痛っ」
素手で破片を掴んだら破片が刺さってしまい指から出血をしてしまった。
「大丈夫ですか?」
イブが咄嗟にハンカチを使って俺の指先へ当ててくれる。
「ありがとう。このハンカチは次の時に返すから」
俺はイブにそう言って席へ戻った。
「珍しいな。君が粗相をするなんて」
高山が不思議そうな顔でイブを見る。
生徒会長の言葉を発した時に一番動揺したように見えた。
「イブさんって若く見えるけど18歳位?」
俺は彼女の素性を突っ込んでいくことにした。
「そうですよ。Aさんよく分かりましたね」
「いやー、本当は高校生かと思ったくらいだよ」
「Aさん、お世辞をしても何も出ませんよ? そんな事あるわけないじゃないですか!」
切り返しが上手い。
瑞浪伊吹、学園では学年一位の優等生で、普段は地味で大人しい君がどうしてこんな所で働いているんだ?
それからは、高山含めて三人で会話を楽しみつつ、伊吹を観察した。
「ちょっとオシッコ」
高山は飲みすぎたらしくフラフラになりながらトイレへ行った。
マスターは少し前にゴミ出しに外に出て出たのを確認している。
つまり、俺とイブの二人きりだという事だ。
「何か飲みますか?」
「いや、もういいよ。それより、君に言い忘れた事があるんだ」
「もー、やめてくださいよAさん。まさか、愛の告白ですか?」
イブは冗談話しに持っていこうとする。
「月曜日はありがとう」
「え? 何の事ですか?」
イブは怪訝な顔で俺の顔を見た。
「君が中立の立場を取ってくれたから。結果的に生徒会で俺の提案が通った」
「あ…… 」
表情で分かった。イブが瑞浪伊吹である事に俺が気付いたことを。
「あの、Aさん。私」
「おー、よろしくやってるか? 俺が居ない間にイブを口説いて無いだろうな?」
高山がガシッと肩を組んできた。
「さぁ、それはどうかなー?」
俺は適当にはぐらかす。
それから小一時間ほど三人で話をしてお開きとなった。
———翌日
「おはよう不破君」
「おはよう」
いつもと変わらぬ朝の登校。
しかし、今日は違っていた。
「不破さん、おはようございます」
後ろから聞き慣れない声が聞こえ、振り返るとそこには三つ編みで眼鏡をかけた瑞浪伊吹が居た。
彼女の方からコンタクトを取ってくるとは予想外だった。
「おはよう、瑞浪さん」
「お昼の休憩時間に体育館裏の倉庫の中で待ってます」
伊吹は俺を追い越す時に俺だけに聞こえるように伝えてきた。
俺に愛の告白か? なんて無い事は分かりきっている。十中八九昨日のことだ。
◆◇◆◇
キーンコーン カーンコーン
あっという間に昼休憩の時間になり、チャイムがなったと同時に俺は教室を出た。
「あっ、不破君行っちゃった。みんなで売店行こうと思ったのに。ねぇ、このみ?」
「どうせ、可愛い娘と約束があるんじゃない?」
「このみの言い方、なんかトゲあるね」
なんて会話がこのみと理恵で交わされている事はつゆ知らず、俺は約束の場所へ走って向かっていた。
※チャミのルールその二十八
待ち合わせ場所には先に到着して相手が来るまでに戦略を立てておく事。
あれが体育倉庫か?
確かに周りに人気が無く落ち合うには絶好の場所だった。
ガラガラガラ……
ゆっくりと、倉庫の扉を開けて中へ入る。
中は薄暗く、唯一小さな窓から入る陽の光のお陰で何とか視認が出来ていた。
「不破さん」
「ウワッ!」
突然、倉庫の奥の方から名前を呼びかける声が聞こえ、思わず声をあげてしまった。
「瑞浪さん?」
「うん」
奥から現れたのはメガネを外した瑞浪伊吹だった。って、俺より先に到着してたのか?
足早すぎだろ。
「昨日の件だよな? お互いヨソヨソしく話すのはやめないか? もう、今更隠してもって感じだしな」
「そうね。そうさせて貰う。単刀直入に言うけど、昨日の事は黙っていて欲しい……ううん、忘れて欲しいの」
「忘れるのは無理だけど、黙っておく事は出来る」
「本当? じゃあ」
「ただし、条件がある」
「な、何? まさか私を脅してあんな事やこんな事する気じゃないでしょうね?」
伊吹は身体を隠すように両手を組んで身構えた。
「あっ、その手があったか!」
俺はニヤッと伊吹の顔を見つめ、ジリッと彼女に近づいた。
「や……やめて。これ以上近づいたら声をあげるんだから!」
「知ってるだろう? ここは誰も来ないよ」
俺は更に伊吹に近づく。
「や、やめ……え? ハンカチ?」
伊吹は目の前に差し出されたハンカチを見て目が点になっていた。
「何勘違いしてるんだ? ちゃんと洗濯してアイロンかけたから使えると思うけど……嫌だったら捨ててくれ。買い直すからさ」
「あ、うん」
「それとさ、俺の事も黙っていて欲しいんだ。それが俺の条件」
「本当にそれだけ?」
「それだけだよ」
「その条件だったら私は大歓迎よ。お互いWin-Winって事でいいかしら?」
「交渉成立だな。あっ、後、俺達の事はTにも絶対に内緒な?」
「分かったわ、でもTさんとはどういう関係なの?」
「内緒。お互いのプライベートの詮索はやめないか? 俺もどうして伊吹があのbarで働いているか聞かないし」
「そうね、ごめん。さっきの事は忘れて」
「最後に一つだけ教えてよ。答えられないならいいけど」
俺は人差し指を立てた。
「何?」
「どうして、素顔を隠して目立たない学園生活を送ってるんだ?」
「目立ちたくないの! 目立つと色々と面倒だから。私は平穏な学園生活を過ごしたいの! さぁ、答えたからもういいでしょ? 約束の事忘れないでね!」
伊吹はそう言い残すと、メガネを掛けなおし、扉を開けて出て行った。
伊吹は持ち前の美貌を隠して学園生活を送ろうとしている。
かたや、俺は前面に出して学園生活を送ろうとしている。
ただ、俺と伊吹が共通している事が一つある。
それは偽るという点だった。
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