第12話 大人のままごと体験
家の扉を開けたのは40代位の品のある綺麗な女だった。
「後無、お帰り。お腹空いたでしょう? 夕飯の用意が出来てるから荷物を置いて早くリビングに来なさい」
唖然とその女を見つめていると、彼女は俺の方へ近付き、額に手をやってきた。
「熱は無いみたいね。体調悪いの?」
「いや、そう言う事じゃ」
そう言いかけた時、更なる衝撃が俺を襲う。
「お母さんどうしたの? あれ? お兄ちゃん帰ってたんだ」
玄関からヒョッコリ顔を覗かせて、俺をお兄ちゃんと呼ぶのは今時の女子中高生位の娘だった。
頭を整理するのに時間が掛かった。
つまりこう言う事だと推測できる。
不破後無は家族と同居している。母親と妹が居る設定だろう。
カモフラージュしないと、ターゲットに勘付かれたらアウトだからな。
しかし、彼女達はどういう素性の人間だ?
高山が手配したのは間違いない。だけど、こんなに短時間で偽の家族を手配出来るものなのか? これも依頼主の力のお陰か?
まざまざと見えない依頼主の力を見せつけられたようで冷や汗が出る。
「お兄ちゃん、早く入ったら?」
妹役の娘が家へ入るように促す。
「そうだな」
仕方ない、ままごとに付き合ってやるよ。
玄関から入ると、綺麗に並べられた靴が置かれていた。玄関も掃除が行き届いている。
「お兄ちゃん! またボーッとしちゃって。まさか自分の部屋が何処か忘れちゃった、みたいなボケかまさないでよね! 二階の奥の部屋でしょ!」
ナイスフォロー、妹役の娘よ。
俺は靴を脱いで、階段を登って二階へ上がると廊下の奥に扉があるのが見える。
あれか。
廊下を歩く途中左側にも扉があり、プレートがぶら下がっていた。
摩美(まみ)の部屋、入る時はノックして!
妹役の娘は摩美という設定か。
ガチャ
俺は奥の部屋まで進み扉を開けて部屋の中を見る。部屋にはありふれた机、ベッド、クローゼットがあるだけだった。
ただ、クローゼットの中にはチャミとデートした時に買った洋服が綺麗にハンガーへかけられていた。
「ふー……」
持って帰ってきた教科書を机の棚に並べた後、溜息を吐きながらベッドへ横になった。緊張の糸が途切れた瞬間だった。
ググー
腹が減ったな。母親役の人が降りてこいって言ってたな。
全く知らない赤の他人と食卓を囲むなんて本当にぶっ飛んだ事するよな。
俺は重い腰を上げてリビングへ向かった。
「お兄ちゃん遅い! ご飯冷めちゃうよ!」
摩美の妹感全開の演技に感心しながら椅子に座る。
「そう言ってる摩美だって食べてないじゃないか?」
俺はニヤッと笑いながら摩美を見つめた。
「……えっ、あっ、だって、お兄ちゃんが来るのを待ってたんだもん」
俺がいきなり摩美と呼ぶものだから、動揺したみたいだな。反応が面白い。
「はいはい、兄弟喧嘩はやめなさい。後無、お味噌汁好きだったでしょ? 熱々で美味しいから食べなさい」
テーブルに並べられた料理を眺め、過去に本当の親と妹と食事をした時の事を思い出した。
「……」
「後無、どうしたの? そんなに哀しそうな顔して?」
「お兄ちゃん、やっぱり今日変だよ?」
「いや、なんでも無いよ」
俺は、グッと気持ちを抑えて並べられた料理を口へ運んだ。
「あっ、このジャガイモの煮っ転がし美味しい。母さん、また作ってよ」
「えっ? そ、そう? 後無が食べたいなら明日も作っちゃおうかな?」
「お母さん、お兄ちゃんに甘い!」
俺の順応した態度に彼女達は若干押されつつ、見事な家族の食卓風景を再現して見せていた。
だけど俺を舐めるな。チャミとの生活で血反吐吐きながら対人関係を磨いたんだ。それに比べたらこれ位ぬるま湯だ。
「後無、お風呂準備出来てるから入ったら?」
母さん役がお風呂へ入るように促す。
「えー、お兄ちゃんの後なんて嫌だよ! 私が先に入るからね!」
妹役の摩美がさっさとお風呂へ入りに行ってしまった。
仕方なく、リビングのソファに座りテレビをつけて見る。
「後無、転校初日はどうだった?」
母さん役が俺に尋ねてきた。
「まぁ、可もなく不可もなくって所かな」
俺は高山へ返事したのと同じ様に答えた。
「そう……ならいいけど」
「…… 」
赤の他人だから話す事なんて正直無い。関わるのは最低限でいいんだ。
「さてと……母さん、部屋に戻ってるから摩美が風呂から出てきたら教えてくれない?」
「わかったわ」
俺は部屋に戻ってベッドに横になると、疲れていたのかいつの間にか眠ってしまっていた……
コンコンッ
コンコンッ!
コンコンコンコンコンッ!!
けたたましいノックの音で目が覚める。
どうせ、摩美だろう。丁度いい、試してみるか。
ガチャ
「もう! お兄ちゃん、全然呼んでも反応が無いんだもん。お風呂空いたよって言いにきたの!」
ドアを開けると風呂上がりの摩美が腰に手をあてて立っていた。
俺は摩美の手を掴むと自分の部屋へ引き込みベッドへ押し倒した。
「ど……どうしたの? お兄……ちゃん」
「……犯してやろうか?」
「嫌ー!」
パンッ!
摩美からの強烈なビンタが俺の頬へぶち当たった。
「痛ってぇ……」
「何なのよあんた! いきなり襲うなんて頭おかしいんじゃ無いの! ちょっとイケメンだからって思う様になるなんて思わないで!」
「なるほど……演技にも限界が有るって事だな。誰がお前みたいな色気の無いガキを襲うかよ」
頬をさすりながら摩美へ伝える。
「試したわね!」
摩美は悔しそうな顔をして叫ぶ。
「引っかかる事が多いんだよな? どうしてままごとを徹底してるんだ? 誰かの目につく時だけ演技すればいいだろ?」
「そう言うわけにいかなんだもん。リビング、ダイニング、キッチン、玄関、庭、廊下みたいな共有スペースに隠しカメラがあって監視されてるの。流石に寝室とかトイレには無いみたいだけど」
「マジかよ?」
「私やあの女の人はとにかくあなたの家族を演じろって言われてるの。だから、ああやって振る舞うしか無いのよ。ねぇ、お願い! 私が喋った事は内緒にして?」
摩美が俺の手を握って必死に懇願してきた。どうして、此処まですがるのか分からないが、彼女達なりの理由があって此処に居るのは確かだ。
「分かった。この事は内緒にするし、共有スペースではままごとを演じてやるよ。ただし、摩美が俺の協力者になる事が条件だ」
「協力者? 私は何をすればいいの?」
「今は何も決まってない。必要な時に協力してもらう。この事はあの母親役の女にも内緒にしてくれ」
「……うん」
「なぁ摩美、今何歳なんだ?」
「15歳だけど……」
「妹の唯が生きてたらタメか……さっきは怖い思いさせてごめん。試すにしても度が過ぎてた。もう二度とやらないよ」
「……」
摩美は無言で立ち上がりドアノブに手をかけて立ち止まった。
「私のお兄ちゃんもね……生きていたら後無君と同じ歳だったの。凄く優しいお兄ちゃんだった……」
バタンッ
摩美はそう言うと俺の部屋を出て行った。
何だよ……そんなお涙頂戴の設定なんか聞きたくないぞ
ガチャ!
「お風呂冷めちゃうから早く入りなよお兄ちゃん!」
摩美が再びドアを開けてあっかんべーをしながら俺に伝えてきた。
「あ、ああ……」
逞しいというか。
こうして俺の学園生活がスタートしたと同時に、偽家族とままごと生活が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます