「妊娠中、声が出なくなった。そして…―― 異常妊娠と、それでも生きようとした命の記録」
浦島ハナコ
第1話 この妊娠、何かがおかしい――不安のはじまり
前書き
これは、ある女性が体験した「異常妊娠」と「死産」の記録をもとに綴った物語です。
出産を心待ちにしていた彼女の身体に、ある日、異変が起こります。
不安に揺れる日々、信じたい気持ち、そして訪れた別れ。
それでも彼女は、悲しみの中にある“光”を見つけました。
この作品には、現実に起きた体験をもとにした描写が含まれます。
読んでくださる方の中には、つらい記憶がよみがえることもあるかもしれません。
それでも、この物語が、誰かの心にそっと寄り添うことができたなら。
そう願いながら、言葉を綴っています。
、、、、、、、、、、、、、、、、、、
妊娠がわかる前から、身体に小さな異変が現れていた。
だから彼女は、妊娠が判明したとき、嬉しさと同時に、どこか説明のつかない違和感を抱いていた。
初めての健診は、自分が生まれた個人病院だった。
実家のすぐそば、昔から変わらないたたずまい。
あの時代に母が命を懸けて産んでくれた場所で、今度は自分が命を迎える。
そんな巡り合わせを、少しだけ運命のように感じながら診察台に横たわった。
「心音、聞こえるよ。元気に育ってるね」
医師の言葉に、ふっと身体の力が抜ける。
胸の奥にじんわりと安堵が広がり、思わず笑みがこぼれた。
けれど、それでも違和感は消えなかった。
顔のむくみが強くなり、頬がまるくふくらんだ。
ふっくらした輪郭には、いつの間にか深いしわが刻まれていて、
眉間には小さな溝が、まるで疲れた証のように浮かんでいた。
皮脂のベタつきもひどく、顔を洗ってもすぐに脂が浮いてくる。
その変化が「妊娠によるもの」と片づけられない気がして、彼女の心は次第に曇っていった。
夫はそんな彼女の顔を見て、笑いながらこう言った。
「なんか、ブルドッグみたいになってきたな。かわいいけど」
わかってはいる。夫に悪気がないことも、心配してくれていることも。
でも -この不安は、自分にしかわからない。
そして、体調は日ごとに悪くなっていった。
夜中に何度もトイレで目が覚めるようになり、
眠っても熟睡できず、日中も頭がぼんやりしていた。
何気ない家事すら辛くなり、家の中で横になる時間が増えていった。
妊娠7か月が近づくころ、彼女の中にある確信めいた感覚が、ゆっくりと形になっていく。
「この妊娠は、順調じゃないかもしれない。
もしかして……この子は……」
その思いが、次第に胸の奥に居座りはじめた。
理由のない不安が、黒い靄のように心の中を漂いはじめ、
前を向こうとするたびに、それがじわりと視界を遮ってくる。
カレンダーを見つめるたび、健診の日が近づくたび、
彼女は、ただひたすら祈っていた。
-どうか、今日も心音が聞こえますように。
そして、妊娠7か月。
ついに、その「違和感」が現実のものとなる。
やっぱり。
彼女は、そう思った。
(次回 第2話:「妊娠と“男性化”――それでも、わが子を信じた」)
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