「……にごりみず」
翌日の早朝。引きこもりの封印の魔法使いとクラトスが町へ訪れる。
全員勢揃いでユースたちの泊まる宿屋に集まった。
本当の奴隷にされかけた亜人種たちは無事解除されたと聞いた幼女は興奮した様子で鼻息を荒くする。
「そ、それじゃあ……失礼して……三人、同時に行い、ます!」
あのときに見た本人よりも長くて厳かな杖を両手で持った封印の魔法使いが呪文を唱え始めた。
その直後に、三人の首輪が淡く光りだす。ジリジリと主の文字だけが震えだし、形が歪んで崩れていった。
「――
パキッと鈍い音がしたあと、あのときのように役目を終えた
仕事を終えて深呼吸していた封印の魔法使いに、カロスの話をするとまた怒りで歪む顔をしていた。
相当な嫌悪感を抱いているのが分かる。これは彼女だけじゃなく、他の国にもいるだろう封印の魔法使いから嫌われていそうだ。
ずっと、空気と化していたクラトスが割って入ってくる。
「あのさー……僕のこと忘れてないよね? 別れてからそれなりに経つけど」
「あの偉大なクラトス様を忘れるはずないですよ! ね! アレスさん」
興奮した様子で叫ぶタレイアと違い表情の変わらないアレスだったが、わざとらしく口角を上げた。
一言も発することのないアレスに、地団駄を踏むクラトスを嘲笑っている姿は悪人以外の何物でもない。
諦めて項垂れるクラトスを連れて目的の場所へ向かう。
あの透明な湖になってしまったラックエールだ。
相変わらず立ち入り禁止になっているが、自警団の姿はなくなっている。
「……なるほどねぇ。これは、間違いなく僕と同じ“透視の魔法使い”絡みだよ」
「透視の魔法で、濁りを透明化させるのか?」
「いや、透視は魔法使いの魔力や魔法力にもよるんだけど……。本来は、見えないよう隠しているものを視るんだ。その産物で、透視したモノに影響を与えることが出来る。この場合だと、水の濁りだね。他で簡単に言うなら、隠しているものを溶かすとか」
意外と有用性のある魔法でアレスも好奇心を擽られた。ただ、犯罪にも使いやすいため魔法具を作るときは登録義務があるらしい。
つまり、違法魔法具か直接透視の魔法を使ったかの二択だった。
魔法だったならクラトスでも無効に出来るらしく、ローブで隠し持っていた一本の青い羽ペンを取り出す。
「
羽ペンから淡い光が漏れ出して湖全体を青く染め上げた。クラトス自身も成功したかと思ったが、光の消えたあとも水は濁っておらず澄んでいる。
あからさまに顔を強張らせるクラトスは盛大な溜息を吐いた。
何も変わらない現象を見て、全員が残念な顔で理解する。
これはクラトスの言っていた厄介な魔法具によるものだ。
落胆しているクラトスへ視線だけ向けるアレスに気づいて怯えた表情をしながら、意図を察して説明してくる。
「ひっ……! ぼ、僕のせいじゃないからね。さっき言ったように魔法具だよ……。それで、これをどうにかするには反転の魔法具を作らないといけない」
反転とは文字通り、ひっくり返すこと。つまり、魔法具の効果をひっくり返して失わせる方法だった。
それを作るのにどれだけ時間が掛かるか聞くとクラトスの顔は渋くなる。
「……素材の調達次第、かな。確か、ある魔物が好んで食べてるらしくて、危険地帯にある」
クラトスの言う危険地帯は、以前アレスたちも通った未開拓地の一部だった。
アレスの中でなんの記憶も残っていない未開拓地は、ほとんどが森や山で囲まれている。但し、詳細不明の広大な大地で人の手が中々入りにくい場所を未開拓地と呼ぶことが多い。しかも、少し前に古い遺跡が見つかったらしく、クラトスの話では魔物の発生源の一つと呼ばれているらしい。
未開拓地は広大な大地で、例の崖に囲まれた要塞都市から此処まで伸びている。棲息している魔物の種類は違うらしく、町から出てすぐ森の道があった。
「それで、肝心の場所は此処からどのくらいだ」
「えーっと……僕も行ったことはないけど。開拓民が描いた持参した地図によると、そう遠くはなさそうだよ」
魔法具の可能性も考えて用意していたらしく、自慢げに語る地図を懐から取り出して広げてみせてくる。
事前に印が付けられた場所は、町を出て一キロほどのところだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます