最強x最強 幼稚園児(フルスペックキッズ)  あいすくりん  ー魔都・横濱は燃えているかー

イサメユキマサ

第1章 横濱動乱

第1話 勝利の女神

 夜の湿気をはらんだ一迅の風が通り過ぎてゆく。

 その横濱港の一角に蠢く者共が居た。


 夜中の0時を回ったばかりだが大黒ふ頭が視認可能な距離にあるこの倉庫群には静寂と暗がりが満ちている。けれど、特に寄港も荷揚げもないのに人気の多い区画があった。


 居たのは20代から50代くらいの男ばかり10人ほどである。皆、押しなべて人相が悪い。


 そして、悪意と殺気に満ちたその場には悪漢共の怒気か張りつめた緊張感、もしくは下卑た笑い声が相応しい。


 何故なら今日は大切な取引があるからだ。武器の違法取引など当の昔から頻回に行われているが、何しろ今回は規模が違う。このヤマが無事に済めば組織はしばらく安泰だ。


 それなのにどうしたことか。


「うるせえぞ! 何があっ…グエッ!?」


「何だテメエ…ギャア!」


 僅か、1分にも満たない時間に続いた悲鳴と鈍い衝撃音の後、周囲から聞こえるのは数人のか細いうめき声のみとなった。


「畜生、誰だ! まさかあいつらブツだけかっ攫って逃げる気か!?」


 安心して部下に現場を任せていたのであろう、少し離れたところからリーダー格らしい男が喚きながら駆け寄ってきた。しかし応える声はない。


「おいっ! 誰か返事を…」


「皆様なら一足早くお休みになられましたわ」


 背後から聞こえた、まったく場違いな子供の声にぎょっとして男が振り返る。コンテナ群の脇に月明かりにぼんやりと照らされた人影が動いた。


 小さい影であった。

 目の焦点が合い、色彩がうっすらと明らかになる。


 男が見間違いかと目をこするが、それは明らかにガキであった。

 しかも見た目、5歳前後の女児だ。


 深夜零時の人気のない港地区に見知らぬ子供。そのミスマッチ過ぎる登場に一種の不気味ささえ感じた。


「ゆ…幽霊…」


「まあ、幽霊? ほほほ、残念。お化けではありませんのよ。夜分遅くに失礼いたしますわ」


「なっ!?」


 その時、雲から顔をのぞかせた月が一気に光を投げかけ、闖入者を明らかにした。


 まず、幼女。


 やや距離があるので細部までは確認できないが、かなり顔立ちの整った女児だ。黒いつやのある髪に紅色の鈴の髪飾りをつけ、品の良いいで立ちをしている。良家のお嬢様といったところだろうか。


 声を出したのは紛れもなくこの子供だろう。とりあえず足はついていた。幽霊ではないようだが、どこか化け物じみた気配を感じる。


 そして今まで気づかなかったが、隣に成人女性が立っていた。


 年のころは20歳前後といったところだろうが、何故か古式ゆかしいメイド服を着用している。コスプレにしては妙に着こなしている感はあるし違和感がない。化粧っけはさほどないもののこちらもきれいな顔立ちをしている。


 そしてなにより目を引くのはそのメイド服を内側からはちきれんばかりに押し上げている豊かなバストである。いい女だ。


 しかし目つきがいけない。

 月光をきらりと跳ね返す瞳が戦闘士のそれであった。


 男が目線を下げると、その足元にさっきまで普通に歩き回っていたはずの部下たちがゴロゴロところがっている。男は反射的に思った。


 ああそうか。

 こいつら、このメイド女にやられたのか。


 本能的に理解すると男は腰に手をやり、耳障りな金属音を立てて折り畳みナイフの刃をむき出した。


「おい、女! どこのもんだ!」


「あなた方が武器等危険物をこの付近で違法に売買していることは分かっております。今は取引先の方々も仲良くお休みになられておりますわ。ですので、今夜はお引き取りを。そして、速やかに警察へ出頭を」


「だまれ、ガキ! おうちに帰ってママと寝てろ!」


 女性の方は先ほどから睨みつけては来るものの一言もしゃべっていない。

 そしてこの、奇妙に大人びたセリフを女児が朗々と語るのも異様な光景であった。しかも、動揺している気配が一切ない。


「しかしイイ女だな、あんた。どうだ? ガキのお守りなんてしてねぇで遊ばないか?」


「そこの貴方! まったく。話をしているのは私の方なのですが」


 その時である。女性が急に身をかがめると背後から接近した何かを掴み、背負い投げの要領で投げ飛ばした。


 仰向けになった人物を見れば、見知った顔である。騒ぎを聞きつけて手助けに来た部下の一人だが、メンバーで一番腕っぷしの弱い人物だ。


 まあ、問題ない。男はほくそ笑んだ。

 これも手はず通りなのである。予定ではまだ10人ほどの腕に覚えのある部下達が暗がりで待機しているはずだ。


「クソが! はやく捕まえろ!」


「お嬢様!」


 初めてメイドの女が声を発した。良く通るいい声である。


 男は舌なめずりをした。取引に邪魔が入ったかと思えば女と幼女。


 懸念していた組の者でないことは明らかである。倒された連中が何故メイドごときに遅れを取ったかは知らないが油断していたのだろう。


 まあ、いい。まだ半数の部下が警備にあたっているのだ。女一人くらいどうにかなる。ガキの方は知らないが、警報器みたいに騒がれてもつまらない。袋にでも詰めて何とかするか。


 それにしても女の方だ。まったくいい体をしている。後でたっぷり楽しみながらどこのグループから寄こされたのか全て吐いてもらおう。そう、たっぷりと時間をかけ…


「ウギャア!?」


「ヒィイイ!?」


 しかし、聞こえてくるのは男たちの悲鳴ばかりだ。

 再び雲間に隠れ弱くなった月明かりに浮かび上がるのは、次々に投げ飛ばされる情けない部下の姿であった。それもすべてあのメイド女がたった一人で迎え撃っている。


 信じられん。悪い夢でも見ているのか。

 そばに居るガキを人質に取ろうと近寄るものならあっという間に蹴り飛ばされている。


 そうこうしているうちにあらかた片づけたのか、女が軽く手を払った。


「お嬢様。人死にを回避するため30%のパワーで散らしましたが、しぶとい者が残ったようです。50%に引き上げて潰しますか?」


「いいえ、もう頃合いでしょう。今ちょうどこの近辺の『蝶』をかき集めたところですわ」


「お前ら、いったい」


 周囲に転がされた中に数名、よろよろと立ち上がる者がいた。

 しかし、男の背中を嫌な汗が伝う。


 孤立無援には遠いはずなのに、沸き上がる「敗北」の二文字を消そうと躍起になっている自分がいる。


「最後通告ですわ。警察へ出頭なさい。そうすれば罪もやや軽く済む…」


「うるせぇっ! き、聞いたことがあるぞ! 最近、この辺をガキと女の二人組が荒らしまわってるってよぉ!」


「あらあら、この街を荒らしているのはあなた方の方ですのに。この様子では改心を促したところで無駄かしらね」


「このガキさっきからベラベラと!」


 ついに男が二人に向かって駆け出した。誰かからもぎ取ったのか、手には30センチは軽く超えるナイフを手にして。


「お嬢様!」


「大丈夫ですわ。少し下がって」


 驚くべきことに「はい」と小さく応えると、メイドは何故か一歩後ろに身を引いた。

 子供一人で得物を構えた男を相手にするなど正気の沙汰ではない。しかし、その幼女の瞳の奥底には勝利を確信した、紅蓮の炎が灯っている。


「この街でよくも非道な行為を。言語道断、わたくし怒ってます!」


「な、なんだ!?」


 突然、周囲の空気がざわついた。男が暗い周囲を見渡す。

 大人の掌くらいの大きさをした蝶が不気味に周囲を舞い始めていた。


 横濱市で導入されている、超軽量型ドローン。通称「バタフライ」。

 観光案内がメインの仕事であるはずのこいつらがなぜ急に?


 しかし、意外にも男の頭の回転は速かった。

 こいつら、そうか、うわさに聞いていたがこいつらは…!


 男の胸中に嫌な予感が駆け抜けた。それを無理やり払拭するかのようにナイフを振り下ろす。


「うおおぉお――――――!」


怒髪天どはつてんでございます!」


「ほざけ、ガキが――――――っ!」


 その幼女は急に前へならえのポーズを取るとサッと両腕を開き叫んだ。


「激おこプリプリン、あらモードッ!」


 その瞬間、バタフライ達が淡い燐光を纏うや否や、電撃をターゲットに向かって放ち始めた。短時間の放電であるものの、幾度となく繰り返す。


 その空中を漂う淡い光球と化したドローンたちの怪しくも美しい様。


 男の絶叫が横濱の港に木霊する。

 まるで悪夢の光景だが、その幼女は悪漢の悲鳴をBGMにこの美しい光景に満足している様子である。


 数分も待たず、ついに鈍い音を立てて大柄の男が白目をむいたまま港のコンクリートに倒れ伏した。


 気づけばいくらか意識のあった男たちも残らず白目のまま転がっている。


 超軽量ドローンによる電撃攻撃。

 一撃一撃は微弱に設定されているものの多数による波状攻撃に耐えられる者は少ないだろう。


 幼女とメイドは僅かに緊張を解いた。

 後は全て地元警察に任せるばかりである。


 その時、再び顔を出した月光が彼女達の姿を映し出した。


 殊更に強い光がスポットライトの様に幼女を照らす。

 その様はまるで勝利の女神のようであった。


「おほほほほ」


 100年前に起きた謎の「大災害」により、一度壊滅の危機に晒された街、横濱。

長い年月をかけ大部分の復興は叶った一方、どうしてか荒くれ者たちが幅を利かせる犯罪都市になってしまった。


 しかし、今日もほんの一部ではあれど、横濱の街は悪の手から救い出されたのである。実に佳日なり。


「お―っ、ほっほっほっ! お―――っ、ほっほっほっ!」


 そうして、今夜も謎の幼女による勝利の高笑いが横濱の街に響き渡ったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る