第2話 スープとサラダ、つまり野菜

 第1回ではビフテキと鶏について語ってきました。


 異能夫婦7話で触れていますが、作中では洋菌=マッシュルームをビフテキの付け合わせにしています。この表記は前回でも触れた「料理手引草」からの参考です。


 作品では他にスープとサラダが出てきています。

 ここで悩んだのが、それぞれどんな具材を使うかです。


 スープに使う野菜、サラダに使う野菜。

 当時だとジャガイモもそこそこ一般的だったけど、これはビフテキの付け合わせに使いたい。

 スープには野菜を入れるとして、味付けはどうしよう。コンソメ? ブイヨン?

 普段の食事ならともかく仮祝言の日のディナーという設定だから、なるべく食材を被らせたくない。


 というわけでレシピ本を開きます。


「実用西洋料理」(大正12)

https://dl.ndl.go.jp/pid/919485/1/15


 実用西洋料理と料理手引草は料理の種類ごとに項目がまとまっているので、スープを何にしようかなで調べやすいのがいいですね。


 牛、鶏、蛤、牡蠣……。

 この時代のレシピを見ていて意外と多いのが蛤だったりします。いつか使いたいですね。


 蛤と牡蠣だとあんまり「洋食」感がないので、一旦、牛か鶏かに絞ります。

 メインがビフテキなので、こちらは鶏でも良いかと思ったのですが、当時の鶏が高級品なのを考えると初手で鶏のスープより、もっと良い場面で鶏を出したいな、と考えて牛のスープに。

 ちなみに鶏ガラだとまあまあ安く仕上がるみたいです。


「洋食のおけいこ : 来客御馳走」(明45.1)

https://dl.ndl.go.jp/pid/849148/1/13


 こちらは野菜スープのレシピ。


「常磐西洋料理」(大14.8)

https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000196-I00004163


 常磐西洋料理は、リンク先からPDFでダウンロードできます。こちらも料理の種類ごとに並んでますね。


 目についた野菜を適当にチョイス。

 レシピに書いてある食材は、実際に料理シーンに使おうとあまり被せないようにしてたりします。 


 続いてサラダはこちらのリンク先の「レタスアンドトマトサラダ」をそのまんまを採用。


「実用西洋料理」(大正12)

https://dl.ndl.go.jp/pid/919485/1/43


 レタスってチサって言うんですね。知らなかった。ここらへんで野菜を漢字で書くのを断念するか迷い始めます。赤茄子=トマトくらいならまだピンとくるとは思うのですが、萵苣=レタスとかになると、「知らないとわからない」のレベルですからね……。

 同じ本の下記ページの菠薐草=ほうれん草とかも、ほうれん草なのはググればわかるのですが、スピン子ージが謎。子=ネ?


「実用西洋料理」(大正12)

https://dl.ndl.go.jp/pid/919485/1/18



 ところでトマトの皮むきは熱湯をかけると楽! というのがこの時点でもう料理本に書かれているんですね。面白い。


 ところでサラダのレシピを見ていると、「サラドドレッシングをかける」と随所に書かれています。サラドはサラダの表記揺れ(?)ですね。

 さて、当時のサラダドレッシングって、なんだろう?


 幸い、他のページにサラダドレッシングの項目もありました。

「実用西洋料理」にはそのままずばり「サラダドレッシング」が、あります。鶏卵・芥子・塩・砂糖・オレブ油叉はバタ-・麦粉メリケンことなっていますね。オレブ油はたぶんオリーブオイルでしょう。

 余談ですが、麦粉の麦が旧字体の「麥」となっていて、初見ではよくわからなかったのでGoogleレンズを使いました。文明の利器、助かる。


「実用西洋料理」

https://dl.ndl.go.jp/pid/919485/1/59


 「常磐西洋料理」ではサラダの次の項目がソースでした。実用西洋料理とほぼ同じ「サラダドレッシング」のレシピが載っています。


 各ソース細部に違いはあれど、基本的に鶏卵を使っているようです。

 マヨネーズのようなイメージでしょうか。

 ちなみにマヨネーズはマイナイスソースなどと呼ばれていたらしいのですが、あまり直観的ではなかったので、諦めてマヨネーズソースとしました。マヨネーズにわざわざソースをつけているあたりが「それっぽく」しようとした名残ですね。

 マイナイソース、マイナスソースと本ごとの表記ゆれも多かったですね。


【余談】

 鶏卵を使うソースばかりが書かれているのは、サラダ油やオリーブオイルなどが一般的ではなかったからかな? フレンチドレッシングとか、シーザードレッシングとかは入ってこなかったのかしら?

 と思っていたら、明治44年の本にはすでにサラド油という表記がありました。

 サラダ油の元祖を名乗る日清が商品としてサラダ油を出したのは大正のことだそうなので、果たしてそれまでのサラド油とはなんだったのか? 謎が深まってしまいました。

 当時の植物性油と考えると、菜種油あたりだったのでしょうか……?


「最新野菜料理法 : 実地経験 一名・台所重宝記」

https://dl.ndl.go.jp/pid/849025/1/30



 次回はお着物の話でも。

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