第2章 銀紫に映る真実
第1話 戦の余韻と扉前の火花
ーー戦いは終わった。
だが《後始末》は長い。
三日三晩、冒険者も騎士団も必死に残党を追い払いようやく街に静けさが戻った今朝。
王城では緊急会議が開かれることになった。
その大扉の前でーー
「ちょっと、ユウを勝手に連れてかないで!」
「……離しません」
赤髪を高く束ねた剣士カレンと、白いメイド服に栗色の三つ編みを揺らす少女エマ。
二人の少女に両腕を引っ張られているのはーー金色の瞳に涙を浮かべるユウだった。
「や、やめてってば……服、伸びちゃうからっ!」
必死に訴えるが二人の手は緩まない。
視線が交錯し無言の火花が散った。
前線を率いて魔族に立ち向かった勇敢な剣士。
戦場に突如現れ大魔法を「邪魔」の一言で吹き飛ばした謎のメイド。
ーーどちらも名を残すほどの功績を立てながら、今は一人の少女を奪い合っている。
(……誰が見ても可愛い子を取り合ってる光景にしか見えないな)
遠目に眺めていたマリアは腕を組みながら思わず口元を緩める。
白い肌、細い手足、潤んだ瞳で困り顔ーー
女の子にしか見えないユウが引っ張られている図は、つい先ほどまで血煙と魔力の奔流が渦巻いていた戦場の光景とはあまりにかけ離れていて、思わず力が抜ける。
(……平和だなぁ)
張り詰めていた心が、少しだけほどけていく。
そんなマリアに、不意に落ち着いた低い声が届いた。
「……君は、相変わらず冷静だな」
振り向けば黒髪をターバンのように巻いた痩身の男。
砂漠風の衣を纏い、鋭い瞳でこちらを値踏みするように見ていた。
《金砂の梟》頭領ーーザヒール・アシュファル。
以前から何かと声をかけてくる、腹の底を見せぬ策士だ。
「君ほどの才なら、うちに来ればすぐにAランクにしてやろう。最高の待遇を約束する。……考えてみる気はないか?」
唐突すぎる勧誘に、マリアは一瞬目を瞬かせた。
すぐ後ろでセリアが動こうとするのを手で制し、深く息を吸う。
「ーー申し訳ありません。
お気持ちは大変嬉しいのですが、私は《暁の翼》の一員です。仲間とここで生きていきます」
短く、だが凛とした声。
その答えにザヒールは口角をわずかに上げただけで、深追いはしなかった。
「……なるほど、その若さで芯もあるか。今日は一旦引こう」
マリアが会釈すると、彼は煙のように人混みへ紛れていった。
セリアはその横顔を見て、微かに目を細める。
「……成長したわね」
娘を誇るように静かに微笑んだ。
窓から差し込む朝の光が彼女の横顔を淡く縁取る。
ついこの前まで幼さを残していたはずの顔立ちは凛々しく、どこか美しささえ漂わせていた。
他ギルドの頭領と堂々と渡り合う姿に、セリアは感慨に耽ける。
ーーこの会議が、娘の未来を大きく変えることになると知らぬままに。
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