第3話 赤髪の剣士が見た光
湿った夜気が頬をかすめる。
人気のない森のなかただ何となく――いや、足が勝手に前へ進んでいく。
理由はわからない。胸の奥で淡く脈打つ感覚がどこかへと導くように全身を引き寄せていた。
自分の意思じゃない、けど抗おうという気持ちもなぜか湧かなかった。
その時――
(だれか……!)
声ではなかった。耳で聞いたわけじゃないのにはっきりと頭の中に響いた。
誰かが必死に助けを求めている、考えるより先に私は駆け出していた。
枝を蹴り飛ばし湿った土を踏みしめる。
夜気が一気に肺に流れこみ胸が焼けるほど熱くなる。
暗闇のなかを走るたび、革鎧がわずかに擦れ腰の剣が低く鳴いた。
遠くでかすかな足音と湿った息づかい――それが近づいてくる。
最後の茂みを抜けた瞬間、視界の奥で影がうごめいた。
月明かりの届かない闇のなか獣の牙がわずかに光る。
少女へ飛びかかろうとしたその背に体は勝手に動いていた。
剣が走り銀の軌跡が夜を裂く。
一拍遅れて、低いうなり声と血の匂いが広がった。
驚くほど軽い――自分でも信じられないほどの速さと力だった。
剣先から温かい滴が地面に落ち湿った土を暗く染めた。
呼吸が荒い。けど胸の奥を満たしているのは疲れではなく、妙な高揚感だった。
――やけに体が軽かった。まるで何かに引っ張られるように、迷いなく剣を振れた。
血の匂いが薄れ静けさが戻ったころ――私は彼女を見た。
月明かりがわずかに差し込み、その光の中で白銀の髪が柔らかく揺れる。
金がほんのり混じったその色は夜気に溶けながらも淡く輝き、額に留められた銀色の髪飾りがひそやかに光を返す。
風に揺れる髪が頬にかかるたび、その奥の瞳がのぞく。
――黄金。
金属のような光沢を帯びた瞳は怯えているはずなのに消えない光を宿し、視線を奪って離さない。
血と土の匂いに満ちた闇のなかで、そこだけが別の世界の光景のようだった
気づけば胸の奥がじんわりと熱くなる、理由はわからない。ただ離しちゃいけない――その感情だけが、はっきりとあった。
「……怪我は、ない?」
声がわずかに震える。戦闘直後だから――そう言い聞かせる。
差し出した手を小さな手が恐る恐る握り返す。
滑らかで、けれど奥に薄い硬さを秘めた感触。
一瞬、強く握りすぎたかと思ったそのとき、ぎゅっと握り返されて胸が跳ねた。
「……行こう。夜の森は危ないから」
視線を逸らし少し早足で歩き出す。
背後からついてくる足音が、なぜか耳から離れなかった。
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