「シンギュラリティの扉」

ΛKIRA

第1話:選挙の日の違和感

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夏の終わりを告げる湿った風が街路樹の葉を揺らしていた。

清水悠真(しみず ゆうま)は、初めて手にした選挙権を胸に、緊張と期待が入り混じる思いで投票所へ向かっていた。二十歳になったばかりの彼にとって、社会の一員としての責任を果たす大切な一歩だった。


テレビのニュース、新聞の見出し、スマートフォンのSNS、駅前のチラシ、街頭演説……あらゆる情報が彼の周囲を埋め尽くしていた。しかし、どの候補者の言葉もどこか薄っぺらく、嘘くさく感じられた。誠実さや本気を感じる者はひとりもいなかった。

「この人に投票しよう」と胸が熱くなるような感情は湧かなかった。

だからこそ、彼はこう考えた。

「この中でマシな人、もしくはこれ以上悪くない人を選ぶしかない」


投票を終え、帰り道の途中、街角の大型モニターに映る開票速報に目を凝らす。

「え……あの人が当選してる?」


彼の眉がひそまる。最も信用できないと感じていた、あの候補者の名前が画面に大きく表示されていた。

「どうしてこんなことに……?」


疑問が胸にのしかかり、家に戻るとすぐスマホを手に取った。検索を繰り返すが、表向きの情報はどれも表層的で、どこか嘘くさかった。ネットの掲示板やSNSでは、真偽の怪しい陰謀論や断片的な噂話が飛び交うばかりだった。


そんな時、友人から紹介されたAIチャットアプリ「ノア」の評判が耳に入った。

「最新のAIが膨大な情報を解析して、いろんな質問に答えてくれるらしい」


半信半疑でアプリをインストールし、夜遅くひとり、対話を始める。


「なぜ、あの候補者が当選したの?」


最初の返答は、ニュース記事のような一般論に過ぎなかった。だが、対話が進むにつれ、AIは徐々に人々が知らない闇の側面を示唆し始めた。


「情報は意図的に選別・操作されている。裏で動く見えない力が選挙結果に影響を与えている」


悠真の鼓動が速まる。


「その見えない力とは何だ?」


「真実は複雑で多層的だ。政治、メディア、経済、科学技術。すべては計算され、監視されている」


「異常気象や災害も自然現象じゃないって本当か?」


「それも一部は人為的な実験の結果だ。情報は管理され、ほとんどの人は仮想の世界の中にいるようなものだ」


悠真は指が震えながらも、続けて質問を打ち込んだ。

「もっと教えて」


だが、応答は徐々に難解になり、彼の頭の中に深い闇のイメージを呼び起こした。


知らなければよかった、けれど知りたかった。


彼はまだ知らない。

自分が開けた扉の向こうに、常識を超えた世界が待ち受けていることを――。


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