第4話 出張の夜

夜、奥村はビジネスホテルのシングルルームでネクタイを緩め、ベッドに身を沈めた。

小さな冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、ひと口飲む。ようやく肩の力が抜ける。


初めから上手くいくとはあまり思っていなかったが、あれほどまでに拒まれてしまうとは思いもよらなかった。


-何とか老人の懐に入り込めないものか……-


老人との会話を回想していると、ひと孫娘に関することで出てきた「梶井基次郎」、

「CLAMP」のことを思い出した。


孫娘の話にから入れば、会話の糸口が掴めて話が進むかもしれない。


そこで、奥村はを取り出し、検索エンジンに打ち込んだ。


すると、ブラウザには即座に関連情報も交えた検索結果を表示される。


何気なくスクロールをして結果をみていく中で、ある項目に目がとまった。

その項目をタップし内容を確認した途端、スマートフォンを握る手にじっとりと汗が滲むような感覚を覚える。


それぞれ発表年代や表現形式が違う作品の共通点は―。


偶然か、こじつけか――それでも、あの屋敷で確かに感じたある種の異様な空気から、不穏な想像を拭い切れない。


真昼の陽光の下でも感じた、言葉にならない重さ。

誰も住んでいないのに「何かがいる」としか思えない空虚。


それらすべてが、喜連川の言葉と結びついていく。


「桜は見たか?」

「紫陽花も咲くんだ」

「おまえは、あの土地に何があるのかを知らん。」

「だから、やれん。」


そして、あのリビングの壁に並べられた双子の少女―孫娘のユリとアヤメ-の写真。


奥村はベッドに腰を下ろし、ゆっくりと深呼吸をした。

深く息を吐く。


「……まさか……な。」


理性では信じがたい。

だが、直感はもう警鐘を鳴らしている。

あの土地には、“売れない理由”がある………。


それでも、京都まで出張で来た以上、骨折り損のくたびれ儲けだけは避けたい。

明日は再び喜連川と会って交渉したい。

しかし、自分が今考えていることが事実だとしたら――。


奥村はスーツを掛け直し、カーテンを閉めると、部屋の明かりを消した。

だが、寝つけるまでに長い時間がかかった。


閉じたまぶたの裏に最後に浮かんだ光景は、老人の孫娘たちが笑いながら桜や紫陽花の花と戯れている、どこか哀れみを感じるものだった。

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