第3話 復讐しょう、そうしょう。

 当たり前だが、アリスティルは今まで料理なんてした事がなかった。


 だからどれだけ食材が目の前に有ろうと、ただがむしゃらにむさぼり食うだけだった。


 とりあえず味は二の次であり、腹を満たす事だけを考えて手と口を動かしていた。


 とはいえ、


「不味い。料理って難しそうよね。調味料とかよくわかんないし。なにぬねの? だっけ?」


 まぁ、おいおい覚えれば良いかっと考えてアリスティルは一度外に戻った。


 まだ雨は降り続いてた。


 もう動かなくなった男を、力いっぱい引っ張って酒場の中にしまった。


 流石に死体が転がってたら騒ぎなるし、それじゃゆっくり眠れないと考えての行動だった。


 雨のお陰で男の体は滑ってなんとなく運びやすい気がしたし、なにより血を洗いがしてくれるから、ラッキーとか考えてアリスティルは扉を閉めた。


 流石にびしょ濡れの服は気持ち悪いので、男が使っていたのだろう火が灯っているランプをかざして、酒場の中をテキトーに歩き回れば、二階に続く階段を見つける事が出来た。


 どうやら一階が酒場で、二階が男の自宅として使われているらしかった。


 アリスティルは厨房から持ってきた包丁を片手に、ランプの柄を口にくわて、無造作に部屋のドアを次々と開けていく。



「なーんだ。家族は居ないのか。まぁ、私を手籠にしようとか考えるくらいだから、それはそうかもね。


 ん? ってことは、着替はあの男の物しかないのか」



 アリスティルは盛大にため息をついて、包丁を投げ捨てた。


 案の定、タンスには男物の服しかなく、となると下着なんてあるわけもなく。



「クソ、女装趣味とか持ってろよろな」



 とか呟きながら仕方なく、服と下着を取り出すと、見つけていた風呂場に向かった。


 流石にゆっくりと湯を沸かす時間はないかと考えて、アリスティルは軽くシャワーで済ませてから、服を着替えた。


 男の臭いが染み着いたベッドで寝るのは、服を着る以上に抵抗というか、嫌悪感しかなかったので、固い床で寝る事にした。


 目を瞑ってみれば、思う事はただ一つだった。


 フカフカのベッドって寝てるヤツが憎い。


 なんの気なしに、いつもと代わらない明日が来るとか、考えているやつを殺したい。


 こんな目にあってるのもすべて、両親が、妹が、この街の住人全ての所為で、必ず復讐してやる。っと。


 そんな事を考えながら、アリスティルは眠りに落ちていった。


 ……。


 …………。


 おもむろに目を開けた。


 カーテンの隙間から朝日が射し込んでいた。


 床なんかで寝たせいで、どうにも体が痛かったが、アリスティルはそんな事はどうでも良かった。


 それよりも重要な事があったのだ。


 これといった信憑性はないが、夢を見たのだ。


 この『復讐ざまぁ』のスキルの使い方の夢を。


 なんでもこのスキルは、アリスティル、自分がコイツムカつくとか、私がこんな目に合ってるのになんで、とか思えば勝手に発動するらしい。


 そうして発動すれば、アリスティルがいい気味だと思える結果を勝手に創り出すそうだ。


 そんな事があり得るのか? と問われればアリスティルも簡単には頷けないが、だからと言って自分のスキルの使用方法がわからないのだから、夢を信じたところで問題は無いだろう。


 間違っていたとしても、別に困る事は今のところも無いしね。


 そう楽観的に考えてながら、アリスティルは朝食を取るために一階に降りていった。


 昨日と同じで、機械的に食材を口に運んでいく。


 味を忘れる為に、これからの事を考えるアリスティルだが、もし本当に思うだけで発動するスキルなら、自分からする事なんてなにも無いのだ。



「さて、どうしようかしら? せっかくなら自分の手で復讐はしたいものだけど……」



 まるまる一個のキャベツを噛りなが、アリスティルは考える。


 勝手に発動するとしても、もし私がその復讐の為に動けば、その行動も加味されるかも知れない。


 ものは試しというし、これからの事を考えるなら試行錯誤は必要だろう。



「となれば善は急げというしね」



 いい加減飽きてきたキャベツを放り投げると、アリスティルは街を出る準備の為に、また酒場の中を漁り出した。


 街の外に凶悪なモンスターや、賊が出るって聞いてたので、出来れば剣とか、武器になる物か欲しかったのだが、調理器具と食材、後はやっすい酒しか置いてなかった。



「チッ、しけてるな。もっと良いもの用意しとけよ」



 目当ての物がなにもない腹いせに、アリスティルは酒場の主の死体を蹴飛ばすと、堂々と表の扉から外に出た。


 もう貴族とわかる格好もしていないし、というか男みたい格好をしているのだから、アリスティル・スタンホォードだとは気づかれないだろうと考えての事だった。


 まぁ一応紐で括ってはいるが、長い金髪はそのままだったりするんだけど。


 それももしスキルがちゃんと発動しているのなら、この程度の変装で簡単に街を出られるとか、どいつもこいつも無能だな、って私が笑える展開になるはずだと試す為の意味もあった。


 で、街はそれぞれ東西南北に門がしかれていて、通行人をチェックしているのだが、スキルのお陰か肩透かしって程に簡単に通り抜けられた。


 というか、アリスティルが来た北門は誰の姿も見えなかった。


 門番はもちろん、そこを通るだろう商人や荷馬車、ついで言えば我が身を商品とする傭兵や冒険者すらも見当たらなかった。



「……なんだろ、スキルの効果だとは思うんだけど。なんか、よく今まで平和に生活出来てましたよね、この街。今さら治安が心配になってきたんだけど」



 遠くなった街を眺めて、アリスティルは乾いた笑みを浮かべた。


 これから復讐する街の治安なんて、心配するだけ無駄な行為なのだ。


 それでそんな事を思うのは、自分のどこかに罪悪感が残っているからも知れない。



「馬鹿馬鹿しい。これはきっと、私が戻ってくる前に滅ばないか心配してる……ってだけね」



 アリスティルは前を向いて歩き出した。


 目指すは近くの大都市だ。


 そこで力を蓄えてから、きっちり復讐してやるか、それまでせいぜい幸せに暮らしていれば良い。


 二度振り返る事はなく、アリスティルは歩を進めていった。




 

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