貰ったスキルでマッチポンプの復讐ざまぁ
水無月/成瀬
追放によるざまぁ編
第1話 理不尽な追放劇
「え? もう一度言ってくれますか?」
アリスティル・スタンホォードはそう思わず聞き返してしまった。
彼女は今年十五歳になり、一年に一度国から洗礼を授けに来てくれる司教さまから、『スキル』を授けもらう事になっていた。
「……もう一度言いますが、貴方が神から授けられたスキルは『復讐ざまぁ』です」
「…………その、申し訳ないのですが司教さま。復讐ざまぁとは一体どういったスキルになるのでしょうか?」
司教は渋面に顔をくもらせ、
「分かりませぬ。そんなスキルは聞いた事がないのです。ただ、神が不要なスキルを与える事はあり得ないのです。ですから、それスキルはきっと貴方に必要なスキルとなるはずですよ」
苦し紛れなのか、そんな答えになってない事を言ってくる。
周りにいた、他にスキルを貰う子供たちや、その親がヒソヒソと話だす。
司教ですら聞いた事が無いというスキルと、それを貰ってしまったアリスティルを怪訝な表情を隠そうとせず見つめくる。
誰かが唐突に言った。
「復讐なんて文字がつく、そんな恐ろしいスキルを神さまがくれるだろうか?」
その言葉が引き金となり、ヒソヒソ声はザワザワと大きくなっていった。
「そうだよな、普通スキルってのは『剣術』とか『魔法』とか、その人の才能を補助する物だもんな」
「確かにそうだ。『復讐ざまぁ』なんて、スキルとして成立してないぞ」
「なら、アレはスキルじゃないのか?」
「……もしかしたら、神さまじゃなくて、悪魔から貰ったんじゃないか? 復讐なんて、それこそ悪魔って感じだろう?」
その一言は、周囲の人にすんなりと受け入れられてしまった。
そうだ。それしかない。あぁ、悪魔に魅入られているんだ。
そんな声だけが大きくなっていく。
とはいえ、そんな悪魔とか、魅入られているとか、アリスティルに一切身に覚えすらあるわけなく。
そもそも彼女はただ国で決まった年齢に達したからスキルを貰いに来ただけなのだから。
救いを求めるように司祭さまを見れば、ゆっくり後ずさっており、アリスティルと目が合えば踵を返して逃げ出してしまった。
「ま、待ってください司教さま!」
思わず手を伸ばすが、なにも掴めず空を切るだけ。
そして司教が逃げたい事で、周囲の人たちは完全にアリスティルを忌避の目で見つめる事になった。
誰と目が合っても視線を逸らされ、下手をしたら叫んで逃げられてしまう。
すでにこの場合は混沌とかし、アリスティルには誤解を解く事すら出来そうになかった。
アリスティルは刺さる負の視線から逃れるように駆け出した。
脇目も振らず走って、走って、自分の家にたどり着いた。
彼女はこの街の管理を任されている男爵の娘だった。
だから父親なら、自分のスキルの誤解を解いてくれると信じて帰ってきたのだが……。
屋敷に入るための大きな門は、鍵がしまっており開く事がなかった。
「開けてください! アリスティルが帰ってきました。 お父さま!」
冷たい鉄格子を掴んで叫ぶアリスティルに、答えたのは物心がつく前から父親に使えていた執事長のダートだった。
「申し訳ありませんが、お嬢さま。旦那さまのご命令でお嬢さまを敷地内に入れる事は出来ません。どうか、この場はお帰りください」
深々と頭を下げるダート。
「帰れ? いったいどこに帰れと言うのですか? わたくしの家はここのはずです! わたくしの帰る場所はここしかありません。 ダートと早く開けない!」
叫び、命令するアリスティルに、ダートは頭を上げると一転嫌悪した目を向ける。
なにか口を開こうとしたところで、ヒトリの少女が屋敷から歩いて来た。
それはアリスティルの妹、ルイスだった。
「なにを騒いでいるのダート。煩くて紅茶を楽しむ気分が台無しよ」
「ルイス! お願い、早く門を開けるようにダートに言って!」
声をかけられたルイスは、まるで今気づいたのようにアリスティルの方を向いた。
「どちら様かしら? 馴れ馴れしいわたしの名前を呼ばないでくれないかしら」
「なにを言ってるの? 貴方の姉のアリスティルよ。冗談は止めてよ!」
ルイスは芝居がかった仕草で指を頬に当てて考える素振りをみせながら、
「アリスティル? そういえば確かにそんな名前の姉がいましたね。でも、悪魔にスキルを貰ったらしくて、お父さまが勘当しましたから、もう我が家とは一切関係のない一人ですわ。
今はどこでなにしているんでしょうね? まぁ知った事ではありませんが」
そこでアリスティルを真正面に見つめて、ルイスは心底楽しそうに顔を歪める。
「アナタ、もし姉に会う事があったら伝えといてくれます。わたしは前々からお姉さまが嫌いでしたと。
なんでもわたしより上手に出来て、いっつも両親に褒められるのはアナタだった。わたしはそれが憎くて憎くて仕方なかったって。
我が家はわたしがしっかり守りますから、無様に死んでくれる事を願っていると、伝えてくれます?」
クスクスと笑い、それだ言ってルイスは踵を返した。
振り返る事すらなく、屋敷に入っていく妹をアリスティルは呆然と見つめる事しか出来なかった。
「これ以上、スタンホォード家の名を汚す前に、自死する事が一番の親孝行になるかと思いますよ。アリスティルお嬢さま……いえ、もうお嬢さまではありませんでしたね。
さぁ、さっさと消えてください。出来れば暴力は振るいたくはありませんから」
追い打ちをかけるように、それだけ言ってダートを身を翻して消えていく。
短時間でいろんな事が起こりすぎて、アリスティルの頭はパンクしてしまいそうだった。
「なんでも出来てって、わたくしはお父さまたちの期待に答える為に必死に努力をしていたのよ。ルイス、貴方こそなにしないでお父さまや、お母さんからあんなに愛されいたじゃない。わたくしはそれが羨ましかった…………」
出てきた言葉は、それだけだった。
ポツリ、ポツリと雨が降り出し、バケツをひっくり返したような豪雨になっても、アリスティルは門から動けずにいた。
もしかしたら、お母さんが助けに来てくれんじゃないかと、妹が言った事は全て嘘で……いや、今は悪夢の最中で、目が覚めればいつも日常が戻ってくるんじゃないかと、そんな希望を捨てられずに。
アリスティルが諦めて門から動いたのは、それから何時間も経っての事だった。
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