[Thread Story]13階シリーズ:新入社員・大川 由紀の場合
風光
Thread 01|案内されたフロア
入社当日。
自分の名前が載った社員リストを見つけるが、記載は10年前の日付で──。
******
就活に失敗し続けて、やっと拾ってくれた会社。
事業拡大中の自然派飲料メーカー。
元々希望していたのはライバル会社の方だったが、そんなことは口が裂けても言えないことだ。
都内に自社ビルを持っているんだから十分よ、と朝イチで母からメールが届いていた。
思ったより電車乗り換えの接続が良く、予定よりだいぶ早く着いた。
7時40分。
受付は8時からと案内に書いてあったが、すでに正面玄関横の受付には女性が座っていた。
「今日からお世話になります。新入社員の大川由紀です!」
受付でそう告げると、広いホールに由紀の声は大きく響いた。
受付の女性はその声に驚いたように、キョロキョロとあたりを見回した。
ちらほら歩いている社員らしき人たちは、由紀の声など気に掛けず、社員証でゲートを通過して中央のエレベーターホールへ向かう。
「新人さん?ちょっと私は聞いてないんですけど……あ、じゃあ……13階に……」
少し戸惑った顔の女性は、エレベーターホールへ由紀を招き入れた。
二人でエレベーターに乗り込む。
由紀は何気なくエレベーターのパネルを見た。
(え?さっきこの女性、13階、って言ってたよね…?)
エレベーターのパネルに13階が見つからない。
女性を見ると、変わらず戸惑うような素振りのまま、頭上に表示されるフロア回数をじっと見つめている。
由紀が目を凝らすと、【12】の横にかすれた文字で【13】があった。
意識して見なければ見えないような……そんな場所。
誰かが爪で引っ搔いて書いた?
チラリとそう思い浮かんだ時、エレベーターは目的階への到着を告げた。
扉が開いた先は、少し埃っぽい空気の、静かなフロアだった。
誰もいない、古いデスク。使われていない複合機。
でも、なぜか懐かしいような、胸が落ち着く雰囲気があった。
少し歩いた先に共有スペースがあり、この古めかしいフロアには似つかわしくないカジュアルでカラフルな折りたたみ椅子が並べられていた。
「しばらく、ここで待っててくださいね」とだけ言い残し、案内の女性は姿を消した。
私が一番乗りみたいね。
由紀は日課であるニュースアプリのチェックを始めた。
入社早々に、数年後の転職を考えて自分を磨く。
由紀にとってこのユナウェルは、一時的な腰掛け会社でしかなかった。
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