第4話「火花、散る」

 和泉 百希夜によって救われたユキとカレン。


 そこで彼女たちは、《夢》の中に囚われていたという、あまりに衝撃的な真実を知らされる。


 そして明かされる《開現師》《鬼夢》《悪鬼》の存在――


 いよいよ物語は、主人公たちとの邂逅を経て、核心へと迫っていきます。


 夢幻開現師:第四話「火花、散る」

 本編、どうぞお楽しみください。




   ◇  ◇  ◇




 廊下を歩く少年の背中を追いながら、ユキの中には疑問が渦巻いていた。


「ねえ、さっきのアイツって何!? ここって一体どこなの!? それに、あんたはいったい……!」


 怒りと不安が入り混じった声で、ユキは矢継ぎ早に問いかける。

 少年は振り返らず、淡々とした口調で言った。


「質問が多いな」


 その言い草に、ユキの苛立ちはさらに募った。


 少年の年齢は自分たちと同じくらいに見える。

 けれど、異常な空間にいながら落ち着き払った態度は、明らかに“場慣れ”している。


「……最初に名乗っておこう。俺の名前は――和泉 百希夜いずみ ときや。君たちの両親から依頼を受けて、ここに来た」


「依頼……?」


「あんたたちは、“夢”の中に閉じ込められてるんだ」


「ゆ、夢……?」


「ちなみに、もう三日間眠りっぱなしだってさ」


 和泉は、ようやく振り返って言った。


「俺たちは、夢に囚われた人間を現実に引き戻す者。……開現師かいげんしって呼ばれてる」


「開現師……?」


 ユキは呆然と口を開けたまま、言葉が出てこなかった。


 その時――ふわりと空中に、小さな“光の珠”が現れた。


『和泉くん、もう少し丁寧に説明してあげないと』


 落ち着いた女性の声が、珠の中から響く。


「えっ……!? なにこれ……!」


 驚くユキの目の前で、珠がゆっくりと揺れた。


『驚かせてごめんなさい。私は七瀬 花奈ななせ かな。今あなたが見ているそれは、“慧珠えじゅ”と呼ばれるもの。簡単に言えば、現実にいる私が、夢の中のあなたたちと会話をするための端末のようなものと思ってください』


 彼女の声は柔らかく、どこか安心感があった。


『あなたたちは今、“夢”を見ている状態なんです』


「夢……」


『ええ、ただしこれは普通の夢ではありません。“悪鬼”という存在が作り出した異常空間――私たちはこれを”鬼夢おにむ”と呼んでいます』


「鬼夢……」


 その言葉を聞いただけで、背筋に冷たいものが走る。


『鬼夢とは、悪鬼が作り出す異界です。他者の意識を閉じ込め、じわじわと精神を蝕んでいく。その中で人は壊れ、やがて目覚めることもできなくなるのです』


 ユキは隣にいるカレンの顔を見た。

 彼女は青ざめた顔で、完全に言葉を失っていた。


「じゃあ……さっきの、あの小さいやつは?」


「あれは“亜羊あよう”。悪鬼が作り出す使い魔のような存在さ」


 和泉が、軽く答えた。


『でも安心してください。私たちは、あなたたちをここから救い出すために来ました』


 七瀬の声には、不思議と希望を感じさせる力があった。


 だが――


「ただし、問題がひとつある」


 和泉の声が、わずかに低くなる。


「まだ、“本体”――つまり、この鬼夢を作った“悪鬼”が姿を現していない」


『あなたたちが見たという“怪人・赤マント”。おそらく、もともとはただの都市伝説だったものを、悪鬼となった誰かが模倣したのでしょう』


「つまり……そいつを倒さないと、目を覚ませないってこと?」


「その通り」


 和泉は頷き、続ける。


「しかも、あんたたち以外にも、まだ数人がこの鬼夢に取り込まれてる」


 ユキの脳裏に、ミキや他の友人たちの顔がよぎる。


「ねえ、みんなは……助かるの? どうなるの?」


 和泉は少し黙ったあと、静かに言った。


「助けるさ。……でも、悪鬼が姿を現さない限り、どうにもできない」


「そんな……!」


 絶望が、胸を締めつける。


 その時――和泉が、ぴたりと足を止めた。


「……でも、案外、もうすぐ出てくるかもな」


 その視線の先。

 廊下の奥が、黒くうねりはじめていた。


 そこから、さっきの“亜羊”たちが、群れをなして現れる。


「どうやら、侵入者を排除したいらしいな」


 和泉が小さく笑う。

 直後、一体の亜羊が音もなく跳びかかってくる。


 それを、和泉はためらいなく殴り飛ばした。

 壁に叩きつけられた小鬼は、黒い霧となって弾け、消える。


 だがその瞬間――残りの亜羊たちが、一斉に突進してきた。


「いやあああああああ!!」


 それまで黙っていたカレンが、突如絶叫し、その場から走り出してしまった。


「カレン! 待って!」


 ユキも慌てて追いかける。


「おい! 勝手に離れるな!」


 和泉の叫びも虚しく、二人の姿は闇に飲まれていった。


「七瀬さん!」


『任せて!』


 慧珠が光の尾を引いて、少女たちの後を追っていく。


「……まあ、七瀬さんがいれば安心か。こっちは――とっとと片付けるとしますか」


 和泉が静かに構えを取った。

 その瞬間――彼の周囲に、炎が立ち上がる。


 手を振ると、燃え盛る火炎が廊下を駆け抜け、闇を切り裂いた。


 黒き異界の一角が、真紅の光に包まれる――。




   ◇  ◇  ◇




【次回予告】


 逃げ出したカレンを追って、闇の中を駆けるユキ。


 しかし、その先に待つのは――“赤マント”との邂逅。


 姿なき怪異の正体が、ついに露わとなる時、

 少女たちは「恐怖」と「真実」に直面することになる。


 次回、夢幻開現師:第五話「赤マントの正体」

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