特救ロボ グノーシス~プロローグ~
本歌取安
第1話 古木の下で
その青空は、まるで無限のキャンバスのように広がり、月へ向かう船がその中央に一本の細い光線を走らせる。
軌道へと上昇してゆく輸送船――銀白の船体が青から闇へと色を変えながら、静かに空を切り裂いていた。
フラワー連邦共和国――自由・平等・民主主義を掲げて、かつて海の向こうにある王国の支配に抗して建国された国。
カメラのような視線がゆっくりと地上へ降りてくる。
そこは緑に包まれた都市の一角、大きな公園だった。
古く太い一本の木。
その幹に背を預け、一人の女性が腰を下ろしている。
年の頃は二十代半ば、長い黒髪をゆるく束ね、その瞳は穏やかな光を宿していた。
そんな彼女を取り囲むように、さまざまな肌の色や髪の色をした子どもたちが輪を作って座っていた。
十二人。
年齢も民族もバラバラだが、全員が目を輝かせて彼女を見つめている。
「ねえ、今日のお話はなに?」
「ねえ、お姫さまのお話がいい〜!」
「オレはもっとバトル! ロボとか出てくるやつ!」
「うん、ヒーローが悪いヤツをやっつけるお話がいいな!」
無邪気な声に、彼女は静かに微笑んだ。
「じゃあ今日は……とびきりかっこいいお話にしましょうか。ずっと、ずっと昔のこと――でも、忘れちゃいけないお話よ」
そう言って彼女は目を閉じ、語り始める。
まるで誰かの記憶を辿るかのように、ゆっくりと、確かに。
「これはね、人間を愛し、市民の自由と平和を守ったロボットと一人の女の子のお話よ」
「―――むかし、むかし、この国ではね、働いても、働いてもパンが食べられない人、家が無くて寒くて震えている人がたくさんいたの。みんなだったら、そんな人をみたらどうする?」
そういって、子供達を見回す彼女。
「えー、そんなのかわいそうだよ」
「あたしだったら、お菓子分けてあげる!」
口々に返答する子供達を見て彼女は穏やかに微笑むと、またゆっくりと話し始めた。
「みんな優しいね。だけどむかしのお金を持つ人達や、お菓子を食べきれないくらい持っている人達は、誰も助けないどころか、困っている人達に努力しないのがいけないんだって怒って助けようとしなかったの」
子どもたちは静かに聞き入る。
絵本とは違う、どこか生々しい重みがその言葉にあった。
「そんな時、“アンドリュー”という男が現れて彼は言ったの。『皆が困っているのは、ダーク・ステートっていう悪い人達がいて、裏で国を操る連中が原因だ』って。
そして、困っていたみんなのおじいちゃん、おばあちゃんはアンドリューに助けを求めて、彼を大統領にしたのよ」
「正義の味方だったの?」と子どもが尋ねる。
「最初はそう見えたかもしれない。でもね……大統領になっても、困っている人達を助けないどころか、助けないのはおかしいと言った人達を捕まえ始めた。言論も法律も、全部自分のものにしてしまった。だんだん、誰も何も言えなくなったのよ」
「えー! それって悪い人じゃん!」
「そう。でももっと悪いのは――アンドリューの背後にいる“悪の組織”、ホリテージ財団だったの」
彼女の声が少し低くなり、聞いていた子どもたちも息を呑んだ。
「彼らは“神様”を作ろうとしたの。神様と言っても本当の神様じゃない。とても賢いAIよ。そして、人間の感情や自由はいらない、神に従わない人間は排除すると言ったの」
一人の少年が震える声で尋ねる。
「じゃあ、誰も助けてくれなかったの?」
女性は一瞬空を見上げ、答えた。
「……ある日、街で声をあげる人たちがいた。武器も持たず、ただ声だけで。でもアンドリューは、その人たちを殺すためにアンドロイド達を送り込んだのよ」
ざわりと、子どもたちの顔がこわばる。
「アンドロイド達は無慈悲に進み、人々に銃口を向けた。その中に一人の少女がい
た。名前はジェミニ・トワイライト。彼女のすぐ前に、アンドロイドが迫ったとき――」
彼女はそこで言葉を切る。
ちょうど輸送船の尾が雲間に消えていく。
子どもたちは思わず身を乗り出した。
「そこに――奇跡のような存在が現れたの」
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